保存情報第66回
登録有形文化財 文化のみち二葉館(旧川上貞奴邸) 坂本 悠/有理社


玄関


外観


見上げ
■発掘者コメント
 電力王、福沢桃介と日本の女優第一号と名をはせた川上貞奴が居住した和洋折衷の建物は大正9年に建てられたものです。この建物を始めて見学した25年ほど前には、当初2000坪余あった敷地は売却等ですでに500坪弱となり、それにともない最も特徴的な洋館部分もなくなっておりました。長年未使用の建物内外部も傷んだままの状態でしたがそれを2000年に名古屋市が譲り受け、解体保管の後、2005年の愛知万博に時を合わせ、名古屋城から徳川園に至る「文化のみち」の拠点施設として元の場所から500m離れたこの地に蘇らせました。
 特徴的な洋館の外観や社交場だった大広間等創設時の姿を復元するために設計施工を請け負った「アメリカ屋」は、現存建物を参考にしたり、当時の写真や実際に住でいた人への聞き取り調査を入念に行ったそうです。また移築では保管していた構造材や造作材建具などを可能な限り使用し、復元部分ではできる限り当時の材料と工法技術を再現すると共に耐震に考慮した新しい試みもなされています。
 かつて武家屋敷だったこの地は、その後、名古屋の文化交流の場となり、名園の料亭を中心に華やかな歴史を刻んできました。今もその風情を残し「文化のみち」として楽しませてくれているものの、近年は社会情勢の変化に土地も細分化され、心ないデベロッパーによってその景観が損なわれつつあります。そしてそれを守る紛争も起きています。住民任せにせず行政も積極的に保全に取り組んでほしいものです。


所在地 名古屋市東区橦木町3-23
設計施工 アメリカ屋
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 「四つ建て」民家(旧小林家) 山上 薫/山上薫建築事務所


正面外観


屋根両端には煙出し


「すのこ」を用いた屋根裏
■発掘者コメント
 この建物は、元は春日井市勝川町5丁目にあった農家の母屋であるが、旧国鉄線の拡幅工事の際解体されたものを、市が譲り受け、1978年に現在地に移築、明治の姿に戻して復元されたものである。
 尾張地方北部で、江戸時代に建てられた農家は、平面や架構を含めて「四つ建て」と言われる一定の形式を有していたようだ。母屋の中心に台所とお勝手があり、その周囲に4本の太い柱を立て、それを梁や桁で二段につないで固め、それを基本として家をつくる形式である。その骨組みが神社の鳥居に似ているため「鳥居建て」とも言われる。屋根は梁の上にさす組をのせて萱葺きとした。  屋根の形は寄せ棟造りであるが、両端に煙出しが付くので入母屋造りに似ている。
 「四つ建て」は原始社会の竪穴住居を四本の役柱で持ち上げ、高床にして家の中を明るくしたものと考えられ、全体の半分近くの床が広い土間となっている。  この家は、その典型例として貴重なものらしいが、後年 屋根の南北両面に瓦葺きの庇が付け加えられている。東西両面は元のままの葺き下ろしで軒が低い。移築に際してトタン葺きに変えられている。防火上の処置であろうが、少々残念である。
 東西両側面の壁は、厚い手打ち壁になっており、内部の天井は竹を組んでつくったすの子が使われ、屋根裏は農家にとって重要な物置となっている。


所在地 春日井市柏原町1-97 (春日井市中央公民館敷地内)
構 造 木造 桁行6間、梁間4間
建設年 明治初期
指 定 春日井市指定有形民俗文化財
参考資料 愛知の民家、春日井市史、他