CPD プログラム強化と社会への働きかけを

静岡地域会会長 鳥居 久保
 建築とは社会的有用性だけでなく、文化性など多義性に立脚している総合芸術という認識の中で、我々は設計という実践を通してそのすばらしさを社会に主張してきました。さらにその上で、現代に新しく造られる建築だけでなく、古典の重要性と未来への憧憬など多様な時代性を包含する、総体としての都市像も描いてきました。
 しかし昨今の建築界においては、設計活動一般に対する社会からの疑義に始まって、建築の成り立ち自体が厳しい社会的監視体制の中にあると言えます。もちろん我々の活動の根本は法の遵守であり、建築の安全性は真っ先に、また十分にクリアーされるべき必要条件であります。しかしそれがために、建築を非常に狭い範囲での法的妥当性の中に追いやり、一義的な価値観で処理されようとする社会的傾向には、建築家として危機感を抱かざるを得ません。最も大切な多義性が、単一の価値基準を以ってして今や否定されようとしているといっても良く、JIA20年の歴史の中で、新たな成果や新鮮な活動が必要な時だと思います。
 これからの2年間においては、JIAの根本に立ち返り、2つの活動の実践をして行こうと思います。1つ目は、会員へのCPDプログラムの強化です。思想的にも技術的にも進化している現在、20年前の建築理論が必ずしも今に通用するとは思っていません。時代をふまえた奥深い魅力のある建築の出現には、発想の手がかりの間口を広げ、ストックしている技術や思想の更新が必要であり、そのためにもCPDプログラムが心強いツールになるはずです。
 もう1本の大きな柱は、社会への働きかけです。近年、建築家が社会から求められているものには、質において大きな変化があります。地球規模の環境問題、公共性や景観のあり方、建築物の耐久性への考え方、文化芸術性と有用性実用性の問題、などすべてが多義性に立脚する建築の本質といえます。視点が変われば同じ建築であってもその評価は天と地ほどの落差があるように、静岡地域会は広く社会に向けて建築のあり方、意味の選択肢を市民に向けて解説していきたいと思います。
 こうして21年目の静岡地域会はスタートします。難しい状況の中にあっても建築家の職能理念に根ざしたJIA本来の活動を推進していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。