JIA 愛知建築セミナー2007「明日をつくる建築家のために」
シリーズ1 「歴史を通して建築の明日を語る」
第1回 藤森照信氏と国広ジョージ氏
(石黒正則/アズテック建築設計研究室))
 2006年10月11日の建築セミナー特別委員会にて、シリーズ第1回から第3回までの骨格と概要の説明がなされた。実は、この建築セミナーの準備は、服部滋愛知地域会会長の就任以来、進められていました。建築セミナー特別委員長の道家秀男さん、塚本隆典副委員長さんら6名程のコアメンバーが、セミナーの骨格とテーマなどについて夜遅くまで検討を重ね、10月11日の委員会でセミナー講師の発表となりました。
理想的な講師陣決定の後、次の重要な問題は、講師への出席依頼、日程調整などと建築セミナー特別委員会のアクティブ会員の拡大でした。講師の方々に本当に引き受けていただけるかどうか、多少の不安が各委員の中にもあったことは事実です。
しかし、服部会長の熱意と信念が、その後の全ての交渉をスムーズに導いていきました。仙田満JIA会長への講師依頼と、その他の講師への参加協力を谷村茂東海支部長を介してお願いし、仙田会長も快く各予定講師へ参加協力の連絡をしていただいたと報告を受けています。第1回講師の藤森照信氏については、仙田会長から直接、依頼の電話をしていただき、了解を得られたことは誠にありがたいことでした。また、国広ジョージJIA副会長への出席依頼については、本部役員の関係で谷村東海支部長の協力のもと、セミナー第1回の講師がお二人に決まりました。
十数回にわたるミーティング
 セミナー特別委員会は、その後10月からメンバーの拡大と共に月2回程度の会議を重ね、今年3月まで十数回の実務運営の拡大を協議しました。パンフレット、講師のプロフィールの作成、参加募集の方法、会場の予約など、セミナー開催に向けて多くの事柄を検討してきました。会員自らやり遂げるJIA愛知の底力です。会場設営マニュアルには、17名の役割が全て記入されています。このマニュアルで委員全員が、自分たちの役割を理解し、自主的に動き、セミナーのお世話をしていくことになります。今回のシリーズの最終日は、5月26,27日になります。3カ月間、隔週土曜日が楽しみになっていただけることと希望します。
 セミナー初日、2007年3月17日12時に担当委員全員が集合、副委員長の塚本さん、講師担当の小林さん、皆さんの顔に緊張感が漲っていました。細部にわたって、セミナー当日の確認事項が繰り返し読み上げられました。12時30分、予定通り講師のお二方が無事、会場に到着された時は、本当に皆ホッとしました。会場にて、藤森先生、国広先生の両講師との手短な打ち合わせ(時間配分の確認)が行われ、1時30分、定時に服部会長の挨拶から始まり、道家委員長の開会、加古司会者、小林委員の講師紹介と続き、今日の日に至る各々の思いが込められた挨拶が緊張した雰囲気の中で行われました。
これからがセミナーの始まりですが、セミナー委員会のメンバーと受講者の方々、参加者と、講師の先生方が無事に集うことができ、記憶に残る場面でした。
第1回は、会員や設計事務所のスタッフ、学生さんなど、43名が受講しました。
歴史家として建築をつくる
藤森先生からは、歴史家としての視点で、建物を見て言語化されてこられたことが、建物をつくる人たちのプロ意識と同じような、見る人のプロ意識に移行して、今では「自分が建築をつくりたい」、「建築家を超えて自分が建築をつくる側に参画したい」、そんなものづくりの「素」の気持ちを切々とお話しいただきました。藤森先生の、まるで少年のような、家をつくることの楽しさに触れることができました。ミースの父は、煉瓦職人であり、コルビュジエの父は時計職人であったことなどを紹介しながら、職人の仕事の楽しい部分に自ら参加し、建て主も縄文建築団も、巻き込んで、ものづくりを楽しんでおられる。歴史家としてのこれまでの研究を生かし、現在では伝承が途絶えそうになった古の建築技法をよみがえらせる。現代の無味、無機質な空間づくりの方向とは正反対の「心地良い」空間に思い切り、自分らしさを熟成されていることに感動しました。歴史を学び、その知識で、自分の魂を建築技法に植え付けることで、新しいものづくりへの智恵と型が生まれてくることを教わりました。
自ら企画する建築家
 国広先生からは活動建築家として、建築の技術(建築家の職能)が社会に貢献できることは何か!と明快な切り口でお話をいただきました。
 1964年13歳の頃、日本からアメリカに渡り、1976年ハーバード大学大学院卒業後、1997年に拠点を東京に移し、最近は国士舘大学の教授の傍ら、アジアに目を向け、活動建築家の役割を担いつつ、仕事が来るのを待つ建築家ではなく、自分から社会の役に立つ役割を探し、歴史的建築物を修復したりしながら、現在によみがえらせる企画など、エネルギッシュな再開発と文化財保護、再生に取り組んでおられる話をうかがい、焼け跡に箱をつくり続けてきた建築産業の時代が終焉を迎えている昨今、「明日をつくる建築家」「歴史を通して建築の明日を語る」にふさわしい内容のお話でした。
 建築家はつくるだけが仕事ではない。何をつくるべきなのか、何を残すべきなのか、なぜ壊して新しくつくるのか、消費者の問いかけに対して、明日をつくる建築家像が見えてきました。
 JIA会員皆さまの温かい友情のお陰で、このセミナーが生まれました。これからも、シリーズ第1回から第3回へと続く中で、この地域のJIAに新しい講師の輪が広がることを願います。
藤森照信氏 国広ジョージ氏 師弟対談
参加者の声
●私が事務所に入った12年前はバブルがはじけた後で、物の本質を見直そうとする動きが強く、自然素材への意識も高まってきた頃でした。そんな中で目にする機会が多くなってきた藤森先生の作品は、とても印象が強く今回の講義も大変楽しみでした。
 藤森先生は、近作を紹介しながらその独特な設計手法、というよりはものづくりの方法、建物の存在について、解説していただきました。
 かわって国広先生は、「建築家はどう歴史と関わるべきか」として、ご自身の半生をその時々で学び、影響された建築の歴史や様式や近代建築のデザイン手法の移り変わりなどと合せて振り返るように語されました。建築のカタチは時代性や技術、人々の様々な表現方法がありながらも、そこには常に何か古典的な軸があり、常に過去を顧みながら進化させてきた歴史を凝縮して存在している、といったことなのでしょうか。そういった価値を発見し、保存・再生していく活動も建築家の社会的にも大きな役割であり、新たな方向性だと感じました。
 最後にお二人のディスカッションにおいて、主に藤森先生の建築のカタチや、空間の発想、つくり方についてうかがいましたが、特に現場での職人さんとのやりとり、ものづくりについては、熱く語り出されて止まらない!自作の解説を少々面倒臭そうに話されていたのとは対照的にとても楽しそうで、その場面が目に浮かぷようでした。
 現場大好きの私には、とても興味深く(うらやましく)て、正直もっと聞きたかった、という思いです。日頃現場ではいろんな想いはあれど、支障なく無難にまとめていかざるを得ないので。設計においても、やはり「何々風」とか「どこ風」といったカテゴリーに納めることで逃げてしまっていることを改めて考え直させられる機会になったと思います。
 敷地に棒きれでゾーンニングをする。「こんな感じの建物きれいじゃない?」「施工できますか?」「つくっていけばわかるんじゃない?」「こんな空間、楽しくない?」「住みにくくないですか?」「でき上がればわかるんじゃない?」なんて流れでつくっていければ、どんなに楽しいだろう。そんな流れで建築を構成していくことは、建築の歴史や様式を無視しているようでも、実はもっと根本的な「ヒト」としての建築欲、遺伝子レベルで感じる美や心地よさを探ることなのかもしれない。そんな意識が建築デザインの中に、本質的な「古典的な軸」を持たせることになるのかも。(山田透/道家秀男建築設計事務所)
●国広氏は、始めに一つキーワードを出しました。それは「建築にはそれだけで完結した、孤立した存在のものは一つとしてない(国広氏の師であるスピロ・コストフ氏の言葉)」。つまり過去の建築は、過去の様式を模範したり否定したり、大きさや社会など、さまざまな要素に影響を受け、また与えて存在しているということです。この言葉には心打たれました。
 私は昨年まで大学院で建築史の研究室に在籍し、建築を創造する要素として歴史は何かヒントになるのではないかと考え、日本はもちろん、欧米などさまざまな地域やまちの文化を調査、研究してきました。しかし、社会に出て現実の世界で活動していく中で、このことを考えなくなっていました。コストフ氏の言葉を聞いた時、この一年何をやっていたのかと白己嫌悪に陥ったと同時に目が覚める思いでした。
 学生の頃に得た知識は記憶から薄れ、思想を深めていくことを忘れてしまっていました。もう一度、歴史の研究を一からやり直し、これからの建築を創造する上で活かしていきたいと思います。まずはコストフ氏の本を買いにいこうかな。(紺谷博行/MD建築設計事務所)
●作品紹介の中で、藤森照信先生がとても楽しそうに工事中の話をされていたのが印象的でした。「建築をつくることは楽しい」というシンプルなメッセージがよく伝わってきました。昨今の社会の空気の中で、「問題のないように、減点のないように」とつくられたものよりも、みんなで楽しんでつくったものの方が、見る人、使う人をも楽しませてくれる気がします。
 もちろん、それだけでは建築に説得力がないので、社会や歴史をきちんと認識し、それを反映させなければなりません。藤森先生の「建物や建築家に負けないように建築を見る」とのお話に、先生方の「見る」と今まで自分がしてきた「見る」との密度の違いを感じました。表層だけではなく、少しでも本質に迫る見方ができるように努めようと思いました。そのためには、より広範に学び、蓄積していかなければなりません。
 さらに、国広ジョージ先生のおっしゃる「実験と検証」については、あまりに無頓着でいたことを反省しました。「考えていること」と「つくること」がうまく結び付けられないでいます。もう少し意識することから始めてみます。(松崎美香/設計工房蒼生舎)