JIA愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ3「ライフ&アーキテクチャー〜生命と建築」
第1回 小泉誠氏と中村拓志氏を迎えて
(久保田英之/久保田英之建築研究所)
 2007年度に企画された建築セミナーも2008年に突入し、シリーズ3を迎えました。シリーズテーマは「ライフ&アーキテク
チャー〜生命と建築」。今まで同様、6回シリーズで講演会から始まり、宿泊セミナーで幕を閉じます。
 年々、このセミナーの知名度も上がり、東京でも話題と聞いております。地元愛知でも「参加したいのですが6回全ては…」「単発では無理なのか…」と様々なご意見と要望も頂いておりますが、そこがセミナー委員会のねらいでもあります。建築・環境・構造・計画・建築家の職能、歴史といった様々な分野をバランスよく聴講して頂き、食わず嫌いの片寄った専門家にならないために建築家のあるべきスタンスを追求しているのです。このセミナーが建築系の学校で単位取得に取り込まれ、幅広い視野をもった実践論の授業として活用される事を一個人として願わずにはおられません。
 今回のセミナーも大変内容が充実しているせいか、一般・学生あわせて約70名の参加者が集まり、3月8日(土)に会場でありますあいち建築デザイン専門学校で幕を開けました。第1回の講師には、家具分野に飽き足らず、建築空間にまでスタンスを広げられている小泉誠さんと若手建築家の第一人者である中村拓志さんをお迎えして行われました。
箸置きから建築まで デザインする楽しさ
 小泉さんは、インテリアデザインを通して家具を学んでこられた経歴の持ち主です。小泉作品の特徴は、素材の使い方とディテールの簡潔さに表れています。
 インターホンのデザインをとっても、家具デザイナーとしての繊細さがうまいバランスで存在感を出しておられましたし、照明器具では日本とヨーロッパの違いを的確にとらえ、それを自作で改良していく術をご披露頂けました。また、自分にフィットする家具(木材)の面取道具まで作って持っている事を聞いただけでも、こだわりが生半可ではない事が分かります。
 得てして、こういうと少々変わり者のデザイナーと思われるかも知れませんが、お人柄もソフト、徳島にある木工家具屋さんとのコラボレーションのお話を聞いても自然体で、人間としての魅力に引き込まれていきます。
 今まで小泉さんの作品を見ていて、家具の納まりや扉の閉まり方一つとっても僕とは正反対でした。ダウンライトの照明でも部屋に散りばめられるのではなく中央に集めてみたりと、我々が普段気がつかない新鮮さを感じ、それが小泉さんの仕事の魅力に他ならないと感じたのでした。
小泉誠氏 中村拓志氏 会場の様子
人に与える気分を意識しながらの建築
 現場の中で走りながら考えているという中村さんは、常にモノゴトを理論的に考えながら、それを言葉では説明できない“これからの建築”を造り続けておられます。
 中村さんの作品には商店建築も多く、依頼されたお店の特徴や歴史をつかみ取り建築を造るソースに変えています。新しい技術や工法を見つければ、すばやく取り入れ、建築に変えてしまう行動力にも目を見張ります。大量の情報から必要な情報を抜き取り、それを建築の一部、もしくは素材・仕掛けとして変換していくことが実に見事なのです。
 この人は“プレミアム”という世界を知っている人だなという印象でした。もしくは“プレミアムの世界”に引きずり込むのが上手いというべきなのか。楽しんで生き、楽しんで人と話していることが、中村さんの広い視野につながっています。それがクライアントの望むところでもあるのだから、相乗効果が更に仕事を生むという、若手建築家・中村スタイルなのかも知れない。
価値観の違いが素晴らしい建築を生む
 この講演会を聴講して、セミナー参加者も建築を造るという事に様々なアプローチがあっていいのだと感じた事かと思います。自分らしい価値基準を持ち、自分にしかできないことを見つけられたら最高です。後は、その術をどう仕事に生かしていくのか…。また、人生に生かしていくのか。
 今回、セミナー参加者3名の方に感想をお書き頂きました。学生、社会人と様々な年代でのご意見です。我々の活動に共感を持ち得た同志としてお読みいただければありがたいです。
 ご執筆ありがとうございました。
参加者の声
●JIA愛知建築セミナー「明日をつくる建築家のために」シリーズ3に突入しました。昨年のシリーズ1から参加させて頂いて、通常ではまず聞く事の出来ない方々のお話を受講できて毎回何かヒントを頂いています。本当にJIA愛知関係者の方々には感謝しております。
 さて、今回は家具デザイナー小泉誠先生と、NAP建築設計事務所の中村拓志先生でした。講演で、小泉先生は、人と建築物の距離を近付ける方法を家具で教えて下さった様に思いました。「使い手の顔をよく見て作品を作る、それもデザイナーと作り手が共同で思いを込めて作る」。建築も家具もすばらしい設計者と優秀な職人さんの存在で成り立っている事も再認識しました。
 そして、中村先生は、あらゆる物に興味を持ち、分析し追究し、理論的に理解していく方だと感じました。何事に対しても探究心を持って調査・分析するから次のヒラメキになるのだろうと思いました。最後に、中村先生は、「異業種の人と話す事が好き」。これも中村先生の次のヒラメキになるのだなと思いました。
 私の会社は、コルク・発泡スチロール・発泡ゴムの素材メーカーで、全くの異業種とはなりませんが、このセミナーで建築におけるあらゆる分野の方の話を伺う事は、私にとって次のヒラメキになる貴重な時間です。(磯田雅之/ウチヤマコーポレーション)
●このシリーズの建築セミナーへは今回からの参加でしたが、初回の講義から大きな衝撃を受けました。今まで受けたことのある講演の中でも特に興味深く、貴重な刺激を受けることができました。今回は小泉先生と中村先生の講義でしたが、お2人とも今までにない見方で建築をとらえられているなと感じました。小泉先生の、家も家具として見る感覚、そして家具も家として見る感覚は私にはないものでした。
 木材というものに対する、家具デザイナーとしての接し方や繊細な感覚もとても勉強になりました。また、中村先生の建築へのアプローチの仕方は非常に興味深かったです。建築家とは、みなさんカラーがあって、普段自分の持っているディテールや知識、いつかやりたいなと温めているものを施主の要望にあてはめている感じがあるのですが、中村先生は逆に施主の要望から常に新しいディテール、今までなかったものを生みだしているのがすごいと感じました。そしてそのすべてが要望に対しての計算のもとであるというところには感銘を受けました。
 実際に中村先生の設計された桑名の美容院の見学会に行ったことがあります。アリの巣のような丸い部屋がいくつもつながっていてすごい発想力だなとは思っていました。今回の講義で、その丸い形が、美容師の動きを観察して、その軌跡が円形であること、またその動きの軌跡から半径を出して、この形になったのだと聞いて、びっくりしました。斬新なだけではなくて理にかなった造形。これこそ美術と建築の融合なのだなと思いました。(草浦文子/藤吉建築設計事務所)
●私は、今回初めてJIA愛知建築セミナーに参加させていただきました。
 小泉誠さんのお話の中には、小泉さんのどこか“ゆるい”、明るい人格がよく感じ取れた気がします。そんなどこかゆるい人柄であるからこそ、家具のつくり方にも自由な繊細な発想が生まれてくるのでしょう。また、お施主さん自ら模型をつくってしまうという親密な信頼関係を築くことで、より楽しく、より深くその空間に対して考えていけるのだと思いました。
 中村拓志さんのお話には、問題の発見、提示、解決の流れがものすごく“素直”だと感じました。また、その解決策を導き出す発想力と、知識の引き出しの多さに感激させられました。時代の流れに合わせて求められることを率直に表現することは設計において一番難しいことであると思います。ですが、中村さんは建物と人間との関係をより身近なパートナーとして考えることで、ごく自然に表していました。
 今回はお2人のお話に引き込まれ、とても有意義な時間を過ごすことが出来ました。またいつか次回はぜひ直接お話をしてみたいと思います。貴重な体験をさせていただきどうもありがとうございました。(金山智光/愛知工業大学工学部都市環境学科建築学専攻3年)