JIA 愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ2「サスティナブルな環境創造を目指して」
第3回 金箱温春氏と山下保博氏
(平野恵津泰/ワーク○キューブ)
第3回は昨年10 月13 日に「構造」をテーマに開催されました。講師には、構造設計の金箱温春氏とアトリエ天工人の山下保博氏を迎え、お二人の白熱した講義と対談が行われました。
 「サスティナビリティ」「構造」というテーマにおいて、金箱氏は構造設計家の立場から、山下氏は建築家としての立場から、お互い違った立場からのアプローチで「サスティナブルな構造、建築」を実践されています。そんなお二人のセミナーは会場をいっぱいにした受講者が聞き入るものとなりました。
サスティナブルな構造デザイン
 最初に、金箱氏からは、構造の世界においての「サスティナブルな環境とは」という話から始まり、構造家としての立場をはるかに超えた、建築家としての取り組みについての講義が聞けました。
1.耐久性の高い、長寿命な構造。
2.CO2削減。
3.リサイクル、リユースの発想。
4.廃棄物の低減
といった項目を挙げ、それらはすでに金箱氏が実践してきていることがらです。耐久性の高い、長寿命な=免震構造、制震構造。CO2 削減=木材の利用、ハイブリッドによる木材の利用実現。リサイクル、リユースの発想、廃棄物の低減=耐震改修の促進。それらはごくシンプルで明快なポイントではあるが、それをスマートに実践する構造家、金箱氏に感心させられた講義でした。
山下節のサスティナブル
 次に、アトリエ天工人の山下氏には、意匠家としての立場から、建築、構造、構法におけるサスティナビリティについての講義を展開していただきました。
 住宅の仕事を中心に活動していた山下氏は、国際コンペで最優秀賞を受賞して以来、用途にとらわれない建築の仕事まで範囲を広げ始めているが、常に構造や構法、コストにこだわりを持って設計活動をしている。構造、構法、部材とエンジニア的に見える山下氏ではあるが、その隠れたマスクの裏側には建築や人、物に対するもっと熱い思いが隠れているようである。自らテーマを立ち上げ、プロジェクトにて解決していく、そのプロセスにおいて周りの人を巻き込まずにはいられない。人が手を出さない分野には進んで飛び込み、山下節で開拓していくところに、山下氏の真骨頂がうかがえる。山下節にかかれば古民家もワインに例えられ、100 年の熟成材は芳香を醸し出している。


金箱温春氏


対談


山下保博氏
改正建築基準法の問題
 その後、お二人の対談が行われました。お二人の立場が違えども構造、構法、コストに対する考え方について、白熱した議論が行われ、会場の受講者も存分に楽しむものとなりました。最後に、昨年6月20 日の建築基準法改正( ? ) にともなう確認申請の厳格化についての話になりました。国交省の「建築家の犯した罪で厳格化した法律を、同じ建築家が法律の軽減を求めるようなことは…」。確かに正論かもしれませんが、現実的でないこの状況は、何とか解決していかなくてはならない状況です。金箱氏は、「国や法律に屈しない建築家であって欲しい、いやJIA はそんな建築家の集団であるはずであり、またこれからの建築家も」とエールを送り、講義は締めくくられました。
参加者の声
●アトリエ天工人の山下保博氏を初めて知ったのは、釜山エコセンターのコンペで最優秀案をとったときでした。他の案が形態や計画に偏っていたのに対して、山下氏の案は材料の提案から始まり計画まで終始一環した考えの中で建築をつくりあげていました。そのスタンスは講演の中でも明らかだったように、常に新たな材料を用いる際には、必ず産学と共同で研究した上で使うなど、単なるコンペだけでは終わらず、実践しているあたりに感銘をうけました。
 また金箱温春氏は建築と構造を一緒に考える、構造の技術を建築の中に取り込んでいくという試みの中で様々な建築家とコラボレートしているあたり、興味を惹かれていました。
 一見、異なる両氏ですが、そのスタンスは一つのフィールドだけに納まらず常に新たな可能性にむかって挑戦し、入念な裏づけのもとに建築をつくっている姿勢に単なる記号論だけでない現代建築の可能性を感じました。(犬飼高嘉/伊藤建築設計事務所)
●建築セミナーへは第2回からの参加となりますが、毎回大変興味深い講義をお聞きすることができ、隔週やってくる土曜日の午後を楽しみに日々過ごしております。
 先生方の考え方の一端をお聞きし共通して感じていることは「そんなところまで!」という驚きです。「サスティナブルな環境創造を目指して」という全体のテーマのもと展開されるお話はもはや建築という分野では収まることなく多種多様な分野におよんでおり、またそれらを挑戦、実践している事実を知り、とてもよい刺激を受けております。また、雑誌の写真や解説で知ったつもりでいた作品も、講義の中で幾つかの作品を先生の考え方を添えて説明していただくことで理解が深まり、建築の楽しさ、奥深さを感じております。
 今回の講義は金箱先生による「サスティナブルな構造デザイン」、山下先生による「『建築』からの逸脱」ということでその刺激もより大きく、構造や施工など、普段自分の考えの及ばない位置からの視点で講義を受けることができとても勉強になりました。今回の建築セミナーで巡り会うことのできた先生方のお話を、今後建築を志す上での良いきっかけにしていきたいと思います。(小林 祐/ワーク○キューブ)
●今回の山下さんの講義は、とても分かりやすい内容、やさしい言葉で、非常に聞きやすいものでした。
 山下さんは自らの仕事を4つのグループに分けて話を進められ、他の建築家とは違い、いろいろな方向から建築にアプローチされているなと感じました。
 数多くの作品の中で、ガラスブロックへの新しい試みは非常に興味深いものでした。ガラスブロックの構造材としての使用がタブーとされていた中、その常識を疑うことにより素材の新たな一面を引き出してみせる。既成のルールに可能性を見い出して、突破口を切り開く事が新しいものを生み出すという一例を示していただきました。
 また、工法・材料・コストにおいて常にベストを目指し、モックアップ等による入念なスタディを重ねる姿勢から、建築にかける熱い想いが伝わりました。
 山下さんの、常に新しい事へと挑戦する姿に、ついつい建築家の理想像を重ね合わせるセミナーになりました。(山田大輔/あいち建築専門学校)