保存情報第67回
遺したい故郷の文化遺産 (旧)三井銀行名古屋支店(現三井住友銀行名古屋支店) 福田一豊/福田建築事務所


全景

玄関部分

オーダーの柱頭部分
■発掘者コメント
 名古屋市の広小路通りにあった昭和初期の建物は数えるほどになってしまった。現在4つ程の建物が現存しているのみで、そのうちの一つが今回紹介する建築である。私の好きな一つで是非今後も末永く残していってもらいたいと願いページに加えてもらうことにした。この建物は本町通りと伏見の間の広小路通り北側に位置し、どっしりした威厳の中にも気品を感じさせ広小路通りに華を添えると共に歴史を感じさせてくれている。住友銀行との合併で、すでに取り壊され新しいビルに建て替えられた住友銀行側と一体化し、こちらは現役の営業室として今も活躍している。
 新古典様式と呼ばれる新ギリシャ様式である。人間の目線が届く高さの低層建築で、古代ギリシャ建築のオーダー様式の一つである渦巻模様が特徴のイオニア式の柱が正面に6本使われている。建物前面の外観デザインは3層で構成され両脇は壁となっている、一層目は壁と小さなシャター付窓の基壇部分、二層目は大きな格子目サッシュのファサード、最上層は列柱を支えるエンタブレチュア※で水平線を強調し、柱の垂直性と軒部分の水平性をバランスさせるデザインで、両脇の壁部分が建物全体をぐっと引き締めている。階数など内部の使われ方とは無関係にデザインされ、全体的に品の良いプロポーションをつくっていて、バランスが大変良い。最近の建物と比較しても今でも新鮮さを失っていない。
 外壁は花崗岩で、建物中央にギリシャ神殿を凝縮したようなエントランスが設けられ、内部の営業室部分は吹き抜け空間で渦巻状の柱頭を持つ大理石の角柱が取り囲み、2階部分に取り付けられた回廊や、格子状の天井で格調高い空間をつくり出している。
※エンタブレチュア 古代ギリシャ・ローマ建築の柱列で支えられる水平に連なる部分Cornice(最上部の突き出した水平帯)、Frieze (小壁、中央部)Architrave (最低部の水平部分)で構成されている。

所在地 名古屋市中区錦2-18
建設年 1934年(昭和10)
設計者 曾禰・中條建築事務所
施  工 竹中工務店
構  造 鉄骨鉄筋コンクリート造
地上2階地下1階
延床面積 2,792u
参考資料 東海の近代建築(日本建築学会東海支部編)・名古屋の史跡と文化財(名古屋市編)
*名古屋市都市景観重要建築物に指定
登録有形文化財 名和昆虫博物館 水野 威/ミズノ設計室


東側外観

ヒノキの円柱し

玄関と窓廻り
■発掘者コメント
 岐阜公園内にある日本で最も古い昆虫専門の博物館である。竣工は1919年(大正8)。唐招提寺の解体修理のおりに見つかったシロアリ被害のあった柱を、シロアリの研究と保存を目的に再利用したとのことで大いに興味をそそられ訪ねてみた。
 白い外装の煉瓦造り、切妻屋根に赤い瓦葺の2階建てのしゃれた建物。東西平側の頂部は、彫りの深い個性的なデザインがなされ、久しぶりに気持ちのいい美しい建物に出合った。西側玄関は、ペジメント形式で、これも特徴のあるデザインとなっている。
 内部1階展示室には、中央に2階を支えている3本のヒノキの太い円柱が存在感を際立たせて建っていた。床から天井まで見える柱は1本のみ、これが3本とも見えればもっと迫力のある空間になるであろうと、少々残念。
 設計は、1918年から1920年にかけ名古屋高等工業学校に校長として在籍した東海地域にもゆかりの深い武田吾一氏である。茶室や法隆寺、金閣寺などの古建築の研究、保存にも参与し、とくに明治期の金閣寺の解体修理の指導にあたり、その詳細な調査が今日の金閣寺を残したと言われている。
 また、名和氏は、春の女神と言われるギフチョウの発見者、昆虫学者のパイオニアの一人だそうで、展示室には所狭しと標本などが展示されていた。
 このようなレトロな建築物が、現役で活躍していることはすばらしく、次代への時を刻み続けているようで心強い。興味ある方は、一度、この古い円柱に触れ、はるか昔に思いをはせてみてはいかがでしょうか。堀辰雄の大和路の一節にあるように、太古のぬくもりが感じられるかもしれません。


所在地 岐阜市大宮町2-18(岐阜公園内)