第2回 まちづくりの今後
まちづくりの発意と展開

吉村 輝彦
日本福祉大学福祉経営学部助教授/ (財)名古屋都市センター特別研究員
まちづくりへの第一歩
 まちづくりの課題として、「多くの人は、まちづくりには無関心であって、なかなか参加する人が集まらない」「まちづくりに参加している人はごくわずかに過ぎない」「参加している人は高齢者が多い」ということがよく挙げられる。また、まちやまちづくりに関心があったとしても、それが具体的な行動へと結びつきにくい、ということも指摘される。
 確かに、こうした傾向があるのかもしれない。まちづくりにかかわることは面倒なものだというイメージが先行し、まちづくりは大変ではあるが、まちの現場の中で行われる人々とのやりとりの楽しさ、互いの努力によって何かを生み出していくという共同行為や協働の意義、そして、それがもたらす心地よい気持ちなど、まちづくりの持つ多面的な側面が伝わっていない。
 一方で、まちやまちづくりへのかかわりの第一歩をどう踏み出していったらいいのか分からないとの声もある。多くの人は、少なくとも潜在的には、何らかのカタチでまちやまちづくりにかかわっていきたいと思っていると、希望と期待を抱いている。
多様な観点からまちを想う
 まちなかを楽しむ、自然を楽しむ、ボランティア活動を行う、音楽等芸術鑑賞や活動を行う、祭りやイベントに参加する、インターネットやゲームを楽しむなど人それぞれの関心は多様化しているが、これらは決してまちづくりとは無縁ではない。
 また、生活に身近な問題、例えば、住まいとしての環境を守りたい、歴史的なまち並みや建造物を大事にしたい、景観にマッチしない看板は気になる、まちなかを賑わいのあるところにしたい、生活しやすいまちにしたい、といったこと全てに無関心であるとは思いにくい。現に、まちは、関心の多様性の織りなす中に存在している。
 まちづくりとは、まちの魅力・活力・福祉力を向上させる営みであり、新しいカタチのコミュニティを育み、人とのつながりをつくり出していく場でもある。その点で、人々の日々の生活の営みは、決して、まちづくりとは無関係ではなく、実際には、様々な活動が陰に陽にまちやまちづくりへと誘っている。それゆえ、多様な観点からの気づきやきっかけづくりを通してまちへの想いやまちづくりへの熱意を顕在化させ、さらに具体的な行動へと結びつけていくことが重要になってくる。
 また、日頃からの人とのかかわり合いが、何かが起こったときの立ち直りの大きな力となるのは、阪神淡路大震災をはじめとしたさまざまな経験が物語っており、まちにおけるコミュニケーションも重要になってきている。今後のまちづくりは、こうした気づきやかかわりのデザインにどう取り組んでいくかが大きな課題である。
行政主導型まちづくり
 以下では、名古屋の事例をもとに、まちづくりの発意やその後の展開について見ていく。
 前回も述べたように、名古屋は、ハード中心の「都市計画」に特徴があるが、そこでは、どのような取り組みイメージが想定されていたのであろうか。名古屋の特色的な取り組みとしては、地区総合整備がある。地区総合整備は、「公共施設の整備、居住環境の整備、都市機能の更新など、複合する整備課題を解決すべき地区において、地区特性に応じ、区画整理や再開発などの事業手法、地区計画などの誘導手法などを、総合的かつ一体的に展開し、地域住民との話し合いの中で豊かな『まちづくり』を進めるもの」とされる。ここでは、図1のような取り組みイメージが想定されていた。ここには、事業ベースで計画を進める手続きや支援の仕組みがある。これは、いくつかの自治体で制定されたまちづくり条例で規定されているものと一見すると似ているが、実際には、必ずしも市民のまちへの想いや自発的な活動を支えていくものとはなっていない。また、都市計画マスタープランにおいても、地区まちづくりの取り組みイメージとして図2のようなものが想定されているが、残念ながら、仕組みとして具体化されているわけではない。
図1 地区総合整備に見る都市計画の展開イメージ 図2 都市計画マスタープランに見る地区まちづくり展開イメージ
(出展:名古屋市都市計画マスタープラン)
住民自発型まちづくり
 ここで、前回紹介した事例に戻ってみたい。名古屋にも萌芽的な取り組みが見られることに触れた。昔から残っているまち並みを大事にしていきたいという想いや日頃からのまちへの関心が、自発的な活動を生み出しているところもある。町並み保存地区である有松地区では、有松まちづくりの会が結成されたが、ここは、まち並み保存運動のパイオニアでもある。白壁・主税・橦木地区でも、歴史的建造物を活用した取り組みが市民主体で行われてきた。他にも、緑、森、公園、環境、福祉などをキーワードに様々な自発的な取り組みが見られる。これらの活動では、テーマ型アソシエーションが組織されるケースが多い。
 同時に、名古屋市では、区役所を中心とした「まちづくり」的な活動が行われてきた。「特色ある区づくり推進事業」と呼ばれるこの事業は、区役所が地域と関わりながら、地域住民の郷土意識と連帯感を高めるため、区の特色やアイデアを生かした事業であり、市民と行政のパートナーシップにより魅力と特色あるまちづくりを進める事業実施を行うものとされている。実際には、単発的なイベントが行われることが多く、ソフトな取り組みが中心である。一方で、こうした事業を通じて、新たな活動が創発されたケースがある。例えば、城山・覚王山地区では、「城山・覚王山地区魅力アップ事業実行委員会」「揚輝荘の会」「やまのて音楽祭開催委員会」などが、また、文化のみちエリアでは、「東区まちそだての会」や「東区文化のみちガイドボランティアの会」などが生み出され、現在も積極的な活動を続けている。
 他の地域では、総合計画や都市計画マスタープランなどのプラン策定の際に組織化された策定組織が、計画の策定後、まちづくりの推進組織として新しい組織や活動を立ち上げるなど、計画の策定を契機に、まちづくりが新たな一歩を示す事例も少なくない。
持続、発展させるために
 このように、まちづくり活動の発意は、市民自体の関心から自発的に取り組まれることもあれば、行政が行う事業ベースの取り組みから自立的な取り組みへと展開・変容していく場合もある。とはいえ、名古屋市の地区総合整備からは、市民の主体的なまちづくりへの展開事例はほとんどないなど、単に何か取り組みを行えばいいということではない。発意が、さまざまな活動を創発し、それが持続的なまちづくりへとつながっていくかどうかは、そこでのさまざまなデザインにかかっている(図3参照)。また、ソフトな活動が、地域空間の創造的なマネジメントといった活動へと展開するのも容易ではない。地域空間を脅かす存在としてクローズアップされる高層マンション建設に対する反対運動も、それが契機となって創造的な空間マネジメントへと結びつくことも少ないのが現実である。まち並み保存地区である有松や白壁・主税・橦木地区でさえ、保存地区指定時点と比べても、歴史的建造物が減少するなど空間変容は著しい。まちづくりの発意を促すことだけではなく、具体的な活動へと結びつけ、さらに、持続的なものへと発展させていく方策やハード(空間)とソフトが有機的に結びついていくための方策など、地区レベルのまちづくりを進めていく支援的政策環境のあり方を具体的に検討する必要がある。
<参考文献> 名古屋市(2001)「名古屋都市計画マスタープラン」