JIA 愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ2「サスティナブルな環境創造を目指して」
第4回 若手建築家の瑞々しい感性と知性への驚き 〜永山祐子氏・石上純也氏〜
(鈴木達也/日本設計)
昨年春のシリーズ1スタートから数えるとちょうど10回目のセミナーとなる今回、講師としては最年少にあたる若手建築家永山祐子氏と石上純也氏のお二人をお招きしました。
受講者より若い!?
 永山祐子氏は1975年生まれ、昭和女子大学を卒業後、青木淳建築計画事務所にやはり4年間勤務した後、永山祐子建築設計を設立されました。2004年の「ルイヴィトン京都大丸店」で一躍有名となったのはご承知の通りです。高級ブランドのショップデザインを手がける最先端デザイナーと言ったイメージからすると驚くほどおとなしく控えめで、まだ大学生と言っても通りそうな雰囲気でした。
 石上純也氏は1974年生まれの33歳。東京芸術大学大学院修了後、妹島和世建築設計事務所に4年間勤務した後、2004年に独立されています。2005年にはミラノサローネにおいてトヨタ自動車の「LEXUS」展の会場デザインを手掛けて話題となりました。風貌は長髪で髭を蓄え、少しワイルドな印象ですが、お会いしてみると実にソフトでおとなしく知的な印象を受けます。
 年齢も独立した時期も大変近いお二人ですが、なによりその若さに驚いてしまうのはこちらが年をとった証拠でしょうか。。。
 このセミナーの受講者は学生からベテラン建築家、賛助会の方々含め幅広い世代がいらっしゃいますが、おそらく会場の平均年齢よりも若いお二人の先生の講義に、いつになく瑞々しい雰囲気のセミナーとなりました。
独立指南
 若い受講者の多くが大変興味を持って聞きたかったのは、若くしてどのように独立を決心したか、うまく仕事があったのかということではないかと思います。講師のお二人はどちらも有名建築家のアトリエ事務所で4年ほど勤められてから独立された訳ですが、驚いたのは永山祐子氏が勤めた青木淳建築計画事務所では、事務所の方針として「4年間勤めたら独立する」と決まっているとのこと。ですから永山氏も特別なにかチャンスがあったとか独立の意思があったのではなくて、「そう決まっていたから仕事のあてはなかったけれど独立しました。」と話されたのが印象的でした。しかし感心したのは、独立後に師匠の青木淳氏がコンペなどを紹介したり、卒業生の自立を積極的にサポートされているとのことです。これは若手を育てる責任世代としてもとても参考になるお話でした。
感性と知性
 またお二人ともキャリアのスタート時の主な仕事は、インテリアやファサードの改修だったり、家具やディスプレイデザインだったり、いわゆる建築家の仕事というよりはインテリアデザインの仕事からスタートしながら、そこで個性的な感性を発揮して、メディアに取り上げられながら有名になっていったと言えるかもしれませんが、今回お話を伺ってみて、お二人のデザインが単に「感性のきらめき」だけのものとか流行を追っただけの物ではなく、計画の考え方やデザインを実現するための周到な手段と手法がとても良く考えられた物で、実にしっかりとした理論=知性に基づいたものだということがわかりました。これには会場のベテラン建築家も一様に感心た様子でした。
デザインネクスト
 今回はセミナーの全体テーマにふさわしい「建築の明日を担う」瑞々しいお二人の講義から次世代の建築の方向性が垣間みられたのと同時に、若手のみならずベテランまでも大変感心させられた意義深いセミナーとなりました。
参加者の声
●今回の講義はお二方とも若手建築家ということで、学生である自分にとっては先を歩いているリアルな存在として、講義を非常に楽しみにしていました。
 この日の2回の講義を通して思ったことは空間に対してのアプローチが独創的で自分にはない感覚の中で建築と向かいあっているのだと思いました。光の入らない空間に採光を考えたとき、先に人の空間を考えるのか光の空間をつくるのか工程の違いに興味をもったり、庭を見るためだけのものとしてとらえ、思いをはせる場所としていたり、庭の土の上に家具をのせ住む空間としてとらえて半屋外的空間という曖昧な空間をつくりだしていたり、とらえ方一つとっても自分と
の違いに驚きを感じました。この曖昧な空間という言葉が心に残りました。独立性を持たせつつも、そこに決まりはなく住む人の自由に建築をまかせるといった新しい人と建築の在り方に気付かされたように思いました。(愛知工業大学/松村敬太)
●サマヨイカン
 若手お二人のセミナーを聴講させてもらいました。感想として、サマヨウ感覚が残っています。場所の感覚もぽわっと感、もやっと感と言ったらいいのか、そんな感じを受けました。普段、スパン割や陰影のエッジが建築の境界として慣れていすぎるためでしょうか、エッジ、陰影のない空間、均等割りのない彼らの感覚に少し酔いを感じたようです。
 まず、それぞれの観察力に感心しました。考えへのはいり方が面白いですね。そこからが徹底していて。特に石上氏の薄いギャラリーのテーブル。グラス1つからの荷重計算、置くもの、位置も限定しテーブルに波紋(揺れ)を描いてしまう。テーブルへの重さを、ディスプレイする重量の総和+α(安全率)から考えますが、まったく逆ですね。ミラノサローネで、劇場内部で行われたレクサスの展示も、霧で見えなくしてしまう。見えにくいと人は良く見ようとする。印象を残す手法も逆手です。ここでの「インテリアを風景に」という石上氏の言葉は新鮮で印象的でした。
 永山さんの作品では、繊細さと独特の浮遊感を感じる印象が残りました。タレントスクールでの角、影の無い「無影の空間」は、まるで霧の中のような不思議さで、他の作品もいろいろな発見がありそうな空間です。美容院は、床に近いところに比重があるという理由からパラボラアンテナをひっくり反し照明にするような楽しい発想は最高です。
 今回のお2人の話から、建築家の領域が建築、インテリア、家具などの区分け無い活躍に、ボーダーレスという言葉とはちがう若手建築家の可能性を感じました。永山さんの「アウトプットにこだわらず建築以外のこともいろいろやっていきたい」というスタンスと、石上さんの今後の活躍、どんな領域で仕事をされるのか楽しみです。(徳田統也/中建築設計事務所)
●賛助会員(建材メーカー)という立場において、少しでも建築家の方々と同じ視線で建築に触れることができればとセミナーに参加させていただきました。
 常日頃は自社製品の性質・特徴に視点を集中させ、いかにその良さをアピールするかに注力しており、PR先・方法・資料を考えることに頭を悩ませ、先生方がぐうの音も出ないような完璧な物を考えてやろう。そんなことを考えながらのネタ探しに躍起になっておりますが、中々そんなに簡単に行かないのが現状です。
 そんな中で聞かせていただいた、両先生の自由な発想から、様々なプロセスを経て生まれた作品の話は、なるほど良いものとはこれだけ手間隙かかるものかと納得させられる物でした。中でも特に印象深かったのは永山先生の「丘のある家」の話の中で「住宅の中に行けない場所があるのは豊かに感じる」という言葉で、発想とはひとつ閃くだけで全く違った結果を導き出し、ギュウギュウに詰め込められた理屈のカタマリではなく、フッと息を抜いた時に生まれる自由な発想の大切さを感じさせられました。
 ウチヤマコーポレーションの資料・提案は「センスがあるな」と言われるようになるように、今後もどんどん参加して勉強させて頂きたいと思います。(荒井英治/ウチヤマコーポレーション)