JIA 愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ1 「歴史を通して建築の明日を語る」
第2回 仙田 満氏と青山晴美氏
(鈴木達也/日本設計)
いよいよ第2回セミナー!
 大変好評だった前回の藤森照信・国広ジョージ両講師のエキサイティングな講義の余韻もまだ冷めぬ3月31日、昭和ビル9階のホールには再び会場いっぱいの受講者が集まり、第2回のセミナーがとり行われました。
 このセミナーのメインタイトルには実は2つの意味があります。一つは「明日の建築をつくるのは20代、30代の若い建築家&その卵たち」であること、もう一つは「建築をつくる仕事は若手にとってもベテランにとってもすべて明日をつくる仕事である」ということです。
 セミナーの企画段階から単に「ベテランがすでに知っていることを若手に教える」というものではなく、世代に関係なく建築をつくるすべての人たちに現代の建築創造の課題や21世紀の私たちの進むべき道筋を考える機会をつくりたい、そして若者にとっては深く広大な建築の世界に触れ、またベテランにとっても「目からうろこ」のセミナーにしたいとの強い意志を持って取り組んできました。
歴史を通して「環境」を語る!
 今回は「環境」をテーマにした講義でしたが、講師にはJIA会長の仙田満さんと愛知学泉大学短期大学准教授の青山晴美さんをお招きしました。
 仙田先生はご存知の通り日本の環境建築のパイオニアのお一人で、約30年も前に環境デザイン研究所を設立されて以来、研究・実践・教育などさまざまなフィールドで活躍されています。今回の講義では、日本の環境デザインの歴史からご自身の作品や研究を大変分かりやすくプレゼンされ、これから私たちがめざすすベき「自然共生」と「地球環境デザイン」のビジョンを披露していただきました。
 青山先生は今回建築以外の分野からお招きした唯一の講師ですが、オレゴン大学ご卒業後、黄色人種である日本人のアイデンティティを確認すべく、世界中を旅して少数民族や原住民族の人たちと交流するなかから、オーストラリアの原住民族アボリジニに出会い、そのはるか昔から守り続けられている白然共生生活や伝統文化、壮大な世界観を研究し、現代人の私たちに警鐘を鳴らしていらっしゃいます。
 この日の講義は、ご白身の「白分探しの旅」から始まるアボリジニとの出会いや、文明とは対極にある驚くべきアボリジニの文化を、大変エネルギッシュに分かりやすくお話しいただきました。
 分野も世代も違う、全く異なるフィールドの講師お二人のお話を連続で受講することは、不思議な共通性と相乗効果を生み、建築家としての使命があらためてこころに刻まれた素晴らしいセミナーでした。
 今回も受講生の中から「明日の建築家」を目指す3名の方に感想文を寄稿していただきました。皆さん講義の中からかけがえのないものを学んだ喜びが感じられ、企画者の一人として大変光栄に感じています。
仙田 満さん 青山晴美さん 講演の様子
参加者の声
●地球環境温暖化が問題視されてから久しく、切迫する地球環境の変化。身近にも異常気象などを感じるようになり、私たち、一人ひとりが真剣に環境のことを考えなくてはならなくなった今、環境建築家としての仙田氏、建築以外のアボリジニ民族学からの立場としての青山女史の環境への考え方はとても興味を持って聴き入ることができました。
 その両氏の講義で大変興味深かったのは、新鋭建築家の環境デザインを深く研究された考えと、先住民族アボリジニ民族の昔から変わらず守られてきている思想に、【関係】と【子ども】というテーマが共通していることでした。
 前者の、環境をデザインするということは、空間的・社会的・時間的、あらゆる関係をデザインすることであり、人間と空間との関係を実態的に捉え、関係性を見出す研究を大切にするという考えに対し、後者の、全ての関係に恵みを与え合うという調和の心を持ち、親・友人・動植物など周りの環境と関わることを大切にしている暮らし。そして、両者にとってその考えの原点は、未来に生きる子どもたちのよりよい環境のためであるいうこと。
 結局、資本主義経済の世の中で、目先のエゴにより取り巻く環境を無残に破壊し続けてきてしまった私たちにとっても、現在もテクノロジーにたよらない創意工夫により、偉大な文化を創造し、取り巻く環境に調和し暮らすアボリジニ民族にとっても、大切な思想は共通するものなのです。
 「母が最初の胎動を感じたとき、この瞬間選ばれた子供の魂が入り込む」。その神秘的で壮大な生命の世界に引き込まれていくようなアボリジニ民族の思想にあるように、この広い宇宙の中、選ばれ誕生したかけがえのない命。地球上全ての命はかけがえのないものであり、全てが平等にその美しい世界を共有していかなければならなく、何よりも未来を生きる【子ども(子孫)】へと残していかなければならない。今、調和の心で【関係】する全てのものに、真剣に向き合うまなざしが必要なのだと感じました。
 今回はそのように現代に生きる人々に課せられた責務を、建築家という立場として果たしていかなければならないということを強く実感しました。
 このようなすばらしい講義をいただいたこと、講演者、運営関係者の皆さまに、心から感謝申し上げます。今後も、このようなすばらしい勉強の機会を与えてくださることを期待しております。(中川奈々ヤスウラ設計)
●前回の藤森氏、国広氏の講義に続き、今日は仙田満氏、青山晴美氏の講義。どんな話が聞けるのかとワクワクしながら昭和ビルに向かった。申し込み当時、まだ学生だった自分にとって、この建築セミナーの参加費はひと月のバイト代の半分が吹っ飛ぷもの。それでもこんな貴重な機会を逃すまいと思い切って参加したわけだが、1回目の講義を聞いただけで、もう満足していた。
 本日は環境デザインについて。仙田氏は環境デザイン学の概要から実作での実例について、青山氏はアボリジニの自然と調和するための知恵について講義して下さった。
 仙田氏の講義からは、建築を通して様々な面から環境にアプローチできることを学んだ。ただ建築を緑化するという考えだけでなく、次世代を担う子どもたちの環境を考えることなど、広い視野で環境を捉えることが重要なんだと考えさせられた。
 青山氏は、シリーズ1の講師の中で唯一建築を職能としない方であり、アボリジニ学を専門とする方だけにどんな話をされるのか楽しみだった。講義の中で、アボリジニにとっての“進歩"とは、全ての生物と自然と100%調和のとれた状態へ向かうことだと話された。青山氏の講義からは、アボリジニの“進歩"のための知恵を学んだ。知恵を“借りる"という言葉があるように、人は人の知恵を借りることができる。アボリジ二の知恵を学んだことで、僕はアボリジニの知恵を借りることができるのである。これからいろんな人の話を聞き、いろんな人の知恵を聞き、知識だけなく知恵で設計できるようになりたいと思った。
 人間の歴史は、地球の歴史からすればほんの一瞬のもの。そんな人間の歴史の中でも一一瞬の、僕が生きるこの時代は、地球環境がこれからどうなっていくのかという重要な岐路に立たされているんだと思う。そんな時代に少しでも環境再生、環境構築の役割が担えるように知恵を絞って奮闘しよういと、こんなことを考えさせられた。
 また、建築家と実際に会ってその人を知ることで、その人が設計した建築を見る目が変わることは、講演を聞きにいく一つの楽しみである。どんな性格の人なのか、どんな考えを持っている人なのかを知ることで、この建築がどんな想いで設計されたのかを少しだけ感じ取ることができるのが面白い。今後もこういった機会を大切に大切にしながら、学んでいきたいと思っています。(犬塚恵介/豊田高専専攻科修了生)
●大学で教科書を用いながら学ぶ建築とは違い・バラェテイに富んだ講義は、学生にとって新しい発見と驚きの連続でした。
 仙田先生の講義の中で廊的空間について述べられておりました。その例として、私の出身地である新潟県長岡市の雁木が話題にあがりましたので、少し感じたことを述べたいと思います。
 雁木は冬季の生活交通を寸断させないための知恵であり、個人の私有地を提供してつくられた地域のつながりでした。雁木は一体的につながっていくことに意味があり、近年の寸断されていく状況には寂しさを感じます。地域に対する役割の希薄、暖冬小雪による雁木の必要性がなくなってきたことが原因です。こうした問題は、現代の様々な場面で感じられるのではないでしょうか。冬場の迷路となった雁木の空間は子どもの遊び場でもありました。しかし、今となってはそうした光景も見ることはありません。
 では、失われつつある遊びにはどういったものがあるのでしょうか。絵本「父さんの小さかったとき」(1988年、福音館書店)では当時の遊びの姿を見ることができます。冬は大人から雪の遊びを学び、雪合戦をし、かまくらの中で餅を食べていました。春は桜を眺め、夏は川で泳ぎ魚を獲り、秋は山でアケビや落ち葉を集め、蛍を捕まえたりしたことは、皆さまの中にまだ記憶として残っていることでしょう。このまま忘れ去られて消え去る小川、空き地、棚田のような遊びの舞台について、その関わり方の提案、継承を建築の側から積極的に行っていくべきではないでしょうか。
 都市や産業は、人と自然、環境のつながりを覆い隠してしまいました。青山先生の講義では、アボリジニの自然と向き合う姿勢に感銘を受けました。我々の考えている「進歩」とは大きく違い「100%調和した世界」こそが「進歩」であると知り、大きく考えさせられました。また「生きる」とは、「自然をあるがままに美しく保ち他の生命体と調和のとれた美しい世界を守り子孫に残す」ことを指すそうです。自然、魂、歌が持つ意味の深さはについて私たちは深く考えるべき問題であると感じました。ただ数値を削減することだけが環境とのかかわりではないはずです。
 日本でも言霊という言葉があったように、かつては言葉や歌、自然や神がもっと生活と密接なものであり大事にされてきていたことを思い出しました。日本人は自然と共存していくことがうまかったはずです。もう一度大事な事柄を思い出しながら、未来を創造していくことが必要なのではないでしょうか。
 著名な講師陣をお招きしてのセミナーは学生にとって大変貴重な機会となりました。末筆となりましたが、主催された皆さまに厚くお礼申し上げます。(坂西研一郎/豊橋技術科学大学大学院建設工学専攻修士2年)