保存情報第70回
登録有形文化財 旧加藤商会ビル 尾関利勝/地域計画建築研究所


レンガタイル張りの外観


堀川側から
■発掘者コメント
 最近、広小路・納屋橋界隈の風景が変わってきた。堀川沿いに遊歩道が整備され、これに面して現代風の飲食ビルが建ち並び、昔とは少し違った風情だが、都心で川に接することの少ない名古屋市民にとって、希少な水際空間として親しまれている。
 納屋橋北東の袂、柳の緑が生えるレンガタイル張り3階建て(堀川からは4階建て)のビルが1931年に建設され、2005年に市民に開放された「堀川ギャラリー」(地下)と、タイ料理レストラン「サイアムガーデン」(1階〜3階)に活用して、新たにオープンした旧加藤商会ビルである。
 このビルは1931年加藤商会の本社ビルとして建てられ、1935年から1945年終戦までシャム国(現在のタイ)領事館が置かれていたことでも知られる。1967年に加藤商会から中埜産業(株)に建物が売却され、最近では外壁を酒蔵風の白い壁で覆った広告塔として利用されていたものを、2001年に名古屋市が中埜産業(株)から寄付を受け、土地を名古屋市土地開発公社が先行取得後、2001年4月に登録有形文化財に登録され、その後名古屋市が建物内外装を修復整備し、民間の利用者を公募してオープンの運びとなった。
 建物は鉄筋コンクリート造、外観は初層を基壇、屋上パラペットを帯状に巻き、2、3階壁面はレンガ調タイル張としている。開口部と均等に配置する柱型を大オーダーとする当時の事務所建築に多いバロック調デザインだが、設計者、施工者とも分からない。
 かつてこの東向かい、結婚式場のあたりに小さな赤煉瓦ビルがあり、残っていれば、納屋橋界隈の昭和初期を伝える風景だったと思うと残念だが、旧加藤商会ビルがレトロなデザインの納屋橋と一体になって残っているのが救いになっている。
所 在 地 名古屋市中区錦1-15-17
構  造 鉄筋コンクリート造
規  模 地下1階、地上4階(塔屋)
敷地面積 99.85u
建築面積 75.23u
延床面積 310.52u
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 覚王山日泰寺の88カ所霊場 谷村 茂/R&S設計工房

3番札所

83番札所他

23番札所

日泰寺参道の毎月21日の弘法様の縁日
■発掘者コメント
 日泰寺界隈は保存情報でいくつか取り上げられているが、意外と見過ごされているのが、この四国88カ所霊場巡りだ。日泰寺参道から境内へ入る直前の東側から姫が池と城山新町1丁目全域にかけて小さなお堂が立ち並んでいる。元々、この一帯は日泰寺の境内で10万坪といわれる広大な敷地に寺と墓地が点在している。毎月21日に開催される弘法様の縁日には朝から年配者が行きかい、我々住民も今日は21日だ、と気付く次第だ。
 境内に何個所か高札が掲げられていて由来が述べられている。それによるとこの霊場は、この覚王山につくられた霊場を巡ることによって四国88カ所巡礼をすることと同じ信心が得られるようにと数名の勧進帳によってつくられたようである。明治42年から大正初めまでにつくられた1番札所から88番札所までの小さなお堂は四国の実際の霊場と同じ名前が付けられている。
 88カ所霊場は、姫が池から自由が丘へ抜ける道が拡幅された時に移転させられたりしたために、設立当時の有り様とは様変わりしている。また、現在は寄進者の代替わりなどで、閉められたままの状態のお堂や、壊れたまま再建されないものもあるようであるが、日曜日や祭日と重なったときは、お弁当持参で一日、巡礼者の接待をしたりしてにぎわっている。
所在地 名古屋市千種区