JIA愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ3「ライフ&アーキテクチャー〜生命と建築」
第3回 静かなる闘志を秘めた若手デザイナー、城所竜太氏・米田明氏
(吉元 学/ワーク。キューブ)
 JIA愛知建築セミナーもシリーズ3を迎えました。毎回、遠方より来名して頂く講師の先生方には頭の下がる思いです。
構造のライフサイクルとデザイン
 世界的に有名なエンジニアリング集団「アラップ」に所属される城所竜太氏は1976年生まれのセミナー講師史上最年少の33歳。しかし年令とは違い、落ち着きようは百戦錬磨の格闘家の風格で、是非仕事をお願いしたくなるような骨太な人物でした。
 三分一博志氏との協働である傘のような建築「brood」をはじめ、有名建築家との様々なプロジェクトの説明がありました。
 長谷川逸子氏と協働した雲のような建築「珠洲市多目的ホール」がマグニチュード6.9の能登半島地震に被災したとき、自分は自信があったがやはり心配であったと、構造設計者としては安全が最大の使命だと語られました。
 帰国子女でもある城所氏は、ニューヨークのビルの不動産価値は第二次世界大戦で線引きされ「プレWar」と「ポストWar」に分けられる。価値が高いのが戦前である「プレWar」で、フレキシブルで天井が高く頑丈でルックスもいい。リユースだリサイクルだと小手先ばかりのサスティナブルではなく、いくつもの時代を乗り越えられる質の良い建物こそが真のサスティナブルではないか。そこには設計者、施工者のメンバー全員の冒険する心が大切である。また、大規模な建物は解体にも費用が掛かり経済の原則から自然と残っていくのでデザインに手を抜く事ができない、とおしゃっていました。
建築の生きる場所
 京都工芸繊維大学で准教授を務められる米田明氏は1959年生まれ。顔写真や精緻な作品から受ける気難しそうな印象とは違い、気さくで親しみやすい人柄でした。セミナーの講師の先生方は皆さん魅力のある方ばかりで、建築家の素養として想像力や創造力ばかりでなく「人間力」も重要なのではと気づかされます。
 ロシア・アバンギャルドの話に始まり、近作のお話をして頂きました。特に城所氏とのコラボレーション作品「K クリニック」には驚かされました。模型ですら壊れやすいこの建物をどうして建てようとしたのか? そこには合理性を超えた米田氏の「都市空間の絶望をなんとかしたい」という街への想いが込められていると感じました。また自分の価値観を信じ、丁寧に建物を造っていけば未来は開けるという自信の表れだと感じました。城所氏の「ジャッキダウンする時には緊張しました」というこぼれ話が笑いを誘っていました。 
 「木造をこれからやりたい」「もう少し開いたカタチをやりたい」と次の目標を語っていただきました。
 受講者の方々も熱心におふたりのお話を伺っていました。建築家を目指す若い受講者にとっては、内容も重要ですが、講師の先生の「うしろ姿」というか、語り口にじかに接することができるというのは大変貴重な体験だと思います。ベテランの方々も新たな闘志を得られるのではないでしょうか。
生命と建築
 建築セミナーのシリーズ3では「ライフ&アーキテクチャー 生命と建築」をテーマに毎回お話をして頂いていますが、シリーズ2では「サスティナブルな環境創造を目指して」がテーマでした。
 ひと頃「バリアフリー」がただ段差を無くしたり、ただ手摺を付けたりと「お題目」になり空間の魅力が無くなったように「サスティナブル」という言葉が独り歩きして「ストラクチャー・インフィル」だとか「ゼロ・エミッション」だとか「太陽光発電」だとかにばかりに関心が行くのではなく、人間(生命)を中心にすえた視点で考えていく事が重要ではないでしょうか。
 「地球温暖化対策」や「CO2削減」が時代の正義になっている今こそ、これらの謳い文句に踊らされる事なく、一人一人の人間を大切にする設計者でありたいと思います。
城所竜太氏 参加者の質問に答える城所氏 米田明氏
参加者の声
●シリーズ1から参加させていただいているセミナー。シリーズ1より合計で30名を超える著名な講師陣による貴重な講演を聞く機会を得たことに感謝します。
 今回、Arup JAPAN /城所氏、米田明氏による講演では、共に設計された「Kclinic」、その形態は、見た目に不安を感じてしまうほどのキャンティレバーが建築形態としてそのまま現れ、飛び込んでくる。そのことにまず驚きを感じました。
 隣接する幹線道路、緩やかな傾斜を持つ周辺敷地、その他、各要素を設計に取り込み、表現する。言葉にすると、ごく自然には理解できるのですが、建築形態の持つ不安定さ、その不自然なバランスに惹かれながらも、この形態の持つ意味を少し考えてしまいました。
 城所氏の講演の終盤にあった何処かの島にある遺跡のような写真。あらゆるものを拒絶しているようなその写真。大変興味を抱きました。
 後に、写真が犬島アートプロジェクトのものだとわかり、米田氏の「K clinic」と共に機会を見つけて一度、足を運び、講演で感じたことをその場で確かめてみたいと思いました。(伊藤公成/道家秀男建築設計事務所)
●シリーズ2に続いて、建築界で活躍されている方々のお話を聴く機会を与えてくださってありがとうございます。
 セミナーに行くといつも思うことがあります。席について、セミナーが始まるまで待っていると、すでに前には講師の方が準備をしていらっしゃる。嵐の前の静けさとは大げさかもしれないですが、そんな静寂感を感じます。時間、建築家の紹介が終わり、セミナーがいよいよ始まる。そこからは、一人の建築人としての顔に変わり、映画を見る時のような期待感と緊張感が混ざり合った時が流れ始める。そしてスライドが映し出され、建築家の話が始まる。建築家と同じ空間、時間軸の中で、話を聴きながら、その考えに対してリアルタイムに考える事ができる。それがこのセミナーの一番の良さだと私は思います。
 今回のセミナーでは、城所竜太さん、米田明さんの御二人のお話を聴きました。私は特に城所竜太さんの話に強く引き込まれました。ニューヨークに住んでおられた事もあり、今までの方々とは違う話し方でした。プランの話では、結果だけを語って終わるのではなく、何を感じて、どうやって考えをまとめたのか。建築家として導き出した考え方を、私達にしっかりと伝えてくださいました。リアルタイムで聴いているような臨場感があり、聴き入ってしまいました。終始、静かな口調でしたが、そこには建築家としての情熱がしっかり伝わってきました。
 そして、米田明さんのセミナーでは、今まで設計した建物の説明を中心に進みました。私としては、米田さんの建築に対しての考え方などのお話をもう少し聴きたいと思いました。
 このセミナーは、いろいろな事を吸収できる貴重な時間です。建築に携わる者としてより多くの知識や考え方を知るためにも、これからもこのセミナーに積極的に参加していきたいと思います。(趙 顯照/MA設計室)
●今日のテーマは構造で、Arup Japanの城所竜太さんとアーキテクトンの米田明さんに講義をしていただきました。構造の回はいつもおもしろい話が聞けるので、今回も楽しみにしていたのですが、期待通りでした。
 構造家の城所さんは、構造の合理性を追求していくために、しつこく検討を重ねていく過程を淡々とした語り口で話してくださり、とても興味深い内容でした。工場の増築工事0pen Air Factoryの話で始まったのですが、「曲げではなく軸力で力を伝えるようにした」とのことで、3ピン構造の軽やかな形ときれいなディテールが印象的でした。よくある工場の上屋といえばラーメンかトラス構造なのですが、それとは雲泥の差で、構造の力と重要性を見せつけられた気がしました。
 米田さんの作品は、初めは奇をてらった感じがしましたが、説明を受けながら見ているうちに、その印象が変わってきました。狭小敷地という与条件からの必然の形と、それを実現するための構造を求めた結果だということが分かってきました。内部空間がきれいだったのですが、外観の解説が主で、内観写真がゆっくり見られなかったのが残念でした。    (松崎美香/蒼生舎)