JIA愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ2「サスティナブルな環境創造を目指して」
第1回 千葉学氏と西沢大良氏
(久保田英之/久保田英之建築研究所)
 2007年3月から開催されたJIA愛知建築セミナーシリーズ1も、学生からベテラン建築家にいたるまで幅広く参加者が集まり、5月の宿泊研修をもって、大盛況のうちに幕を閉じました。
 この余韻も醒め切らないうちに、9月15日(土)から「サスティナブルな環境創造を目指して」をテーマにシリーズ2が始まりました。
 本誌からもお分かりかと思いますが、毎月連載される程、ハードなスケジュールであり、開催と企画の打合せが同時進行的に行われております。シリーズ2が始まって気づいたことは、JIA会員事務所のスタッフが受講生として増えたことです。それもシリーズ1の内容の濃さと充実感が、参加されたJIA会員を通してスタッフの方に宣伝していただけたものと感謝しております。
 シリーズ2の第1回目は、講師として東京大学大学院准教授の千葉学氏と沖縄国際通りに建つ商業施設のコンペティションで1等を受賞された西沢大良氏をお招きして、講演と対談が行われました。
地球環境と建築
 始めの講演は、千葉学氏から行われ、冒頭から「一つひとつの建築が環境に対して、インパクトを与えることは難しい」。この言葉は次のスライドから納得。自然の丘陵地にある茶畑の写真。人間の植えたお茶の樹が、白然の傾斜や土手を生かし、実に無理なく美しく植えられていたのだ。
 千葉氏は、我々の建築は人工的につくられるものだが、このごく自然に植えられた茶畑のように、建築が環境に馴染むものをつくりたいと。すでにある環境を、一つひとつの建築で上書きし更新していく。それが都市なのであろう。千葉氏の作品紹介の中で、度々「外周部に厚みのあるものを使いたい…」「窓の形と素材」の話が出てくる。千葉建築をつくるための重要なキーワードであるようだ。実に明確で解りやすい語の内容には、建築をつくるためにはブログラムの作成がとても大切なんだ!と心の叫びで訴えている。
 また、実作の盲導犬訓練センターをつくったときに、他の設計者から、この建物は美術館でも幼稚園でも使えるかもしれないといわれたことが嬉しかったとのこと。プログラムが変わっても使える建築。それがもしかしたら、スクラップアンドビルドの日本に大切な環境メッセージなのかも知れない。


千葉 学 氏


対談風景


西沢大良 氏
親自然的かつ親人工的
 次の西沢大良氏の講演では、自然的なものと人工的なものを同等に尊重しているという前段から始まりました。深く考えながら、黙々とお話しする西沢氏の姿は哲学者を想像させるものでした。細かな分析と理論の解釈、西沢氏の生き方がそのまま伝わってきます。一つひとつの実作においてもさまざまな仕掛けがあり、それが全て言葉で説明できてしまえる程、悩み考え尽くされた西沢氏の世界が広がっていきます。
 住宅の設計一つとっても単なるデザイン性ばかりを重視するのではなく“生活”という現実に目を向け、決して逃げない姿勢は我々に深い共鳴と強い衝撃を与えたのでした。
 とても信念が強く人生をかけて生きている。それが西沢氏に対する印象でした。
建築家の個性を磨く
 その後、お二人の対談が行われました。千葉氏からは、様々な経歴からチャンスを楽しみ、また、ものにしてこられたお話でしたし、西沢氏からは他の人の作品を実際に見に行って何か発見できるものは名作。雑誌と同じ情報量しか得られないものは愚作(?)との建築観のお話で幕を閉じました。
 私感ですが、建築のつくり方やクライアントとのかかわり方を山登りに例えると、様々な山を軽やかに渡っていく千葉氏と、途中途中でテントを張って、思いにふける西沢氏とは好対照にも思えますが、それがお互いに引き付け合う仲なのだと講演会で知りました。
 自分にもっていないものが互いにあり、認め合う。よきライバルが必要だという思いは参加された誰もが思ったことでしょう。
 最後にこのセミナーに参加された学生・建築家の卵、これからのJIAを支えるであろう若手建築家に執筆をいただきました。ご覧いただき、何かの機会がありましたら声をかけてあげて下さい。それがこの地域の建築界を活性化させるセミナーの隠れた趣旨なのだと思います。
参加者の声
●今回、初めて建築セミナーに参加しました。自分の知識を増やし、これからの進路に役立たせることができたらと思います。現在東京で活躍されている建築家のお話を実際に聞ける機会はないので、たくさんのことを吸収したいと思っています。
 今回は、「サスティナプルな環境創造を目指して」というテーマで、千葉学先生と西沢大良先生の講義を聞きました。千葉先生の講義で印象に残ったのは、壁に厚みを持った建築でした。東京では、周りの環境が良くないと言うことで、外壁を厚くして設計された住宅の例を見ました。内部空間を広く取るために、なるべく壁の厚さは最小限のものが良いと思っていた私には、大きな発見でした。窓枠には、ステンレスの枠が張られて、あまりキレイではない環境でも、そこに写し出すことによって、違った楽しみ方ができるようになっていました。良くない環境でも、どうにかして、環境に対応できないかと考えることが大切であると学びました。
 西沢先生の講義は、とても哲学的でしたが、聞いていてとても納得できるものでした。自然を大切にしなければいけないという思いが、私の中で大きかったので、「人工的なものがなければ、人間は生きていけない。自然にもいいところがあって、人工にもいいところがある」ということを聞いて、人間が人工的につくってしまったものは、私たちが生きていくために必要なもので、それを受け入れて自然との共存できる建築を考えていかなければと思いました。
 今回の講義は、どれも興味を引くものぱかりで、とても楽しんで聞くことができました。今後の講義も楽しみです。(加藤美紅/金城学院大学)
●今回初めてJIAの講座に参加させていただきました。今年3月、大学の建築学科を卒業し、社会人になりたての私にとって、設計事務所での実務は毎日が勉強であり、新たな発見の連続です。しかし、実務に携わる中では、専門技術・専門知識を身につけていくことに力を費やし、建築や環境について大きな視点で総合的・本質的にものを考えることを置き去りにしてしまいがちであると感じつつありました。
 そんな中、このJIAの講座で「環境」という一つの大きなテーマについて、国内外で活躍しておられる建築家の先生方の考え方を聴請させていただきました。先生方のお話はとても興味深く、今回のテーマである「環境」について、それらをどのように捉え、どのように建築と結びつけているかということが、作品を通して明確に伝わってきました。そのような意味で、今回の講義を通して、先生方の考え方から学ぶことは思った以上に多くありました。
 そして何より、建築は環境をつくりだす行為でもあり、同時に環境を破壊する行為でもある以上、建築に携わる上では、日々の実務において専門技術・専門知識を身につけていくことと同時に、建築や環境についてより総合的な視点をもって考えていくことの必要性を実感いたしました。12月まで続くこの講座で、建築の様々な分野の先生方から多くを学びたいと思います。(平野智那/小林聡建築研究所)
●まだしばらく残暑が続きそうな中、セミナーの第1回目が開催。「同志よ金山に集結!」的な熱気を帯びた一室は、机も椅子も大学の講義室と同じタイプ。久し振りの長時間のセミナーに、体の痛みを多少感じつつも、学生に戻った気分で懐かしくもあり、情熱的な時間を過ごさせていただきました。
 このセミナーの醍醐味は何と言っても、建築家本人から直接の声を聞くことに尽きると思います。普段、雑誌で拝見する第一線で活躍されている方から、建築・環境がどのような考えを基に創造されていくのかを直接聞くことにより、雑誌の写真・解説等ではわからなかったところが見えてくるのがとても興味深かったです。
 千葉氏のお話では、環境は維持されるべきものである一方、創造されていくものであるといっスタンスの中、建物(空間)を長持ちさせるために、流用性のあるプログラムで冗長性を持たせるという考え方が、非常にニュートラルであると感じました。
 西沢氏のお話では、環境を捉える時のキーワードとして挙げられた、「親自然的かつ親人工的」という言葉の中に感じられる強さみたいなものと、御自身の雰囲気や口調から受ける力強さに、何だか圧倒されてしまいました。「名作と呼ばれる建物には、雑誌に載る情報では伝えられない何かが必ずある」という言葉が今でも心に残っています。
 セミナー終了後は興奮醒めやらぬまま、「第2回からも楽しみだ…」と思いつつ、帰路につきました。(岩田和哉/建築設計室アーキハウス)