JIA 愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ1 「歴史を通して建築の明日を語る」
第6回 五十嵐太郎氏講演と1泊研修
(吉川代助/Ys建築工作舎)
充実したセミナーと見学会
 3月17日(土)に始まった建築セミナーも、5月26日(土)、27日(日)に最終回を迎えることとなりました。
 今回は、会場をトライデントデザイン専門学校に移し、建築批評家として皆さんにおなじみの五十嵐太郎先生の講義と先生のコーディネートによる、宿泊見学会もあわせて行いました。
 講義のタイトルは、「21世紀の建築デザインとは」。シリーズ1の締めくくりにふさわしい内容でした。
 建築の起源にまつわるお話から、近代を経て現在に至る建築デザインの流れまでを先生の考えに基づいてお話しいただきました。近代において、建築の源流となった「技術、新しい素材など」に対して、現在からこれからの建築の素となる考えについて五十嵐先生の「オルタナティブ・モダン」の解説を交えながらわかりやすくお話いただきました。これからは「技術、素材」などでなく「アートやソフトウェア」が大切なキーワードとなっていくであろうとお考えのようで、私自身も共感できるすばらしい内容でした。
 講演終了後あわただしく、バスに乗車し滋賀県の長浜市へ向けて出発しました。琵琶湖のほとりの宿に到着後、翌日の見学予定の「Springtecture/B」を設計された遠藤秀平さんご夫妻にも合流いただき、食事懇親会が催されました。学生さんたちも含め若い建築家の卵たちが、五十嵐、遠藤両氏をとり囲み、さまざまな建築のお話を伺っていました。彼らにとってまたとない貴重な体験になったことと思います。
 翌日の、午前中は各自で長浜市内を散策、昼食後、遠藤秀平さん設計の「Springtecture/B」を見学しました。コルゲートパイプの持つ無骨なイメージとは裏腹に、内外が一体につながりながら、つくり上げられた、とても開放的な空間を、遠藤さんご白身にご案内いただきながら、堪能しました。
 再びバスで移動して、伊東豊雄さん設計の瞑想の森各務原市営祭場の見学です。休日、休館日にもかかわらず、各務原市役所の方に案内いただきました。
 まず最初に、工事現場を統括された、戸田建設の所長さんに、工事中の解説をいただいた後、各自で見学しました。ランドスケープと建築が融合した、とても緊張感のあるすばらしい建築を感じながら、自分の火葬のときを思いめぐらせていました。
 遠藤秀平さんの「Springtecture/B」と同じく曲線で構成されている建築ですが、模型を多用して空間を考えている遠藤さんの空間と、CGなしでは成立し得ない伊東さんの空間。セルフビルドでつくられたおおらかな遠藤さんの空間とゼネコンの総合力できっちりとつくり上げられた緻密な伊東さんの空間。設計の手法、工事の方法まで対照的でさまざまなことを感じ、共感させられました。
 2日問のセミナーと見学会でしたが、世界に向けて活躍しておられる建築家を交えての懇親見学会はすばらしいものになりました。今回のセミナーに参加された、若い世代のこれからの建築家にとって、建築をつくるすばらしさを、感じとっていただけたのではないかと思います。建築を取り巻く状況は、決して楽観を許さないものですが、そんな思いを胸に秘めてこれからの建築家として、がんばっていっていただきたいと切に願っています。
フランスでの経験を生かした建築遺産の継承
講義風景 遠藤周平邸
「Springtecture/B」
伊東豊雄設計「瞑想の森各務原市営祭場」にて 参加者
狙い通りのセミナーに
 シリーズ1「歴史を通して建築の明日を語る」は、大変好評の内、無事終了する事ができました。
 当初、定員の50名に達しないのではないかとの心配をよそに、JIA会員を始め、その所員、賛助会員の皆さま、非会員の設計監理に従事している仲間や、建築を学ぶ学生たちなど多くの立場の方にご参加いただき、日頃なかなか聞くことのできない、建築の第一線で活躍する先生方の実務を通した興味あるお話の数々、また、建築以外のお立場の先生方のお話など、それぞれの分野でテーマに沿った、地球や人類の歴史を通して過去から現在そして未来の建築のあり方、建築を通して自然と人間の関係など、歴史を通して語られたように思います。
それは講師それぞれの分野の視点による建築の見方・考え方・表現方法など、多くのことを学べたのではないでしょうか。いずれにしても、建築はグローバルな世界です。いろいろな角度から建築を学ぶ必要性に気づかされた、まさに狙い通りのセミナーになったと思っております。
また、今回のセミナーの特色の一つである、最後の講義の後に講師と共に泊り込みで建築を語り合う企画は、参加者の感性に大いに刺激を与えたようで、大変い好評でした。
 これも一重に、このセミナーにご尽力くださいました本部のご協力と、講師を快く引き受けていただきました講師の先生方、その他、多くの関係者の皆さまのお力添えの賜物です。本当にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。
 この報告が皆さまに届く頃にはシリーズ2が始まっていると思いますが、今後とも皆さまの温かいご支援、ご協力、よろしくお願い申し上げます。(道家秀男/建築セミナー特別委員会委員長)
建築セミナーのこれから
 今年の3月から、私の10数年来の念願であった建築セミナーが開催できました。開催にあたってご努力いただいた委員の皆さまや、事業費を使っての開催にご理解をいただいた会員の皆さまに、この場をお借りしまして、心から感謝いたします。
 セミナー開催にあたっては、単発の講演会の連続開催ではなく、固定メンバーによるスクール形式のセミナーとしての開催にこだわらせていただきました。と言いますのは、20年近く前に東京で受講した建築セミナーが同様の形式で開催され、期待していなかった分野の講義から多くのものを得た経験や、共同で課題設計にあたることによってメンバー間の交流が生まれたことに意義を感じていたからです。今回は、つまみ食い的になりがちな単発の講演会、勉強会とは違って、建築設計にかかわるいろいろな分野に渡ってバランスよく受講いただこうという部分については実現できましたが、もう一方は今後の課題として残りました。
 講義内容として、発想時の「今さら聞けない」シリーズとは違い、ビッグネームや建築分野に偏った人選での開催となったのは、未知のものをキックオフするのには必要なことであったと考えています。しかし、当初目的の、木造建築や設備の基本についての「今さら聞けない」セミナーの開催も今後の課題として検討してまいります。
 結果的には、当初目的であった各事務所内ではなかなか行えない事務所の若手のための勉強会が、登録建築家会員のためのCPDの様相になったものの、会員以外の方の参加も多く、将来の会員増につながればと期待しています。
 一般会員にとっては突然始まった感があり、土曜日の仕事の兼ね合いで参加したくてもできない状況があることも聞きますが、2回、3回と回を重ねるごとにセミナーが定着し、仕事との折り合いも付けられるものと考えています。1シリーズの開催日数や、開催のピッチ、年2回の開催など、委員の負担も大きいとは思いますが、回を重ね慣れることによってルーティン化され、今までのように総掛かりで準備にあたらなくても良くなってくると思います。がんばって下さい。
 今の開催ピッチなど運営方式はよく練られたものであり、問題が発生してもマイナーチェンジで対応できると思われます。願わくば、私の会長在任期間のみの開催ではなく、永続されることを希望しています。(服部滋/JIA愛知会長)