● 新支部長インタビュー
混迷の中、地に足を付けスキルアップを目指す    谷村 茂・東海支部長に聞く
業界としては耐震強度偽装事件で揺れ、JIAとしては会員増強の停滞による重大な財政問題や更新をむかえる登録建築家資格制度など、大小さまざまな逆風にどのように立ち向かい、追い風に変えていくのか。新支部長に抱負を伺った。 (聞き手:鈴木慶智)
継続教育で倫理向上を
やはり最初は耐震強度偽装事件のことになりますが、本部では街頭キャンペーンや新聞広告をやっていますが、新支部長のご意見や感想をお聞かせ下さい。
谷村 本当にこのようなことができるのかと、ある意味ショックでした。これはまさに犯罪としか言いようのないことであり、事件の波及はいろいろな方面へと及んでいるようです。個々人の倫理問題といえばそうですが、業界の体質にも問題がありそうです。姉歯事件は、営利優先の社会システムのなかで従属的な立場におかれた構造設計者の悲哀ですが、構造だけでなく意匠設計者の中にも、似たような立場に置かれている人がいることは明白です。継続教育の中で技術的なスキルアップはもちろんとして、倫理問題を始め、建築家の役割の意味合いを会員それぞれがしっかりと理解しなければいけないでしょう。  この偽装問題では、いろいろな支部において会員集会や、会員の意見交換が行われましたが、一般への説明が遅れたのは否めないでしょう。資格制度支部評議会においても、各評議員から一般へのブリーフィングと職能団体としての対応の必要性について意見をいただきました。支部では各地域会選出の幹事が中心となってできるだけ対応できるように意識してほしいと思います。
建築家と建築士、そして職能と倫理
この事件では建築士という言葉がマスコミを賑わしました。一方、私たちは建築家と称していますが、一般市民にはその違いがわからないと思います。JIAとしてはどのように認識し、発信しているのでしょうか。
谷村 建築家と建築士の違いは市民にとっては非常に感覚的な違いでしかないと思われます。一般的には、建築家とは設計と監理におけるいろいろな分野の技術者の総合調整をする職業人、建築士とは建築士法による建築士の資格を得て設計・工事監理を行う技術者となります。  JIAの憲章では「建築家は高度の専門技術と芸術的感性に基づく創造行為として業務を行う者」として表現され、「創造性」「公正中立」「たゆみない研鑽」「倫理の堅持」を求められています。  それらの抽象的な表現は、登録建築家ではもっとはっきり定義できます。すなわち、世界(UIA)のスタンダード(倫理規定等)に基づき、1級建築士を取得してから5年の実務実績を有するか、実務訓練を経て資格を得た人が登録建築家となります。しかも、現役でいる限り、継続教育を受け、かつ3年ごとの更新を受けないと登録を抹消されます。単なる技術資格だけでは、建築家としては不十分ということです。一般市民には、この説明が一番わかりやすいのではないでしょうか。
そのあたりに建築家の職能や倫理が関係あると思うのですが。そもそも職能とか倫理はどのように位置づけられているのでしょうか。
谷村 2002年11月から2005年4月まで本部の倫理規定・職能委員会の一委員として「建築家憲章・倫理規定・行動規範」をまとめて、5月27日の総会で改訂版として承認されました。その委員会では言葉のもつ意味や、建築家の成すべきことを議論しました。  あえて、それまで使ってきた「職能」を変えて「役割」、「能力」という語に置き換えました。辞書には「職能」とは「職務を遂行する能力」「社会や組織の中でその職業が受け持つ一定の役割」とあります。予想はしていましたが、総会においていろいろな会員から「職能」という語句が消えている理由を質問されましたが、我々としては、できるだけわかりやすい言葉を使用することで曖昧さをなくそうとしたため、結局、委員会案を通させていただきました。「職能」は「Profession」の訳語として従来使われてきた語ですが、その意味合いを考えるとわかったようでわからない抽象的な語と思われます。同じように、「公益」という語も「依頼者と社会」とより具体的な語に変えました。さらに「人間の幸福」も「安全で安心できる快適な生活」と変えました。そのために文章に重みがなくなったと叱責されましたが、委員会としては、曖昧さとは決別したかったわけです。いろいろと勉強になる委員会でした。耐震強度偽装事件を通してより一層、倫理規定の重みを感じさせられることとなりました。皆さんも一度じっくり考えてみて下さい。
登録建築家とJIA
さて、建築家の職能や資格との関連でいえば、登録建築家制度が立ち上がり、来年の春には初めての更新を迎えます。登録建築家の今後はどうでしょう。
谷村 JIAが長年温めてきた資格制度を立ち上げて2年が経ちましたが、その間にCPDと登録更新、専攻建築士との兼ね合い、専・兼の問題などいろいろな問題点が出てきました。最終的には資格制度として統一されるのが望ましいのですが、当面はJIAとして確立した制度をJIAの資格制度として続けるべきです。JIAを退会した人は会員ではなくなるわけですから、自動的に資格を失います。  しかし、本来、資格は個人に与えられるものですから、第三者制度として、JIA以外の機関となった時は、JIAを退会しても資格を保持できることが正しいと思います。その資格制度の下では、専業、兼業は関係なく与えられるべきです。資格と団体は別であって、JIAは団体としては、あくまでも建築設計・監理専業者の集まりでいいと思います。  一番問題は、登録更新時にどれだけ脱落しないかです。機会あるごとに登録建築家の制度を説明はしてきましたが、どれだけの会員がその必要性を認識しているか、これから1年が大切だと思います。
今回の耐震強度偽装事件を受けて、建築関係法規の改正が必至です。JIAとしてあるいは支部として何か対応をお考えでしょうか。
谷村 国交省のHPを見てみると、いくつかの案が出されています。建築確認・検査の厳格化や、審査期間の延長が予定されています。また、罰則の強化には懲役が盛り込まれています。これまで見過ごされてきた建築士・建築士事務所の名義貸し、建築士による構造安全性の虚偽証明(建築士法)にも同様の懲役刑が適用される見込みです。ただ、これらの厳格化は建物の安全性を担う建築家にとっては当然といえば当然なのですが、提出書類の複雑化と施主負担を中心とする役所の責任逃れのような気がしないでもありません。本来、建築家の責任と建築家をバックアップする体制を強化すべきです。そういう意味では専門分野別の建築士制度の導入、建築士の資質・能力の向上、建築士会及び建築士事務所協会等への加入の義務付け、報酬基準の見直しなどはJIAの進めている登録建築家制度そのものであり、真剣に検討してほしいと思います。しかし、加入義務付けの団体として、指定法人ではないが、JIAはコアになる存在として国交省にはPRしていかなければなりません。  これまでいろいろな分野で問題が起きると必ずといっていいほど法規制の強化を行政は打ち出しますが、Profession団体の指向している良い点はどんどん援助強化してくれる政策がないのは寂しいものです。口先だけでなく、民間活用をどんどんすべきです。この秋までにJIAはその存在理由をしっかりアピールすべきでしょう。
スキルアップをめざす活動の展開
JIAの財政は依然として厳しいと思われますが、そんな苦境の中で、今後、どのように支部活動を進めていかれるのかお聞かせ下さい。
谷村 財政問題は大きく、支部、地域会にとっては死活問題です。本部は前年度と同じ予算立てでいくことになりましたので、東海支部としても前年度とほぼ同じ予算編成にせざるを得ません。財政問題に関しては、今の状態は異常だと思います。2,000人の会員増を見込んで会費を下げましたが、それによって見事に破綻したと言ってよいかと思います。一番重要な理事会、本部の各委員会、支部、地域会全ての予算が足りずに会議を間引きするようでは健全な会を運営していくことはできません。  本部、支部を含めて無駄な経費は極力削減するのは当然ですが、最低会議が開けるように交通費等は支給できるような土台を作るべきでしょう。今年の予算は無理としても今年中にしっかり審議して適正な会費を設定すべきでしょう。36,000円の会費で入会した人には数年間の特例措置を設けてJIAに魅力があるかないかを判断してもらい、退会されない方は設定された会費で継続するようにしたらどうでしょう。もちろん何百人かの退会は覚悟しなければいけません。  支部は予算的には相変わらず厳しい状態ですが、今までの事業はほとんど継続する予定です。支部が直接に実施する事業は卒業設計コンクールと設計競技、機関誌ぐらいですが、その他については支部として方向性を示して、直接の活動は地域会で実施していただき、支部は事業助成することを考えています。新規事業として若手だけでなく会員全体の実務能力や倫理意識の向上を狙って会員向けのプロフェッショナルスクールを開催してほしいと思います。あるいは会員以外の若手を対象に講座を開いてほしい。儲けよりも将来の会員増強とJIAの広報を兼ねてのサービスとしたいと思います。その他、建築家資格制度の確立や建築家賠償責任保険加入の推進あるいは市民との接点を広げる事業や広報そして2011年UIA東京大会等を支援していきたいと思います。また、2007年はJIA設立20周年を迎えますので、支部としても記念事業を企画検討していきたいと思います。
多様なコンテンツのARCHITECTを
ARCHITECTは支部・地域会の活動の広報と、会員の意見発信を担っていると思っていますが、支部長が発行責任者ですので今後の編集に対してご意見があればお願いします。
谷村 大切な機関誌ですし、まだインターネット化するには早すぎると思います。メールはどんどん進めていけばよいが機関誌は印刷物で配布したい。私も会報・ブリテン委員会に参加して、大変な作業ではありますが、やりがいのある事業だと思いました。  内容に関しては、個人的には少し硬い内容が多いように思えるのでメリハリをつけたらどうかと思います。例えば、会員事務所を取材、紹介したり、大学の研究室を紹介したりするとか。または、会員のお宝を紹介するといったようなコラムをつくってもいいのではないでしょうか。当然、役員会、事業等の広報は必要です。ARCHITECTの継続発行は歴代ブリテン委員長の汗の結晶ですが、変化があっても構わないと思います。
本日はありがとうございました。厳しい環境の中、しっかりと東海支部を引っ張っていって下さい。