JIA愛知建築セミナー2008「明日をつくる建築家のために」
シリーズ1「地球環境と建築」第2回
名和研二氏と近藤春司氏のセッション
(久安典之/久安典之建築研究所)
 去る10月25日に開催された今シリーズ第2回の講師は建築家の近藤春司氏と構造業/雑用業(※本人談)の名和研二氏。講師の選定は、いろんな経緯を経て決められてゆくのですが、今回は名和氏にパートナーの提案を打診したところ、近藤氏を挙げていただきました。名和氏と同世代の若い建築家を想像していたので、少々意外な気もしましたが、近作でコラボレーションされたとか。そんな取り合わせの意外性もまた、このセミナーの味わい深いところ。進行はすべて名和氏にお任せすることになりました。
発見するエナジー
 まずは、名和研二氏。マイクを手に取ると、手書きのメモをきっかけに、構造に携わるまでの経緯や建築観が語られました。建築家の遠藤政樹氏のもとから、ごく自然な成り行きで構造家の池田昌弘氏のもとへ移ったのは30歳近く。設計そのものの「過程」に「そのままでも豊かな結果」という意味を見出し、「結果」に「次への対応のできる過程」という位置付けを与えるという思想は、自身の人生そのものから実感として得られたものなのでしょう。そしてそれらすべての中で、「発明」ではなく、「発見する」ことの役割を「ひろう」というキーワードに託して語られる様は、やはりご自身の設計思想と人生観が等しくリンクしているように感じられました。
 現在の「なわけんジム」としての活動としては、まず何人かの建築家との協働作品を通して、そこにいたるプロセスが解説されました。紹介された作品は、いずれも互いの豊かなコミュニケーションなしには実現し得ない、独創的であっても自然な成り立ちという印象を受けるものでした。
 そして、最後に紹介されたのが、近藤氏との協働作品「近藤小児歯科医院」。ここから近藤氏の登場です。
建築への想い
 近藤春司氏は1951年生まれ。1970年生まれの名和氏とはかなり世代が離れています。しかし、この二人の出会いもまた、ごく自然な成り行きに感じられます。
 ある方を介して名和氏を紹介された近藤氏。地盤の悪さから、軽い「木造」を検討していたとか。それまでは、建物のあり方として、強い「組積造」にこだわってきた近藤氏にとって、木造は腑に落ちないものだったようです。その思いを抱えたまま訪れた近藤氏に対し、名和氏は「軽い組積造をやりましょう!」と、220㎜のコンクリートスラブより軽い、40㎜の「鉄版」を提案。当初、名和氏は、「近藤さんはビタ一文負けてくれない人だろうと思った」とか。しかし、その提案は、「素材にはプライドがある」と語る近藤氏にとって、充分納得のいくものだったようです。
 そんな話をきっかけに、近藤氏のその他の作品や、それらの作品の生まれた時代背景、そして建築への熱い想いが語られました。ミニマルで豊かな空間の建物が紹介されるなか、圧巻だったのが勝浦の自邸。すべてをスタイロフォームでつくったその住宅は、南青山でのマンション生活に子供達の将来を危惧し、豊かな自然のある土地での生活を求めた結果、交通の便の悪いところで建築可能な工法として考え出されたものです。建物本体のみならず、浄化槽までを同じ材料で自力建設してしまうというエネルギーには、一種の情念のようなものを感じずにはいられませんでした。
 「都市住宅世代」と語る氏は、若き日に東孝光氏の事務所での採用を求め、何日も事務所前に直談判に通っていたところ、それをたまたま目にした新聞記者によって、翌日には全国版に紹介されてしまったとか。そんな建築への情熱は今も変わらないようで、「やっぱり建築大好きなんですよ!」と近藤氏の口から素直に出た一言に、私自身も素直に感動してしまいました。
建築を生み出す「個性」について
 生の声を聞き、声のトーンや息遣い、さらに目の輝きまでも含め、講師の「個性」を等身大に感じ取ることができるのも、この建築セミナーの魅力。「スゲェなと思う建築があっても、本質を見失っているのを感じると、“それがどうした”と思う」と語る近藤氏。「全員やりたい放題やっても、全員うまくいく方法が絶対あると思うし、そんな人が好き」と語る名和氏。ついつい情熱的に脱線する近藤氏と、それを制し、独自の抽象世界に誘導する名和氏とのジャム・セッションは、両者の「個性」が伝わる絶妙のグルーブ感でした。
名和研二氏 近藤春司氏 参加者も真剣に耳を傾ける
参加者の声
●今日のセミナーが初参加だった私はとても緊張していましたが、近藤さんと名和さんのお話で緊張は飛んでいきました。
 先に名和さんのお話がありました。まだ構造の勉強をあまりしていない私にとって、話は難しかったのですが、名和さんが、「この構造ではできないと構造家が言うのではなく、もしこうだったらできますよと提案のできる構造家になりたい」とおっしゃっていたのがすごいなと思いました。駄目だと言うのではなく、提案することで次に繋がるんだなと思いました。また、結果だけが良いものはダメで、過程が良いものが結果も良くなる、ということが心に残りました。
 次に近藤さんのお話がありました。話の中に家族のことがたくさん出てきて、自然があって家族があって人間があるという話をされ、なるほどと思いました。家族と一緒に家をつくるというのがいいなと思いました。
 名和さんと近藤さんの会話はとても面白く、本当に仲良しなんだなと思いました。(野田美里/愛知工業大学1年)
●今回の講演におけるキーワードは「素材」だったと思います。近藤氏と名和氏の対話形式で進められた講演では、終始和やかな雰囲気の中、作品紹介と建築に対する考え方を聞くことができました。
 お2人が紹介された作品の中で特に興味深く感じたのは、近藤氏の「スタイロフォームの家」と名和氏の「門型の家」です。
 「スタイロフォームの家」は構造体から設備機器まで、住宅のほとんどすべてがスタイロフォームでつくられ、施工が簡単でコストパフォーマンスに優れたオリジナリティにあふれた住宅でした。「門型の家」は、RCのフレームを基本として、そのフレームに木の梁を架け、床を構成していくという、RCの力強さと木造の柔軟性が最大限に生かされた住宅でした。
 2つの作品には特別な材料が使われているわけではありませんが、設計者が視点を変えることによって、敷地の特性、コストの制約などの様々な条件に対し、ユニークにこたえた建築が姿を現すことに強く感銘を受けました。
 今回の講演を通して、実は面白い素材は身の回りに溢れていて、それをどのように工夫するか、それを発見していく作業が建築家にとって大切なことであると感じました。 (伊藤 寛/建築デザイン研究所)
●名和研二さん、よく耳にする名前で構造家であることも知っています。近藤春司さん、恥ずかしながら近藤さんから「天工人の山下君~」と話があるまでイメージすらないような状況でした。近藤さんが何をしてきたか、どんな建築とかかわってきたのか話をしていただく中で、近藤さんの輪郭が見えてきたように思います。就職したばかりのこと、東事務所のこと、独立後のこと、そして名和さんと協働で作られた「近藤小児歯科医院」。
 僕が建築家という職業を知った頃、イメージしていた姿に合致するような人だなあと感じ、名和さんとのギャップもそこに感じたのですが、名和さんの話の中に「できない事実よりその先の手助け」「変えがたい前提のうしろには可変なものがある」という言葉があり、その思いが2人を、そして色々な建築家をつなげているんだ、と感じました。あと、真冬でも海で泳いでしまうような名和さんが近藤さんを惹きつけたのかも・・・。
 当初、接点すら感じられていなかったのですが、とても楽しそうに話を進めるお2人の話を聞いて、建築って楽しいんだと改めて感じました。 (伊藤公成/道家秀男建築設計事務所)