第2回 閉鎖施設の有効利用
大規模商業施設の有効利用(1) 店舗閉鎖の動向
高井宏之
(名城大学理工学部建築学科 教授)
大規模店舗チェーンの経営破綻
 バブル経済崩壊の影響による大規模店舗チェーンの経営破綻は000年頃に顕在化した。2000年7月のそごうの民事再生法適用申請、2000年9月の長崎屋、そして2001年9月のマイカルグループである。このような動きを受け、閉鎖店舗はその後どのように変化し姿を変えたのか。今回と次回でその実態を紹介する。
図2 市町村別の店舗閉鎖率
図1 地方別の店舗閉鎖率(( )内は事例数:以下同様) 図3 閉鎖店舗の築年数(N=136)
*閉鎖率=閉鎖店舗数/店舗数× 100(店舗数は日本ショッピングセンター協会の都道府県別SC 一覧の店舗数)
店舗閉鎖の全体動向
 2003年半ば、店舗閉鎖の動向を調査した。上記3社に1998年頃から赤字店舗閉鎖を本格化したダイエーグループを加えた4社について227、それ以外で127、計354の店舗を抽出した注1)。また、店舗閉鎖の地域特性を把握するために、各地域の総店舗数に準ずるものとして日本ショッピングセンター協会の店舗数注2)を用い、閉鎖店舗数の全体に対する割合(以下、店舗閉鎖率と略す)を求めた。
 店舗閉鎖率(図1)は「全体」の14%(8.9%+5.0%)であり、地方別では北海道・東北・北陸・九州などの三大都市圏を含まない地方圏で高くなっている。この内訳を4社/4社以外でみると、4社以外の占める割合の大きい地方も見られ、店舗の閉鎖は4社以外のチェーンでも起こっている。
 また市町村別(図2)では「その他の市町村」の方が店舗閉鎖率は高く、これらのことから、大規模店舗の閉鎖は「地方の問題」としての色彩が強いことがわかる。
4社の店舗閉鎖の特性
 上記4社の事例227のうち136事例について、その現況を把握した注3)。
 閉鎖施設の築年数(図3)は「21 年以上30 年以下」が28%と最も多いが、「10年以下」と「11 年以上20 年以下」が計45%であり、築年数の浅い店舗が多数含まれている。また、閉鎖店舗部分の面積(図4)は「5,000㎡以上10,000㎡未満」と「10,000㎡以上15,000㎡未満」が共に28%前後で多い。この規模は、日本ショッピングセンター協会の会員社店舗2704(2005 年12 月末)の、キーテナント平均面積7,289㎡と比べると大きく、4社の事例には比較的大規模な店舗が多いことがわかる。
図4 閉鎖店舗部分の面積(N=136) 表1 閉鎖後の現況(4社)
図5 「再利用」の現用途(N=65)
※再利用=全階数の半分以上が物販店舗であるもの その他=全階数の半分未満が空きスペースであるもの
[用語の定義]
・ 大規模物販店Ⅰ:核となる用途が総合スーパーで再利用されている。
・ 大規模物販店Ⅱ:核となる用途が専門スーパー(家電量販店、ホームセンターなども含める)または専門店で再利用されている。
・ 大規模物販店Ⅲ:核となる用途なしで小規模店舗を集め再利用されている。
・ 百貨店:核となる用途が百貨店で再利用されている。
※「 核となる用途」とは、閉鎖施設の延床面積(面積が明確でない場合は階数とする)の約1/3 以上を使用している事業者とする。
図6 築年数別の現用途(再利用+用途変更+その他)
閉鎖店舗の現況
 閉鎖店舗の現況(表1)は、物販施設としての「再利用」が最も多いが、「遊休化」もかなりの数にのぼる。遊休化が多いのは閉鎖後あまり年数が経過していない時点での調査の影響もあるが、後継店舗の選定が必ずしも容易ではないことの表れであろう注4)。なお、近年着目されつつある「用途変更」は残念ながら少数に留まっている。
 「再利用」については、さらに詳しい内容(図5)を見た。現用途としては、閉鎖前の多数を占める大規模物販店Ⅰが最も多いが、大規模物販店Ⅱと大規模物販店Ⅲも多い。一般に、核店舗の撤退時の対応としては、建物所有者等からまずは同業態・類似規模の核店舗となりうる企業に声をかけるが、大規模物販店Ⅱ・Ⅲではこれがうまく行かず、他の業態やより小規模な店舗を集め空きスペースを埋めている様子が見て取れる。
 一方、用途変更等も含めた現用途を築年数との関係(図6)で見ると、「15年未満」では大規模物販店Ⅰが58%であるのに対し、それ以降はこの割合が大幅に減少し、他業態や用途変更の割合が増大する。このことから、出店後しばらくは当初の店舗構成に見合う商業ポテンシャルが当該立地に存在するものの、築年数にあわせて地域の需要の減少・変化や競合店の進出などが発生し、業態変更や規模縮小を余儀なくされる状況に至っていると理解できる。
店舗の第二の人生
 地域の賑わいの担い手として期待され開店した大規模商業施設も、時間経過の中で地域の需給構造が変化し閉鎖を余儀なくされる。しかし、第二の人生を迎えぬまま空しく時を過ごす事例も少なくない。突破口は何か、建築的課題は何なのか。次回は、再利用・用途変更の具体的事例を紹介し、その傾向と店舗の有効利用策について考察する。

注1) 閉鎖事例の抽出は、4 社については各社のニュースリリースおよび検索エンジン(キーワード=社名×閉鎖)データ、4 社以外については、全国の商業施設動向に関する隔週発行の情報紙「タイハン特報」の2000 年1 月6 日号から2003 年7 月14 日号の中の閉店情報によった。
注2) 2003 年12 月末データであり、小売業者の店舗面積が1,000 ㎡以上かつ店舗数が10 以上のものを対象としている。
注3) 各店舗の立地する市町村の商工会議所または商工会の大規模店舗担当宛に質問紙による郵送調査を行い、全部で136 の回答(回収率59.9%)を得た。
注4) この調査の2年後に遊休化事例の追跡調査を行ったが、38 事例中22 事例が依然として遊休化の状態であった。
参考文献
1) 高井宏之:閉鎖施設の特性と現在の利用状況-閉鎖された大規模店舗を含む商業施設の有効利用に関する研究-,日本建築学会計画系論文集,No.619,pp.49 -54,2007.9
たかい・ひろゆき| 1957 年岡山県生まれ。1982年京都大学大学院修士課程修了、博士(工学)。㈱竹中工務店技術研究所 主任研究員、三重大学工学部建築学科 助教授を経て、2008年より現職。
専門は建築計画・住宅計画。主な共著書に「現代社会とハウジング」(彰国社)、「大規模集合住宅における共用空間・施設の経年変化に関する研究」(.住宅総合研究財団)「建、築・まちづくりの夢をカタチにする力―建築企画事例から考える環境のデザイン」(彰国社)がある。