保存情報第80回
登録有形文化財 徳川美術館本館・南収蔵庫 福田一豊/福田建築事務所

外観写真(左側奥に見える屋根が南収蔵庫)

内観写真(天井のデザイン)

玄関部分(企画展示室から当時の姿を見ることが出来る)
■紹介者コメント
 空襲で戦災に遭い借家住まいをしていた名古屋の実家に、小学校の5年生の後半に引っ越してきました。徳川園の一本南側の通りに面した場所にあり、美術館北側の裏庭は谷や森、そしてグランドありと小年時代の格好の遊び場でした。まだ当時は美術館にはあまり関心がなかったのですが、威厳と風格を感じさせる建物が園の一角の森にひっそりと建っていた記憶が強く印象に残っています。
 この建物は尾張家の第19代当主徳川義親(1886 ~1976)が設立した財団法人[徳川黎明会]によって同家名古屋別邸の現在地に昭和10年(1935)に開館した日本の私立美術館の草分けです。また大変貴重な「源氏物語絵巻」を収蔵することでも有名で、徳川御三家の一つ徳川義直(1600 ~1650)を祖とする尾張徳川家伝来の道具類を展示公開しています。
 現在は昭和62年(1987)に会館50周年を記念して増改築がなされ、南側にあったエントランスは園の西側の正門側に移されました。登録文化財となっているこれらの建物は不自然さを感じさせず増築部と一体化され、文化財保存方法の一つのあり方を示していると考えます。現在本館部分は企画展示室として使われ、格子天井が新館部分とは違った雰囲気を感じさせてくれています。本館の意匠は愛知県庁や名古屋市庁舎と同じ帝冠様式で当時の社会風潮を反映したものです。外観は基壇部分と巾の狭い明り取り窓の2層構成で屋根の緑色釉薬瓦の重厚さとうまくバランスさせ城壁を思わせます。南側収蔵庫は増築部の中に取り込まれていて切妻造の大壁風の建物で中庭から外観の一部を見ることが出来ます。
所在地:名古屋市東区徳川町1017 
建設年:昭和10年 
構造規模:本館-鉄骨・鉄筋コンクリート造地下1階地上1階建506㎡
南収蔵庫-鉄筋コンクリート造
2階建250㎡ 
設計:吉本与志雄 
施工:竹中工務店
 
開館情報:閉館日:月曜日(祝日に当たる場合はその翌日)年末年始 
問合せ先:http://www.tokugawaart-museum.jp/ 
TEL:052(935)6282 
アクセス:基幹バス(市バス基幹2・名鉄バス)徳川園新出来停留所下車 大曽根駅から徒歩10 ~15、駐車場有 
*文化財登録 平成9年
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 瀬戸市馬ヶ城浄水場 三輪邦夫/RE建築設計事務所

管理棟正面

緩速濾過3池
■発掘者のコメント
 瀬戸市の中心を流れる瀬戸川を尾張瀬戸駅から多治見方面へ10分ほど車を走らせ、右折して山あいに入ると緑豊な風景に変わる。「馬ヶ城浄水場」と縦書きの表札が見えてくる。
 資料によると、昭和6年に着工、昭和7年竣工、昭和8年に給水を開始している。設計者不詳、施工者石川鎌吉他4名、事業費約69万円。瀬戸市で一番古い浄水場である。広大な敷地に管理棟、濾過池、貯水池堰堤などが配置されている。管理棟は木造洋小屋平屋建て、間口7.5間、奥行き4間の長方形とシンプルなプラン。屋根は半切妻屋根(ドイツ破風)、スレート菱葺き、換気用飾り窓を設ける。外壁は腰壁付き下見板張り。南側正面中央に1.5間の玄関、西側に3間の事務所、東側に3間の寄宿室を配置したシンメトリーのデザインになっている。近年、屋根は銅板葺きに、寄宿室は展示室に改修されたが、創建当時の雰囲気は失っていない。3つの濾過池は石積み造りで今でも現役である。一日最大5,200立方メートル、瀬戸市の約1割の水を供給している。
 施設側の説明によると、水の濾過には緩速濾過方式と急速濾過方式の2種類があり、当浄水場は緩速濾過方式である。濾過池は下から玉石、砂利、濾過砂の順に敷きつめ、濾過速度が1日3 ~6mと遅く、微生物の働きと自然の浄化機能を利用して濾過することから水がおいしいというメリットがある。反面、水を大量に供給するには広大な敷地が必要とされ、戦前の日本ではほとんどがこの方式だったのが、現在は濾過速度が速く、敷地面積も少なくて済む、薬品を用いた急速濾過方式が一般的になり、全国の5%たらずしか供給していない。「効率」と「安全」を考えさせられる説明であった。
所在地:瀬戸市馬ヶ城町1-2 
構造:木造洋小屋平屋建て、99.37 ㎡ 
設計者:不詳 
施工者:石川鎌吉他4 名 
建設年:1932 年(昭和7 年) 
参照資料:瀬戸の水道(瀬戸市水道部)