JIA 愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ2「サスティナブルな環境創造を目指して」
中村勉氏を迎えての浪合村合宿
(笹野直之/笹野空間設計)
 2007年9月から始まったJIA愛知建築セミナーシリーズ2の最終回は、11月24日から25日にかけて、中村勉氏による講演と、浪合村合宿をもって充実した締めくくりとなりました。
輝ける都市から大地の都市へ
 初日の講演では、「輝ける都市から大地の都市へ」というテーマでゼロカーボン時代の建築デザインについてのお話でした。多角的な視点から体系的に整理された考え方はとてもわかりやすく、またそれを一つ一つ実践されている事例は大変説得力のある内容でした。

講演する中村勉氏
村民と考える村づくり
 講演の後、浪合村に向けて名古屋を後にし、最初に寄ったのは、豊田市旭中学校でした。空間的にレベル差をうまく活用し開放感と適度な落ち着きを兼ね備えたウッドデッキの中庭が印象的でした。
 また、教科教室型の採用や一部施設を町民へ開放していることなど、町民や教職員らとの対話の積み重ねは想像を超えるものだろうと思われました。
夜なべ談義
 夕食後には炭を起こした囲炉裏とお酒を囲み、建築談義に花が咲きました。中村勉氏はバスの中でも講演とも言えるお話をたっぷり聞かせてくれましたので、さぞお疲れかと思ったのですが、体力も並ではありません。この夜なべ談義は夜更けまで続きました。
建築家の姿勢
 2日目には、浪合フォーラム、浪合学校、阿智村図書館、伊那郡あさぎりの里などを見学しました。この見学を通して痛切に感じたことは、中村勉氏の視野の広さと実践性の深さです。「村民と考える村づくり」という言葉どおりに村民と考え対話を重ね、その言葉以上に建築を考えている。その姿勢に簡単には真似のできない奥行きのある深さを感じました。
 いつの間にかセミナー委員という立場を忘れ、すっかり1人の受講生になっている自分がいましたが、そのくらい色々な意味で考えさせられる合宿となりました。それぞれの思いは様々でしょうが、この合宿に参加した「明日をつくる建築家や建築家の卵の皆さん」にとっても充実した2日間となったに違いありません。


バスに乗り込み、いざ出発
参加者の声
●前回に引き続きJIAの講座に参加させていただきました。第一線で活躍されている建築家本人を前に直接話しを聴ける機会を与えて下さり感謝しています。
 政府が「200年住宅ビジョン」を出し、私も企業人として「ロングライフ住宅」を目指して物理的、機能的、サービスの3つの視点で取り組んでいますが、環境に対してもっと強く取り組んで行く必要性を強く感じました。もちろん、建築は住宅であっても社会的なものである以上、あたりまえの様に環境の一部として捉え設計していますが、この先50年後、地球環境があたりまえで無くなる以上、今までの環境への取り組みをより発展、展開して取り組んで行く必要性を強く感じました。
 今回、中村先生に講演いただき、環境に対する考え方、問題点、取り組み等、非常に多くの事に気づき、学ぶことができました。環境対策として「サツキとメイ型」、「ドラえもん型」等、明快な表現で説明していただき、非常に分かりやすく、楽しく講演を聴かせていただきました。あたりまえの豊かさを維持向上する、これはわれわれに与えられた大きな課題であり、この時代に生かされていることに何か意味が必ずあります。
 建築家の卵(いや、その前?)として今後も多くの方から学び、建築に携わって行き、次代の子供たちに良い建築を残して行きたいと思います。
(黒田祐五/旭化成ホームズ)
●建築セミナーも最終回を迎え、シリーズ2からの参加となる自分は初めての合宿に期待とともにバスに乗り込みました。席に付き、お菓子の袋を受け取り、いざ目的地へ、気分は完全に修学旅行です。数日前、会社の仲間と「久しぶりに修学旅行したいよね」なんて話していた夢が早くも自分だけかなってしまい、申し訳なさを感じつつもバスの旅を楽しみました。
 旭中学校に到着し、アプローチの大階段を上がる際、(マンションの共用階段に比べて)不思議と疲れないと感じました。すると中村先生がすかさずその秘密(段が三・五・七のリズムで並んでいること…)を解説、この瞬間ほど設計意図を身体でクリアに感じ取れたことはなく、校舎にたどり着く前に合宿を満喫しきった気持ちでした。
 校舎自体も高低差に富み、多数の階段が場所ごとに異なったデザインになっており移動することが楽しい建物でした。棟ごとに異なる集成材の梁のデザイン、吹抜け、コーナーごとにダイナミックに変化するスケール感、名古屋市内の鉄筋コンクリート校舎と同じ施設とは思えませんでした。建築家のデザインによる校舎と標準設計による校舎の差を、実体験を通して知れたことで、建築家の役割、デザインの大切さ、大変さを考えさせられ、講義は得難い経験となりました。
 夕食の野菜はとてもおいしく(野菜が苦手でもそう思える程)、夜は囲炉裏を囲んでの談議、翌日の浪合フォーラム見学など、とても充実した二日間となりました。「こんないい合宿なかなかないよ」と皆に伝えようと思います。
(小林祐/ワーク◦キューブ)


浪合フォーラムにて
●このシリーズ最後の2日間のセミナーにおいて、私は「建築をつくることの楽しさや奥深さ」、「建築家の職能の広さ」というものが自分の考えていたものよりもはるかに深く広いことを認識することとなりました。中村先生による講演においては、これからの建築と環境の関わりについて、「2050年」から環境をデザインするという新しい視座が紹介され、建築をデザインすることは未来をデザインすることに他ならないことを私はあらためて気づきました。
 その後の各建物の見学においては、先生がその地域住民の皆さんの参加による学校づくりやコミュニティ拠点づくりに関わり、さらにその運営方式にまで深く関与している様子が、先生自身の説明からや、その建物のプラン・デザインから大変よく伝わりました。このことは、膨大の時間とエネルギーを住民の皆さんと一緒に費やされたことが想像でき、一建築家の職域を超えているのではないかと感じるものでした。
 しかしその結果は、それらの建物が年月を経ているにも関わらず本来の姿で機能し、使う人々が誇りに思い、幸せな関係を築いていることが読みとれることに表れていました。そしてこれからもこの関係が変わらず、建物は生き続けるであろうこともしっかり感じることができました。
 また「夜なべ談義」と称し、夜遅くまで建築についての語り合いに参加させていただいたことは大変有意義な体験となりました。
 私は、このセミナーを通じ中村先生の建築や、それを使う人に対する姿勢や情熱に大変刺激を受けました。私もこれからは建物やそのソフト面にもう一歩深く踏み込んで接していきたいと思います。セミナーは次のシリーズを企画されていると聞きます。またチャンスがあれば是非参加したいと思います。
(長野卓治/野口建築事務所)