● 新支部長インタビュー
地域会の独自性を活かし、相互乗り入れで総合的な支部活力に    服部 滋・東海支部長に聞く
出江JIA 新会長が初めての選挙で選出された。今後、東海支部は、どう向きあい、どういったスタンスで歩んで行くのか、登録建築家資格制度開放、支部会費の徴収などさまざまな荒波やうねりが予想される中、新支部長にかじ取りと抱負を伺った。(聞き手:田中英彦)
出江新会長へのインタビューが、「建築家」5 月号に掲載されました。「設計業務環境の改革」「設計料を無償とできない法制化」など、いくつか提案されていますが、新支部長の感想をお聞かせ下さい。
服部  どう実現させるかは不明な点もありますが、仰っていることは理解できることが多いので、できる限り協力していきたいと思います。施工会社などの無償設計や、役所の仕事が、告示が出ているにもかかわらず不当に安いのは、根底に「建築基準法に従っていけば自動的に建物の設計ができあがる」という考え方があるのではないでしょうか。今のような複雑な規制や条件のもとでは、相矛盾する要素はいっぱいあり、それらを解決していくというデザインの本来的な意味においても、設計するという行為は、とても無償やサービス設計では行えないのは、業態の違いはあっても共通の認識ではないでしょうか。そのような状況を訴え、複雑な設計プロセスをわかりやすく説明する作業ともいえる出江会長のいわれる「設計料を無償とできない法制化」は、設計を行うすべての人にとって有意義なことであると思います。
他に印象に残ったことは。
服部  JIA のメリットを浄化槽にたとえられたのはおもしろいと思いました。メリット論はいろいろありますが、会員が玉石混淆であるという指摘に見事に答えていると思います。強い気持ちの方は、強い倫理観を持って仕事を全うできると思いますが、そんな人ばかりではないと思います。組織として活動をすることは、弱い自分を律すること、我々の仕事の重要性を訴えていくことには必要なことだと思います。
 話は変わりますが、団体としての広報は当然行わなければなりません。しかし、資金力も乏しい現状ではできることは限られており、歯がゆい思いを皆さんがされていると思います。だからこそ、会員個々が、異業種の集まりや社会的活動、具体的には、PTA やまちづくりの会、ロータリークラブ、ライオンズクラブ、経済同友会などに積極的に参加して、地道に設計監理の重要性をまわりの方に訴えることの積み重ねが必要だと思います。それらの活動をしやすくするような、ツールの開発をはじめとした支援、調整役は組織がやらねばと思います。
昨年から今年にかけてのJIA の大きな課題である、登録建築家の開放についてはいかがでしょうか。
服部  従来は、国際基準に合致した建築家の資格の創設によって、外国との資格の相互乗り入れができたり、消費者に国際水準のサービスを提供できるという説明でした。今回のインタビューや総会用の事業計画案を見ると、出江会長は、「設計業務環境の改革」「設計料を無償とできない法制化」を進めるにあたって、JIA だけの力では無理なので、資格を開放し、専兼を問わない「登録建築家」が結集することによって、事に当たりたいと仰ってみえます。また、呼称も、「統括建築士」または「統括建築家」という設計監理全体を統括する役目という、分かりやすい名称に変更したいと仰ってみえます。
 私個人としては、従来からJIA 内部の資格なら会員資格だけで十分であると主張してきました。だから、当初の予定通り、会の外に出た第三者機関となることは大歓迎です。
建築基準法改正や建築士法改正についての見解は?
服部  建築基準法改正に関する混乱について、愛知の会長として愛知県建築担当局長にも要望を提出しました。今となっては、革命でも起こらない限り、国交省のメンツのため、正常化しないのではと思いますが。とはいっても、少しでも改善されることを期待して、新しい資格である構造設計一級建築士の活用や、エクスパンションで別棟になる建物の扱いなどについて提案しました。
 今回の改正は姉歯事件があったからといって、本来の確認制度の成り立ちを理解しない官僚が行ったものです。今回の改正に際し、人員、予算など必要となるものを積算すれば、従来型の確認制度しかできないはずなのに、旧日本軍と同じく戦略眼もなく戦術面の小細工のみで十分な兵たんの準備もなく突撃をしてしまったように感じられます。
 建築士法に関しては、構造1級はまだしも、現実に則さない設備1級には大反対です。元々設備設計者で1級建築士の受験資格をお持ちの方は、機械設備の設計者であり、電気設備の設計者はほとんど該当者はありません。確認申請書には、意見を聞いた設備士を記載する欄が元々存在します。現在活用されていないその欄を利用し、機械、電気それぞれの設備士に署名していただければすむのではないでしょうか。元々、建築基準法では、構造に比べれば、設備の項目は多いわけでもありません。かえって、空調が効かないなど感じ方に個人差の大きい点についての責任問題でややこしいことになるように思います。
 とはいっても、構造設計一級建築士、設備設計一級建築士といった資格の専門分化は、今後どんどん増加させる方向でやっていただければ、かえって統括の重要性が浮き上がってくると思います。最初から統括の重要性のみ主張しているより早道ではないかと考えています。
財政難と支部会費徴収はどうお考えですか?
服部  今度の本部総会に、会費のうちの支部運営費分に当たる費用の不足分について支部ごとに決めて徴収することができるようになる改正が提案されます。東海支部でも、10 月の臨時総会に向けて議論をしなければなりません。現在、静岡、岐阜、三重では地域会費を個人単位で、愛知では協力会費として事務所単位で集めいています。それを支部会費という形で徴収して、会費改訂前の配分方式に則って再分配する場合、事務局のある静岡では、もう一段の地域会費の徴収を行わなければ、現在の活動は維持できなくなります。支部の活動を見直したとしても、現在のところ、支部会費の徴収は極めて難しいと私は考えています。
 現在、本部、支部の様々な事業開催に伴う協力金や、機関誌発行に伴う広告などは、役員の方に多くご協力を願う形で運営されています。それについても、この機会に併せて検討する必要があると思います。
事業の見直しについてはどのようにお考えですか?
服部  現在、支部で行っている3 つの事業は、すべて見直しの対象とせざるを得ません。現状では、経費のかからない方向への見直しが必要だと思います。
 まず、設計競技です。現状の寄付金の上に成り立つ形は、道家委員長の尽力でかろうじて成立していますが、次の委員長選任の年となる今年は、寄付金を頼りにしない形態に変更しないと、継続は難しいと思います。「新建築」に掲載するなど、全国的にメジャーになりましたが、広告や賞金の原資となる資金の問題を考えると、原点に立ち返って、地元学生の活性化のための制度に戻すとともに、賞金レースではなく名誉の授与だけにするような改革を考える時期だと思います。
 2 つ目は、卒業設計コンクールです。始まったきっかけは、学校の先生の評価とは違う専門家の目によるコンクールだったと思います。その後、様々な形態のコンクールが全国的に増加しました。JIA の卒業設計コンクールも支部主催で始まったものが、全国大会の予選のようになり、それに参加する費用の負担まで発生するようになっています。一方、大学の卒業設計中心で開催されているため、愛知、三重に偏った事業になっています。コンペと同様に地元学生を元気づけるための事業とするなら、高校の部や、専門学校の部、住居学科の部などに分けて表彰する方向もあってもいいのではないでしょうか。
 3 つ目は、「ARCHITECT」の発行です。機関誌の重要性は十分わかっていますが、会員や賛助会員の広告に頼った形の発行となっており、支部予算との関連で見直しが必要となっています。記録ということで冊子としての発行にこだわっている部分があるかとも思いますが、HP やメールニュースという形で発行して、事務局および各自で印刷して保存するという選択肢もあると思います。今後は、ニュース性の高い物はメール配信で速報し、記録性の高い物はHP掲載という方向や隔月発刊など検討したいと考えています。
若い人の参加しやすいJIA にするために、今後考えていることは?
服部  熱海で開かれていた2 泊3 日のリフレッシュセミナーが財政難の中、中止されて3 年ぐらいになりますが、将来の活動を担う人を育てるためにも、仙田会長にも、出江新会長にも再開をお願いしています。
 東海支部では、役員会を通じての各地域会幹部の交流、情報交換活発に行われていますが、一般会員同士の交流、情報交換は十分ではないように思われます。各地域会の活性化のために、活動歴の浅い方を中心に泊まり込みで情報交換や勉強会ができる企画ができないかと考えています。予算の問題もあり、各地域会の事業に他の地域会の方が相乗りする形でできないか考えています。また、それをきっかけに、地域会同士の相乗り企画や、住宅研究会など普段の部会活動の相乗りまで発展できればと考えています。
 支部では、地域会運営費を支給できなくなったときから、事業単位での助成金も用意していますが、総会や支部大会時に、それら事業の主催者を表彰する制度や、東海住宅賞の表彰なども検討してみたいと思います。
ありがとうございました。