保存情報第78回
登録文化財 岡崎信用金庫資料館 渡邉 勇/ユウコウ建築設計事務所
■紹介者コメント
 我が家の近くに岡崎信用金庫資料館がある。昔から見慣れており、郵便局へ行くときはいつも目に入ってくる。この建物の道路を挟んで南側には、去年まで伝馬市場と言って公設市場があった。現在、市場は取り壊され、空き地になっている。今までは、前面道路としてはあまり広くなく、圧迫感があったが、現在は、資料館の姿を十分鑑賞できる。このたび岡崎市内では、合資会社八丁味噌(カクキュー)の本社事務所と蔵、上青野町の本光寺についで3 番目の登録有形文化財に選ばれた(2007 年12 月)。
 旧岡崎銀行本店として1917 年(大正6)に竣工。ルネッサンス様式を基調にして、中世のゴシック様式が加えられ、赤レンガと地元岡崎産の御影石をふんだんに使用した、重厚な本格的洋風建築物である。1945 年(昭和20)に空襲で内部は焼失したが外郭は奇跡的に残った。1950 年に岡崎商工会議所が買い取り、補修して1976 年まで地元岡崎の経済拠点として使用した。
 そして、1977 年に岡崎信用金庫が土地・建物を所有する事となり、1982 年に岡崎信用金庫資料館として甦ることになった。現在資料館は1階が市民ギャラリーとして地域住民に貸し出され、2 階は常設の貨幣展示室となっており、日本を始め世界の貨幣が展示されている。
 1982 年に( 社) 日本建築学会より、全国に残る明治・大正・昭和戦前の全国13,000 棟のなかから、建築学的に見て貴重であると思われる2,000 棟の一つに選ばれている。1990年には岡崎市都市景観環境賞にも選ばれている。
※参考文献:新編「岡崎市史」建造物
所在地 愛知県岡崎市伝馬通1-58
竣工年 1917 年(大正6)
構 造 煉瓦造2 階建
設計者 鈴木禎次
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 東区代官町 坂本 悠/有理社


江崎石油本社外観


名古屋陶磁器会館外観
■発掘者のコメント
 「日本陶磁器センター」「名古屋陶磁器会館」「江崎石油本社」「太洋ビル」等東区代官町にはレトロなビルが残っています。それぞれ大正末期から昭和一桁代に建築された鉄筋コンクリート造の建物で、70 〜80才になりますがまだ現役です。瀬戸や東濃といった陶磁器の産地と輸出港を背景に持つ名古屋、特に北東部に絵付け工場や貿易商社が集まり日本の陶器輸出の大きな割合を担っていました。もちろん円の安い時代、安くて上質な日本の陶磁器は飛ぶように売れ、大正末期から戦後にかけてこの地方に大きな利益をもたらしました。その反映の時代に建てられたこれらの建物は未だにモダンで、当時の建て主の心意気や造り手達の意気込みが感じられる力強い姿を残しています。
 建物の中を覗いてみると改修や補修の跡が見られます、オリジナルを尊重したもの、がっかりするもの、それぞれのビルの事情にもよるのでしょうが、設備には一応に苦労の跡が明らかで100年を前提に設計することの難しさを改めて考えさせられます。どの建物も共通するのはゆったりした空間と、幾十年を経たタイルや左官仕上げがかもしだすなんともいえない心地の良さで、街のスケールに合った大きさやバランス等本来あるべく建築の姿を見たように思えます。今日も周辺に当たり前のように建っていく自分勝手な建物がゴミのように見えてきます。そんな反省と先達のエネルギーをいただきに昭和モダンを訪ねてみてはいかがでしょう。
「日本陶磁器センター」
所在地:名古屋市東区代官町39-18 
設計者:志水庄太郎 
竣工年:昭和9年 
構造:鉄筋コンクリート造3階建 

「名古屋陶磁器会館」
所在地:名古屋市東区徳川1-10-3 
設計者:鷹栖一英 
竣工年:昭和8年 
構造:鉄筋コンクリート造3階建 

「江崎石油本社(旧同心会館)」
所在地:名古屋市東区代官町38-15 
設計者:不詳 
竣工年:大正末期 
構造:鉄筋コンクリート造2階建