JIA愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ3「ライフ&アーキテクチャー~生命と建築」
第6回
飯田喜四郎先生を迎えて~犬山城、如庵、明治村~
(後藤文俊/アトリエ後藤建築事務所)
 今回JIA建築セミナー2007、シリーズ3の最終回は、名大名誉教授、愛知工業大学客員教授、明治村館長でもある飯田喜四郎先生を迎え5月24日、25日の2日間に渡り行われた。
 今回のJIA建築セミナー2007シリーズ1・2・3と計18回の連続セミナーの最終回となり、最後を飾るにふさわしいものとなった。80歳を超えられているとは思えないほど、はつらつとしてエネルギッシュな語りは、セミナーに参加している受講者に何かしらのメッセージを与えたようだ。
 まず金山での講義は、その後の国宝犬山城見学による移動の関係上、いつもより短い時間での講義を依頼したのだが、ふだん改めて近代建築史に触れることのないせいか、先生が語る日本の開国から明治初期に渡っての日本の建築の流れは興味深く、日本の近代建築史の発展及び先人が歩み、築いてきたものを再認識する機会を得た。

24日のセミナーにて。
飯田喜四郎先生
国宝犬山城見学
 犬山遊園駅から犬山城まではあいにくの雨に見舞われて、私達以外の他の見学者はまばらである。
 織田信長の叔父の織田信康の造営から始まる国宝犬山城は、平成16年の財団法人移管までは、日本では唯一、個人の成瀬家の所有の城であったことから、最上階からの眺めは違いがあるのであろうかと思いをめぐらす。
宿泊先でのスライド会
 先生を囲んでの夕べは、先生が今までに収集された貴重なイスラム、アルジェリア、ナイジェリアの古代タイルのデザイン貼りのスライド上映会を開催。
 無理にお願いしたにもかかわらず快く引き受けて下さった先生より、多く解説を頂いた。いつの時代であってもデザインに対する情熱に違いはないと感じた。
先生を囲んでの夕べ 犬山城にて 如庵
国宝如庵
 翌日、国宝茶席三名席の一つである如庵は、前日から降り続いた雨に濡れ、しっとりとした佇まいを見せた。徳川家光の頃より残る暦を腰貼りにし、暦貼りの部屋とも呼ばれる草庵茶室は、光の移ろいも茶室のご馳走と考えられた窓の多い茶室である。
 解説のため分かれて入る7人しか共有できない、考え尽くされたその空間には内在された高い精神性を感じた。また移築保存修復に関わる数多くの苦労が見て取れる。
芝川又右衛門邸の前で 帝国ホテル内部 第四高等学校物理化学教室にて飯田先生の講義を受ける
明治村見学
 講義後による見学は、何かしら見る者に対して視点に変化をもたらし、洋風建築表現としての三重県庁舎に見られるバルコニー形式や、震災を受け最近移築完成した武田五一設計の芝川又右衛門邸、そしてライトの帝国ホテルも新鮮に映った。
 当時の明治村に移築が決まり、尽力された飯田先生の、その生の熱い思いの声を聞きながらの今回の最終セミナーは、今まで自分が経験してきた貴重な時間のさらなる一部となった。
 「建築史は年をとるほど好きになる」。心に響いた先生の一言である。若いときには見えなかったものが、見識の広がりと共にその奥深さを実感した一瞬であった。
 今回の建築セミナー2007のシリーズ1・2・3を通じての幅広く貴重な講義の数々が、各々の明日への道標になることを願い、建築セミナー2008シリーズ1は幕を開ける。 聖ザビエル天主堂内部 東松屋住宅前にて
参加者の声
●私はこれまで明治・大正といった時代の建物に対し、単なる和洋折衷というイメージを持っていました。今回のセミナーでは、その時代が社会制度の転換期にあり、建築においてもそうであったことや、当時の設計者が意匠においてどのような意味付けをしたかなどを知ることができました。今まで見過ごしていた部分に興味を持つことができました。
 明治村見学においては建物ごとに飯田先生から説明をしていただき、当時の建物としての成り立ちから、村内に移築されたときのウラ話まで興味深いお話ばかりでした。また、1日中歩き回り解説をし続けていた先生が、夕方解散のときになっても一番元気だったことには驚かされました。先生の知識や見せ付けられる気力体力に、まるで‘カバン持ち’をさせてもらったような気分です。
 そして如庵では縁側に腰をかけて庭を見ながらゆったりとした時間を過ごせたことが、私にとって大変価値のあるものでした。もしこれがせわしない見学会であれば、庭の美しさも板張りの柔らかさも実感できなかったと思います。シリーズ3はこれで最終回となってしまいましたが、これからもセミナーが開催され続けることを期待します。(富田治樹/岬建築事務所)
●今回、私はJIAの第3回目のセミナー「明日をつくる建築家のために」から初めて参加させていただきました。毎回来てくださる各先生方の講話は教科書に沿った大学の講義とは違い柔軟でわかりやすく、スライドに映る作品は斬新かつ新鮮で私自身考えさせられ、刺激を受けました。
中でも印象に残っているのは、セミナー第2回目の乾久美子先生の講話です。建築を考えていく上において、これまで女性建築家として多くの建築物を手がけてきた先生だから見えてくるアプローチの仕方など、空間の構成というものが他の建築家の方とは違うと感じ、その繊細で温かみのある建築に感銘を受けました。
 また先日初めて訪れた明治村、犬山城、如庵では、ふだん見学することができないところまで見ることができました。光の使い方や空間の構成、細部まで作り込まれた建具など、近代の建築家や人々の空間に対する思いや美意識がいかに繊細で芸術性に富んでいたかということを、見学した建築物や飯田先生のお話から知ることができました。
  このセミナーは建築を勉強しだした私にとって内容の濃い、非常に得るものが大きかった3ヶ月間だったと思います。次回からもあるということなので、ぜひこれからも参加していきたいと思います。(竹安建人/愛知工業大学建築学専攻2年)

●「思想×時間=環境」という単純明快な仮説が、この2日間の印象となった。そしてそれは、たいへん有意義だった今シリーズのセミナーを終え、消化不良気味の私の脳内を沈静化させるものとなった。
 犬山城、如庵、明治村のいずれもが尊い。様々な変遷を経て、それらはそこに佇む。そして、それらの建物に込められた想いを今に伝える。今となってはどれもが犬山の環境の一部だが、幾多の時間や様々な人々の情熱なくしては存在し得ない。
 今回の講師、飯田喜四郎先生の存在感は、そんな大事なものを我々に気付かせてくれる。20年ほど前の大学生の頃、飯田先生の講義を楽しみにしていたのも、おそらく同じことを感じてのことだったように思う。溢れ出す建築史の知識と、そこに込められた想い。当時と寸分違わぬ情熱を、ご高齢となられた今でも久しぶりに感じることができた。
 そういえば、犬山城も如庵も明治村も2度目の訪問。それにもかかわらず、すべてが新鮮だった。「時間」による熟成は、新たな「環境」を創る。そう考えると、「歴史」は常に新しいし、新しく創出されたものや新たな出会いは永遠に新しいのかもしれない。(久安典之/久安典之建築研究所)