第2回
金華の魅力
『古今金華』の製作を通して
金華との出合い直し
平井久美子
ぎふNPOセンター
 金華地区にある築110 年の古い町家「ORGAN」。ここは、デザイン事務所「オルガンデザイン室」の事務所であり、「ORGAN」の活動ベースであり、ぎふまちづくりセンターの都市景観サロン定例会の会場でもある。いつ訪れても地域の人、町の人、学生、社会人、遠方からのお客さんなど、住人以外の誰かしらがおり、さながら開かれた地域の茶の間のようである。
「ORGAN」と金華
 「ORGAN」とは、自分たちの地域をあらためて見直し、誇りを持ちたいという思いをこめ、「岐阜に住む君が、この町を愛するように」というコンセプトで発行していたフリーペーパー『ORGAN』(季刊、2005 年8 号まで発行)から始まり、現在は地域づくり、まちづくりに関心をもつ学生から20 代、30 代の社会人が集まるゆるやかなネットワークである。2006 年に編集長を務め、グラフィックデザイナーでもある蒲勇介が、金華地区の古い町家に引っ越したことから、私も地域の行事やお祭りに参加させていただくようになった。
冊子『古今金華』の誕生
 ぎふまちづくりセンターより、岐阜大学地域科学部の富樫幸一准教授を通じて「金華地域の魅力を伝える小冊子を作らないか」というお話をいただいて製作したのが『古今金華』という小冊子である。金華地域は、長良川という川が繋いできた上流と下流の交易のなかで川湊として発展してきたことや、交通の要所であったことなどから、歴史的にも斉藤道三や織田信長が金華山にそびえる岐阜城に居城し、まちづくりが行われてきた場所である。
 よく目を凝らすと町のあちらこちらにそんな歴史の断片が見えてくる。長良川に目を移せば、この地域を語るに欠かせない鵜飼いもある。その断片は、単なる過去の遺物ではなく、ここに恵まれた風土で、人がどう暮らしを営んできたのか、この地の上にどんな思いが育まれてきたのかを教えてくれる。
 しかしこの町の魅力は、歴史的背景だけではない。現在でも歴史的な積み重ね、受け継いできたものを大切にしながら、あたりまえに日々の暮らしが営まれ、暮らしやすくするために様々な取り組みが行われている。続いてきた歴史と今に生きている町の魅力。そんな両面を伝えるという思いで冊子のタイトルを『古今金華』とした。
『古今金華』(ぎふまちづくりセンター刊、問合せ:電話058-263-7180) フリーペーパー『ORGAN』
取材、製作過程での出合い
 金華地区をさらに小さく分けて、伊奈波神社の参道を中心にした伊奈波界隈、岐阜城の城下町として栄え、かつては岐阜町と名付けられた岐阜発祥の地である岐阜大仏界隈、長良川の水運中継地点であり川湊としてさかえた名残を残す川原町、金崋山、長良川。そして通常、金華地区には数えないが長良川文化を語るに欠かせないということで金華地区のまち歩きの際に足をのばしてほしい鵜匠の暮らす町である鵜飼屋を入れて6 地域。岐阜市の代表的な観光スポットが集まっている場所でもあることから、県外から遊びにきた方のガイドとしても使っていただけるような構成を考えた。
 各エリアごとに担当を決め、専門家の方にもご協力をいただきながら、歴史的背景や、地理的な背景など基本情報を網羅できるよう心を砕く一方で、実際にその場所に立ち、今も暮らす方々に会い、行われている新たな取り組みや、町への思い、場所へのこだわり、抱えている現実についてうかがう。多くの人に会い、取材させてもらうと、この町の積み重ねてきた時間と、この先に繋がっていこうとするための今が感じられるようになった。観光のための場所として残すのではなく、今に生きる人があたりまえに暮らす暮らしやすい町として、どう歴史や伝統を受け継ぎ、守っていくのか。川原町のまちづくり協定、伊奈波界隈まちづくり会のお話をうかがい、過去と今が融合した町であるように感じる。
 親しみやすいガイドとするため、金華の今を伝えるため、この町に暮らす人、この冊子の作り手など、この冊子に関わった人の顔が見えるように多くの人に登場していただいた。
 取材にあたった5人に加え、日頃ORGAN に出入りする高校生や社会人など編集部も、思い思いに古い町並みに合わせたレトロな着物姿でガイドとして着物姿で誌上に登場する。まち歩きに欠かせない、多くの飲食店やギャラリー、エアライフルなどの体験スポットを巡り、取材の趣旨をお話すると、快く語っていただけるこの町の姿。通りがかりに出会い、お庭で撮影させていただいたりもした。取材や撮影のために歩いてみてあらためて発見すること、出会える人、場所が多く、町の今がどんどん立体的に生き生きと感じられるようになっていった。資料には載っていない生きている町の姿は取材や撮影の過程で見えてきたのだ。この町の成り立ちも、昔の姿も今の姿も情報として伝えるのではなく、実際にこの町と、人と出会い、それぞれが発見する。この町を体験する。そんなまち歩きに導くガイドを「古今金華」が担えるといいと思う。
地に足をつけた暮らし
 この小冊子を製作したことで、私たちはこの町に出会い直したと感じている。漠然と感じていた魅力が何なのか、ひとつひとつ取材し、1冊の小冊子にまとめることによって、魅力をもつ場所、人、歴史、自然、そういうものがはじめて繋がりをもって見えてきて、土地としての魅力となっていたことに気付く。
 また、金華という町だけではなく、今自分の足元にある続いてきた暮らしとも出合い直したのかもしれない。地に足をつけた暮らしを、時代の変化に対応しながら、少しずつ形を変えながら守られ、続いてきた暮らし。それを教えてくれるのが、古くからの佇まいを残すこの金華地区の魅力であり、その努力を続けるこの町に暮らす人である。代表的な観光スポットを点々とまわるのではなく、「古今金華」を手に、今生きているこの町の魅力を、自分の足で歩いて見つけて、町を体験してもらえたらと思う。
ひらいくみこ
岐阜市出身。学生時代を東京で過ごし、岐阜に戻る。急速に活力を失っているように見えた町の姿に危機感を覚え、NPO 法人G-net でボランティアスタッフとしてフリーペーパー『ORGAN』の編集に関わる。
現在は、ぎふNPO センターで岐阜県郡上市にある石徹白地域へのマイクロ水力発電導入プロジェクトに参加