第3回 閉鎖施設の有効利用
大規模商業施設の有効利用(2) 事例と有効利用策
高井宏之
(名城大学理工学部建築学科 教授)
 今回は、閉鎖された大規模商業施設の具体的な事例を通して、有効利用の方策を展望する。紹介する事例は、前回の図5に示した「再利用の現用途」としての大規模物販店Ⅰ~Ⅲ、および用途変更から1例ずつ抽出した。
有効利用された4事例
 事例Aは、旧施設・現施設ともに核用途が総合スーパーという同業態である。しかし、得意とする部門や店舗空間計画の考え方は企業によって異なり、什器レイアウトの大幅な変更と、食品売場拡張のためバックヤード縮小を行った。ただ、建物中央にるエスカレーターが食品売場拡大の制約となった。また、1階の食品売場と同じ階にできるだけ多くの駐車場があることが重要との考えから、旧1階店舗の一部を開放型の駐車場に変更した。なお、3階は空間の形態が特殊であるため後継テナントが見つからず空きスペースとなっていた。
 たとえ同業態への変更であっても、平面計画の制約となる「店舗−バックヤード」の線引きの自由度や縦動線の位置は、再利用を促すための一つのポイントとなるようだ。
 事例Bは、総合スーパーを屋内型の輸入中古車センターとして再利用した事例である。売場であった大空間を中古車の展示スペースとし、壁際にカー用品店、レストラン、キッズコーナー、および内部の様子が見て取れる修理工場を設けた。バックヤードは中古車の補修・点検スペースとし、旧荷さばきスペースから車の搬出入が行われている。
 高い天井高の屋内空間で、中古車は多くの照明を美しく反射し新車と見まがうばかり。動線計画も旧店舗の「バックヤード−売場」の関係を、車の「補修・点検−展示」の関係に転用しており無駄がない。既存空間の特性を周到に生かし、うまく発想の転換が図られている。
 事例Cは、撤退した百貨店を市が土地・建物を取得し、市主導で多様なテナントを多数誘致し床を埋めた事例である。近接する文化ゾーン・商業ゾーンとのネットワークや市民活動の拠点となることを目的に、一部公共の用途も入れている。
 中心市街地の衰退防止と地域の雇用確保を目的に、行政が積極的に関与し成功したケースである。
 事例Dは、総合スーパーの撤退に際し民間の建物所有者が後継テナントを探したが条件が合わず、最終的に直営の遊技場に用途変更した事例である。建物所有者には遊技場経営のノウハウはなかったが、時代の動向分析や他の成功事例の見学などの積極的な情報収集・分析を行った。また同業種との差別化を図るため運営方法にも工夫を行った。
 2 ~ 3階の遊技場は、会員制で遊び放題という形態のため入口を限定する必要があり、多くの出入口は常閉とし、避難時にサムターンで開錠する形とした。また、既存の天井高は遊戯機器の設置には不十分であったが、一部床や天井を上げることによりしのいでいる。
 用途変更では建物所有者も変わる場合が多いが、建物所有者の熱意がそのハードルの高さを克服したケースである。
 なお、本稿では紹介できなかったが、再利用は果たしたものの多くの空きスペースを抱えている事例も少なくない。それらの事例で聞かれた声も踏まえ、以下、閉鎖施設の有効利用策を論じたい。
 図1 事例A  ・再利用後の用途:大規模物販店Ⅰ
          ・所在地:東海地方・地方都市・郊外
          ・開業年:(旧)1998 年→(現)2004 年
          ・全体延床面積:約57,000 ㎡
 図2 事例B  ・再利用後の用途:大規模物販店Ⅱ
          ・所在地:東海地方・大都市・郊外
          ・開業年:(旧)1999 年→(現)2003 年
          ・全体延床面積:約15,000 ㎡

総合スーパー                 総合スーパー

食品スーパー              専門店(中古車センター)    
新設駐車場(旧店舗の一部) 未利用のボーリング場 中古車の展示スペース バックヤードの補修・点検エリア
 図3 事例C  ・再利用後の用途:大規模物販店Ⅲ
          ・所在地:中国地方・地方都市・駅前
          ・開業年:(旧)1992 年→(現)2003 年
          ・全体延床面積:約72,000 ㎡
 図4 事例D  ・再利用後の用途:アミューズメント・サービス施設
          ・所在地:近畿地方・地方都市・郊外
          ・開業年:(旧)1990 年代半ば→(現)2000 年代半ば
          ・全体延床面積:約31,000 ㎡

百貨店                専門店群           







総合スーパー          アミューズメント施設   


男女共同参画センター 書道美術館 2階 ボーリング場(床を上げた) 2階 旧出入り口(通常は常閉へ)
既存ストックの有効利用策
 まずは、現在ある建物を何とかしたいという熱意であろう。事例Cでは行政の、事例Dでは建物所有者の積極的行動が実を結んだ。その際に鍵となるのは、社会・地域の動向把握、既存建物の特性の読み取り、そして何より活用のアイデアである。事例BとDはその好例である。
有効利用されやすい建築
 大規模商業施設の特性としては、大規模、大空間、エレベーターやエスカレーター等の縦動線の存在、一体的・集中型設備システム、そして外壁部への耐震壁設置が挙げられる。大規模であることは再利用のハードルの高さにほかならない。すでに市場を失った施設に対する同等同業態のテナントの誘致は容易ではなく、自ずと従前より小規模な用途の集合体とならざるを得ないであろう。
 このとき、大空間であることは平面計画上の柔軟性に優れているが、障害の第一は縦動線の存在である。縦動線の位置は各階の平面計画上の自由度確保のみならず、利用時間帯が異なる用途が複合する場合にも管理上の問題が発生しない位置が望まれる。
 第二は、設備システムである。空間を分節し個別利用が可能な空調システム、水回りの自由な配置を可能とする給排水システム等の備えが望まれる。最後は、外壁に開口部が増設可能な構造計画、およびゆとりある階高である。これは用途変更の際の新用途の選択の幅を広げることになる。
 以上の通り、長期にわたって有効利用される建築を目指すならば、時代の変化に対応できる新築時のスケルトン計画が肝要であると言えるであろう。
参考文献
1) 小松正人・高井宏之・中村光将:再利用事例の概要・評価と再利用のための要件-閉鎖された大規模商業施設の有効利用に関する研究 その3、日本建築学会大会学術講演梗概集 E-1 分冊、pp.637 - 640、2006
2) 小松正人・高井宏之・中村光将:閉鎖された大規模商業施設の有効利用に関する研究-その4、 閉鎖事例の変化の概要と再利用事例の詳細、日本建築学会東海支部研究発表会、pp.681 - 684、2007
たかい・ひろゆき| 1957 年岡山県生まれ。1982年京都大学大学院修士課程修了、博士(工学)。㈱竹中工務店技術研究所 主任研究員、三重大学工学部建築学科 助教授を経て、2008年より現職。
専門は建築計画・住宅計画。主な共著書に「現代社会とハウジング」(彰国社)、「大規模集合住宅における共用空間・施設の経年変化に関する研究」(.住宅総合研究財団)「建、築・まちづくりの夢をカタチにする力―建築企画事例から考える環境のデザイン」(彰国社)がある。