JIA愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ3「ライフ&アーキテクチャー〜生命と建築」
第4回 韓亜由美氏、ヨコミゾマコト氏を迎えて
(加古 斉/加古建築事務所)
4月26日(土)、シリーズ3も早いもので第4回を迎えました。今回は「意匠・計画」をテーマにアーバンスケープ・アーキテクトの韓亜由美(はんあゆみ)氏と「富弘美術館」で2006年日本建築学会賞、日本建築家協会賞を受賞されましたヨコミゾマコト氏を講師にお迎えしました。
生きられる都市
 韓亜由美氏は1958年生まれで東京藝術大学デザイン学科を卒業後、イタリア、ミラノの大学で建築を学ばれ、帰国後にクラマタデザイン事務所で勤められた故倉俣史朗氏の最後のお弟子さんです。
 都市景建築家の肩書きを持たれるように「都市をテーマにデザインしていこう」とされ、これまでの建築中心のセミナーと少し趣が変わった視線で歯切れの良い語り口で話される内容は、土木からブログまで広範な情報にあふれたものとなりました。
 私の興味あるプロジェクトは「工事中景新宿サザンビートプロジェクト」です。このプロジェクトは新宿駅南口地区基盤整備事業全長320mの現場仮囲いのデザインで、2005年には「過去」をテーマに各年代の壁新聞で市民の興味を誘い、2006年は「新宿の現代」をテーマにポートレートでの市民応募やイベントでの市民参加、また市民へ向けた光のメッセージを点灯したりして、仮囲いがコミュニケーションのプラットフォームとなっていきました。2007年は「新宿ID未来篇」で2016年の基盤整備事業完成を舞台にキャラクター「みちの みらいくん」が登場し、のびのび生き生きする未来絵図が描かれました。また、描きれない部分をブログサイトへと発展していき、単なる仮囲いからこれほど奥深い情報の世界へと繋がっていく事にとても感激し、また今後16年までにどのように展開していくのかとても楽しみになりました。
 この他に時間軸をデザインした「小鳥トンネルシークエンスデザイン」は、単調で暗いトンネルの壁面が、デザインで明るく楽しい空間に変貌していく様子が動画にてよく理解できました。
 また愛知県警からも問い合わせがあったそうですが、「首都高速シークエンスデザイン」では路面に書かれたドットの変化にて道路の勾配を体感できたり、速度の心理的な抑制にデザインされたりと、デザインが時間軸と人間心理と融合された世界で展開されているところに興味をおぼえました。
近作について
 ヨコミゾマコト氏は1962年生まれで、東京藝術大学建築科大学院修了後(韓さんの後輩になります)伊東豊雄建築設計事務所で「せんだいメディアテーク」を担当され、独立後は「富弘美術館」「集合住STYIM」などが有名ですが、今回は近作を通してその発想の原点を紹介して頂きました。
 まずデザインという言葉をラテン語のレシネールすなわち「秩序を与える事」と広義に定義され、そしてマテリアルデザイン/ストラクチュアルデザイン/コンストラクチュアルデザインと分けて、それぞれの組み合わせにて「属性のコントロール」「形態のコントロール」「現象のコントロール」などに展開されました。
 木+鉄板+木のコンポジット梁柱で構成された住宅FUNは採光をトップライトに求めた建売住宅で、この採光方法を展開したのが次に紹介されたRC壁式造で屋根にテフロン幕を採用した極小住宅でした。
 次に、面材を筒状にして構造的に安定させ、大小さまざまな筒が相互補完した「富弘美術館」は、「非均質である事」「異なる特性をもつ個々の多様な集合体」を意識して創られたそうです。
 また「富弘美術館」の部分を切り取り、縦に3層積み上げた案の名古屋大須に建てられた住宅NYHは、構造を佐藤淳さんとの作品で、構造の考え方の説明は理解できましたが、私が知る名古屋の構造家とのギャップに愕然とし一度見学してみたいと思いました。
 外壁が4.5ミリの鉄板と75角の座屈止めリブのセミモノコック構造の住宅GSHは、外壁に大小さまざまな丸い開口がランダムに散りばめられていました、構造はアラップが担当されたそうです。
 最後に、日進で竣工し5月号の『新建築』に掲載されたレストランの紹介で講演は終わりました。
 建築と無縁でないはずの「都市のデザイン」、私の知る構造と違う「構造の世界とデザイン」、今回のセミナーは立場の違った大きな刺激を受けたように感じました。
韓亜由美氏 ヨコミゾマコト氏 講師との懇親会風景
参加者の声
●何を思って建築を考えるのか。どんなことが根源にあって作品ができていくのか。今私が注目しているところであり、たくさんの意見を聞きたいと感じています。
 建築・土木の知識は得ようと思えばいつでも誰でも得られます。しかし、見て聞いて感じることはそのときの自分にしかできないことであり、どう活かしていくかも自分にしかわからないことです。このセミナーを通して、現在活躍されている方々の生活の中で感じていることを直接お聞きすることができ、とても有意義な時間を過ごすことができました。…
 世間的に煙たがられる傾向にある工事現場をアートに変えてしまうという韓さんの発想は大変興味深かったです。参加型のプロジェクトでどんどん人の輪が広がっていったというお話にじわじわと心が温かくなリました。また、ヨコミゾマコトさんの身近な自然を例にした哲学的な考え方が印象的でした。普段から物事をよく観察されているからこそ、あのような発想ができるのだろうと思います。…
 今回のお二人のお話を通して、豊かな発想を身につけるには普段から身の回りのどんなことにも目を光らせていないといけないと感じました。(西ヶ開有理/有限会社タクト建築工房)
●第4回の講義は、ランドスケープアーキテクトの韓亜由美さんと建築家のヨコミゾマコトさんでした。
 韓亜由美さんのお話で印象に残ったのは、工事中の仮囲いを利用する新宿サザンビート等のプロジェクトです。本来ならただの安全柵の仮囲いをコミュニケーションの手段として利用することで、工事中の建物への関心を誘導したり、人々の愛着等の効果を得ているところに感心しました。普段なにげないシーンをアイデアとデザイン力で都市を魅力的にするという行為は、建築だけにとらわれない幅広い視点を持つ必要性があることを感じました。
 ヨコミゾマコトさんのお話は、柱・梁のラーメン構造にとらわれない面構造(曲面構造)の建築に興味を持ちました。曲面材のメリットである薄くても強度のある建築は、狭小地や空間・ファサードの多様性に効果があることがわかりました。またその構造を実現できる構造解析が可能な時代であることと、新しい構造に挑戦して施工する技術者の力量にも驚きました。
 お二人とも、わかりやすくてセンスのよいプレゼンテーションでした。こうした相手に伝わりやすい魅せ方が、新しい挑戦をするための説得材料(武器)になっているのですね。見習いたいです。(野村和矢/サニー建築設計)
●毎回、セミナーに参加させてもらい、話を聞く度に思うことが、建築という分野でありながらそれを扱う建築家に必要なフィールドは限りなく多分野にまで干渉しているということです。今回のセミナーでもそのことについて強く感じました。
 工事現場に立てかけられた壁をデザインし、期間内だけ都市のひとつに組み込む、トンネル内のデザインを走行の安定性向上に役立てることなど、それを土木のみの分野ととらえたとき、そこには他の分野が入る余地がなく障害をきたす場面に遭遇すると思います。分野であったり、分類であったり、カテゴリーの中でしか物事を捉えない視野の狭い捉え方をやめたとき、建築として何を表していけばいいのかを考えさせられます。
 また、ランドスケープデザインとしてではなく、建物を建てるときにその建物に持たせる意図の根である発想は、必ずしも自分の専門分野ではなく、むしろ専門外での話の方が多くなります。
 そんな中、セミナーを聞く度に思うのが、講師の方々のものを捉える視点であったり物事に対しての引き出しの多さです。同じものを見たとき、その引き出しの多さが様々な要求や制約の中で創造性のあるものづくりを支えていくのだと感じました。(松村敬太/愛知工業大学)