JIA 愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ1 「歴史を通して建築の明日を語る」
第4回 赤松佳珠子氏と竹内昌義氏
(後藤文俊/アトリエ後藤建築事務所)(平野恵津泰/ワーク○キューブ)
最新テクノロジーを使った意匠、計画
 建築の明日を語る」第4回は、ゴールデンウイーク直前の4月28日に開催された。第1回のオープニングテーマ、第2回の環境デザイン、第3回の構造に続く第4回は、意匠・計画についての講義となる。講師にお迎えしたのは、第一線でご活躍の若手著名建築家、赤松佳珠子氏と竹内昌義氏のお二人。会場を埋め尽くしたほぼ全員の熱い視線から、お二人への関心の高さをうかがい知ることができた。
 まず「現在・過去・未来の建築のあり方を探る」という演題に基づきシーラカンス・パートナーの赤松氏が口火を切った。プロジェクターのスライドを使い、演題、キーワード、作品紹介へと続く。今まで目に見えないものが見えてきた瞬間だ。五感で感じる目に見えないものを焦点にコンピューター解析によって視覚で確認することを繰り返しながら建物のクオリティーを上げていく、それはさらなる意匠に対する興味へと誘う。
 100年50年前にできなかったことが、コンヒューターの最新技術によりモデリング、解析、作図、検証が可能となる現代。産業の発達にともない、世界中の建物が平準化してきていることの矛盾を感じ、それを変えるべくある視点から「Wind」「Light」「Sound」「Structure」「Activity」「FLA」のキーワードを基に作品の説明に加えた。
 「Wind,Light、人のActivityにしても常に流れているものをどういうふうに建築に取り込んでというよりも、流れているものを遮らずに建築化していくかが一つの大きなテーマかな」と赤松氏は語る。
 最後に紹介された、進行中のプロジェクト、ユニバースセントラルアジアという大学についても「こういった中央アジアのようなところで仕事を始めると、建物を建てるということに対しての考え方を自分たちで考え直さなければいけない」「コンピューターなどを使っていろんなことを解析しながら、全ての建物のコントロールを技術に頼るのではなく、自然とどう向き合っていくかという部分で最新のテクノロジーを駆使していくことが、今後自分たちがいろんな建物を設計していく上では重要になっていく」。
 自然の力は偉大であり、人間同様そこに存在するものは全て自然を無視することはおろか、共にバランスを取りながら共存していくことを改めて実感させられる。我々が今便利に使っているものは全て、過去の財産の積み上げに成り立っている。建物をデザインする上でそういった技術を活用する部分と、それぞれの地域にある伝統の文化を生かしながら向き合う思いは、新たな建築に対しての時代をはらんでいる。そんな語りに何故か熱いものがこみ上げてきた。
9月より開始するシリーズ2を現在企画中である。是非ご参加ください。(後藤文俊/アトリエ後藤建築事務所)
今どきのパートナーシップ
 竹内昌義氏は、「みかんぐみ」としての建築作品と、「竹内昌義」個人としての建築活動を明確に区別をしている。それが、みかんぐみのパートナーシップのあり方であるという。私としては、みかんぐみの建築作品というよりも、そんなパートナーシップとしてのあり方や、竹内昌義という個人に共感を覚えることができたことが、この日の最大の収穫であったと思う。
 活躍が目覚しい若手建築家集団を代表する2つの集団の二人、赤松佳珠子氏(C+A)と竹内昌義氏(みかんぐみ)を迎え入れることができ、学生や建築家の卵はたまた、ベテラン建築家にもいい刺激になったセミナーであったと思います。
 セミナー終了後、学生や、若手を交えた懇親会に快く参加していただいたお二人は、学生の頃からの旧知の仲であった。また、意外に講師をしていてもお互いの講演を聞く機会がないということで、お二人にも興味深い企画であったと感謝された・これは、JIA愛知建築セミナー2007の大きな収穫の一つである。
(平野恵津泰/ワーク○キューブ)
赤松佳珠子氏 竹内昌義氏 会場風景
参加者の声
●お二人の話で共通していると思うことはコラボ部分が非常に多いこと、つまり自分の専門外での話が半分くらいあったこと。改めて建築家のフィールドがどこにあるのかを考えさせられました。
 赤松氏のお話を聞くと、いろいろな流れをグラフィカル的に処理して集積して設計をされていると感じました。「流れ」に逆らわない建築を目指しているようにも思いました。しかし、PC演算は初期設定ありきの話、逆にいえばそれを変えれば思うままに操れる。実際できてからの検証はされているのか、疑問に思いました。
 竹内さんのお話はリノベーションとは何かを考えさせられました。あそこまでいくと新築に近い印象を受けます。「何をリノベートするのか」「建築物の終わりとは何か」などをお伺いしたかった。竹内さんが切り捨てる選択肢をとらないところが僕にとって新鮮な考え方でした。
 今回は歴史と絡めた視点での話があまりなかったので少し残念でしたが、お二人の話を聞いて率直に感じることは、楽しく設計されているということです。そういう気持ちを忘れずにして僕も日々の仕事を全うしようと思いました。(藤村篤/三共建築設計事務所)
●すごく身近なことや自然を感じることをテーマとしたものが多く聞きやすく興味の持てる内容で、今まで見過ごしていたことに気づかされました。また、生活の中であまり気にしていないことでも、よく考えると不思議なことはたくさんあるということを思い知らされました。考える視点、見る視点を変えることの大切さを改めて感じました。また、ただ単に過去に戻すのではなく、その場所の歴史や伝統を考慮しながら新しいモノで問題を解決していく姿勢にすごく興味を惹かれました。環境問題がよく議題に上る現代だからこそ、古いモノをどう生かすかということは大切なことだと思います。古い空間はそれだけで味があり面白いが、汚れて、壊れていたりでそのままでは使えない。と言って全て壊すのではなく、前の一部をどこかに取り入れ、新しいモノをつくることも必要だと思いました。竹内さんの“もったいないから始まるリノベーション"という言葉はこれから先、とても重要なことだと思います。そしてモノを大事にすることに繋がるのではないでしょうか。(織田麻衣子/愛知工業大学)
●学生の身である自分にとって、自分の後ろを整理し、そこから新しく進むレールの引き方を模索できる絶好の機会となりました。まさに講義の始めに語られていた「原点回帰」です。風、光、音。これらを建築に反映させる上で、大切なことは自然であるということ。それはその土地の歴史を意味すること。この関係性から見えてくる物を大事にしていれば必ずいい物としてその土地に根付くことができると強く感じました。今の自分は奇抜なデザイン、格好の良いと見えるデザイン、辞書で引くと同意語として扱われるこの意匠とデザインを誤解し、自已の満足として図面を描いている時期でした。それは、ただそこに存在するだけで、在るべくして在るわけではないと気付かされ、そこに足りなかったのは関連性であり、自分が見落としていたものでした。建築を始めて学んだ時には持っていたものを、いつのまにか技術の方ばかり目を向けていた自分にとって今回の講義は根本に帰る有意義な時間となりました。(松村敬太/愛知工業大学)
●とくに都市部では10年もすれば街並みが全く変化してしまうように、容赦なくスクラップされていく建物がある一方、人々から愛されその歴史を後世に伝え、環境・地域に根付いていく建物もある。建物の運命を決めるのも建築家の手に掛かっている、そんなことを感じさせる今回の講義であった。
 風・光・音・人の動きなどのコンピューターシミュレーションにより、ハイクオリテイーな建物をつくる赤松氏のアプローチ。建物の記憶をできるだけ生かし新たな命を与える竹内氏のリノベーションの手法。両者に共通しているのは計画する建物や場所の自然や地域・歴史的な特性を読み解き、いかに建物に取り入れ、新たな歴史をつくり出すかであった。
 不合理なものは消えていく一方で、土間や畳・縁側・障子などのある古い街に行くと、心が落ち着く。また、様式が多様化・均質化した建物が並ぶ都市部でも、なんだかいいなと思える空間はある。そのような場所は、我々日本人の記憶の断片やDNAに染み付いている何かを備え持っているのだろう。
 建物が人々の共感を得、地域に根ざしたものとするために、そのような要素を取り込み、適切な使命と位置を見つけてあげることが建築家の役割であると感じた。(中川竜夫/塚原建築研究所)