JIA 愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ1 「歴史を通して建築の明日を語る」
第3回 佐々木睦朗氏と飯嶋俊比古氏
(吉元学/ワーク○キューブ)
構造家の建築への情熱から学ぶ
 さる4月14日、昭和ビル9階の大会議室にて3回目のJIA愛知建築セミナーが開催されました。今回は構造の分野から法政大学教授の佐々木睦朗氏、飯島建築事務所の飯島俊比古氏をお迎えして貴重なお話をお聞きすることができました。受講者は55名と両氏への関心の高さを示していました。
建築家とのコラボレーション「構造家の枠にはまらない構造家」
 当日、昭和ビルの玄関で佐々木先生をお待ちしていると、氏はニューヨークヤンキースのキャップをかぶったカジュァルなスタイルで軟爽と現れました。このいでたちで日本中いや世界中を飛び回ってみえるのでしょう。
 講義が始まると、当初心配していた難解な建築構造の専門用語が飛び交うことはなく、分かりやすく興味深いお話の連続でした。
 フェリックス・キャンデラのHPシェルの話に始まり、原点であるミースのバルセロナパビリオン、ガウディのサグラダファミリアの話。佐々木先生の代表作であり、大きな転換点でもあるせんだいメディアテークは、ミースとガウディを一体化できないかと考えていた時に伊東豊雄氏よりあの有名なスケッチを見せられ大きなショックとともにひらめきを得たとのことでした。
 アーキテクトでもエンジニアでもないという佐々木先生は、理屈通りにつくった作品は「きれいだが何かもの足りない」といい、妹島和世氏、伊東豊雄氏、磯崎新氏との強烈な個性と個性の真剣勝負「やり合うコラボレーション」によって作品をつくり出している。
 「モチベーション」という言葉が使われ出したのはJリーグが開幕した頃だろうか。氏はこれを大切に考えているようでした。その意味ではこのセミナーは隔週で「情熱大陸」や「トップランナー」を生で見ることができるいい機会だと思います。
 東京の街を観察するのが今一番楽しいという氏はとにかく多才の人であり、次回の東京都知事選に出馬しているかもしれない。
素材を通して構造を考える「アルミのエキスパート」
 飯島先生のお話はアルミの製造法の歴史、地球資源としてのアルミなど、アルミについての基礎知識から始まり、アルミの可能性を追求する数々のプロジェクトについての説明がありました。
 近年のアルミ価格の高騰など大変なご苦労をユーモラスな語り口でしゃべられるのが印象的で、アルミという素材になぜ挑戦されているのかという理由も「そこにアルミがあったから」的なものでした。
 私の師である広瀬鎌二は「鉄の男」と呼ばれ、1953年日本初の軽量鉄骨造の住宅「SH-1」を世に発表しました。しかし、鉄の可能性を探り、その限界を感じると、さっさと鉄を捨て木の自邸「肆木の家」へと変わっていきました。フロンティアとはそのようなものだろうか。
 耐震偽装事件以来、構造設計者が世間の注目を浴びていますが、丹下健三氏の代々木体育館のデザインの根幹をなしていたのが構造家の坪井善勝氏であるように、われわれ建築家も優秀な構造家と出会い、切磋琢磨していく良い関係を築いていきたいと考えます。
佐々木睦朗氏 飯嶋俊比古氏 熱心に聞き入る参加者
参加者の声
●今回は策一線で活躍される構造家によるとても興味深いお話を伺うことができました。
 前半は、“FLUXSTRUCTURE"、コンピューターの処理速度向上・進化にともない、自由曲面・3次元的な構造が可能になったという内容。近未来的でもあり、しかし原始的・有機的でもあるこの美しい構造物は「ミース」と「ガウディ」という相反するような2人にルーツがある、という冒頭の言葉に重ね合いとても印象的でした。しかしこの流線的で曲がりくねった構造体を実際につくる施工側の格闘は、想像以上でしょう。
 後半は、アルミニウム建築について。アルミ素材の利点や長所を生かした建築部材や製品が、商品化されているとのこと。例えば、強度も高く、水や腐食にも強い特徴を生かしたアルミ土台など。また、リユース、リサイクル性もあり環境にもやさしい。押出成形による自由な断面形状を可能にする機能性など。高価という短所がある反面、このようなアルミニウムの特徴を生かした幅広い用途の可能性を感じました。
 このような構造と素材という視点から、建築の最前線を感じ、とても有意義な時聞を過ごすことができました。(松原知己/久保田英之建築研究所)
●最近いろいろな意味で注目を受ける構造ですが、学生の頃は授業単位をとるだけで、といったようになかなか学ぶ機会がなく、設計事務所で働き1年が経ちましたが、まだまだ勉強中といったところです。そんな中、構造家として有名なお二人の講義を聴けるとあって、とても楽しみにしていました。
 前半の佐々木睦朗氏はせんだいメデイアテーク、金沢21世紀美術館といった近作の紹介を中心に、非構造や自由曲面といった佐々木氏の建築に対する考えや、有名建築のウラ話をお話しいただきました。後半の飯嶋俊比古氏はアルミについての歴史、性能、作品といった、ひたすらアルミについての細かな部分までお話しいただきました。両者の話はとても興味深く、刺激のある講義でした。
 空間は3次元なので、構造の存在は大きい。どれだけ綺麗に着飾った建築でも、無骨に梁やブレースが現れていると急に夢から覚めてしまう。なんとなく構造が不安定そうな空間にすむと心配で眠れないだろう。地球上にいる限り、さまざまな与件がありさまざまな影響を与える。構造を扱うには繊細で絶対の自信がないとできない。それをやってのける構造家の凄みを今回の議論を通して感じました。
 繊細に大胆に、ユメのような空間を完壁なユメとして現実に完成させる、そんなことが可能だと、わくわくした。(久田美紀/道家秀男建築設計事務所)
●シリーズ1のセミナーも3回目!「構造」についての講座を迎え、受講前は小難しい「構造」の話が始まるのかと、正直思っていました。
 しかし、幅広く仕事をこなす先生方のお話は大変興味を持つものとなりました。形に対する「試み」や素材に対する「試み」。常に新しいものを追求する姿勢に刺激を受け、とても共感できるものがありました。規模は違うものの、一応、同業者として建築を手がけてはいるが、「形」に捕らわれていたり、施主の意見を優先させ、自分の中にある「試み」も表現できていないことがある。
 だから、今日のようなセミナーや、多くの建築を見て回り刺激を受けるようにしています。今日に限らず、幅広く活躍されている先生方だけあって、興味をもって受講できたし、刺激も受けました。
 本日のような有意義なセミナーを主催していただいたJIA愛知の方々にも感謝します。(田端英敏/タバタ設計)