保存情報第85回
登録有形文化財 名鉄三河線 旧西中金駅 塚本隆典/塚本建築設計事務所
西中金駅外観 プラットホームを見る 線路の跡
■紹介者コメント
 旧西中金駅の線路を挟んで反対側のやや左側の坂を登ったところに廻り舞台の改修が行われた岩倉神社があります。ちょうど名鉄の廃線が決まった頃、建設会社から連絡があり、改修工事の終わった廻り舞台を見学させて頂きました。その折、2両編成だったと思いますが、神社の舞台越しに名鉄の赤い電車がホームに止まっているのが目に入り、何か物悲しい気持ちで眺めていたのを思い出しました。
 旧西中金駅は、「豊田市郷土資料館だより」No.61によりますと、平成19年10月22日、新たに登録文化財となりました。以下、次のように記載されています。
 「旧西中金駅は、平成16年に廃線となるまで名鉄三河線の終着駅でした。駅舎は外装が下見板張りの木造平屋建てで、切妻屋根に鉄板が葺かれています。規模は桁行きが14m、梁間が3.6mで、建築面積は54㎡です。駅舎のプラットホーム側にはプラットホームへ上がる階段の傾斜に沿った上屋がついています。終着駅にしては規模も大きくなく、特別の施設もありません。これは、駅舎が建てられた昭和5年(1930)当時、足助まで鉄道が延長される計画があった(昭和33年(1958)に断念)ため、この駅は終着駅として設計されなかったのです。
 プラットホームは全長36m、約3.6mを測ります。基本的には花崗岩の石積みです。小規模な改変を受けていますが、全体的には駅が開業した昭和3年(1928)当時の姿を留めているといえます」。
 今後、この駅舎とプラットホームがどのように活用されていくかが期待されるところだと思います。
執筆にあたり豊田市郷土資料館天野氏のご協力を頂きました。


住  所:旧西中金駅 
豊田市中金町前田地内
参照資料:「豊田市郷土資料館だより」NO61 豊田市郷土資料館
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 石原邸 林廣伸/林廣伸建築事務所
北面全景 内部座敷回り 棟札
■発掘者コメント
 「登録文化財」の執筆割り当てが重なりネタ切れ状態になってしまい、やむなく、現在、登録申請を準備中の物件を「お気に入り」として掲載します。「保存情報Ⅱ」発刊時には稿を改め、「登録文化財」のカテゴリーに入っていることと思います。
 さて、今回紹介する登録候補は名古屋市北区にある石原邸です。現地は黒川と大曽根を結ぶ線上のほぼ中間に位置し、敷地の南北は道路に接しています。北側道路からがメインのアプローチで、道路境界に沿って小屋根付きの塀を設け、西端に門を構えています。門から玄関までは前庭とし、主屋南側を主庭としています。
 石原邸は現在改修中ですが、調査時に棟札を検出、昭和11年建築と判明しました。主屋の平面は中廊下形式で、南側中央部に座敷・次の間を配し、南西隅を洋室とする、昭和初期住宅の典型例と思われます。
 今回の改修の目的の一つは耐震補強でしたが、勝手口の土台がアルミサッシュ変更時に切断され、さらに側筋土台の腐朽、浴室回りでは柱・土台の一部が溶けていました。地震への備えはこれらの改変や腐朽に対する修理が最重要で、金物補強ではないと思われます。現場では、創建時に施工された羽子板を留める釘が、手で抜ける状態になっていました。少なくとも、木への金物補強がサスティナブルでないことは確かなようです。
 また、浴室回りでは高基礎のため土台・柱が緊結されていません。元来、毛嫌いしていましたが、施主の希望するユニットバスの使用により、軸組が完結できました。妻籠の農家でマヤ(厩)を別構造で入れ子にしていることが連想されましたが、ユニットバスによる耐震補強とは目から鱗の大発見でした。


所在地:名古屋市北区東水切町1-17
個人住宅につき非公開