耐震強度偽装問題を考える

設計施工分離を法制化すべき
東海支部長 本田 伸太郎
 この事件の原因としてさまざまなことが挙げられています。その一つが設計者の倫理観の欠如です。次には検査体制の不備です。しかしどれだけ設計者に教育を行って、倫理観を培っても二度と起きないとは思えません。またいくら検査体制を強めても、必ず阻止できるとも思えません。これは今、日本で行われている建築生産システムの問題だと思います。すなわち施工者が設計まで請け負ってしまう、ということが当たり前のように横行していることが原因です。
 建築主も、たとえ相手がいくら大きなゼネコンであろうとも、目をつむって、設計も施工も監理も任せた以上、何をされても、たとえ鉄筋が必要なだけ入っていなくとも、文句を言ってみてもしかたのないことなのです。それは役所がちゃんとチェックすべきだ、という人もいますが、本来、私の建物をつくるということは、民間同士の経済行為にすぎません。その建築物の機能とかデザインとか耐久性とかをいちいち役所がチェックするというのは、一般に売っている洋服などの機能やデザイン、耐久性を役所がチェックするのと同じようなもので、おかしいことなのです。役所は社会的に問題となるところ、都市計画上の観点からのみ、すなわち集団規定のみチェックすればよいはずです。それが証拠に都市計画区域外など、一部地域にあっては200u以下の木造住宅等は、確認申請等の必要がありません。行政が検査をして、建物の品質をある程度保証するというのであれば、法の下の平等からいって、街の住宅は行政が保証するが、山の中の住宅は筋交いが入っていようがいまいが、行政は面倒みないという法律は、おかしいと思います。
 この際、抜本的な建築基準法の見直しが必要です。そして建築主は、自分に専門的な建築知識がないのならば、己の利益を代弁してくれる、信頼のおける建築家に設計及び監理を依頼し、その指導と助言のもとに適切な施工者を選定して、発注しなければならないのです。そして行政も市民を守るつもりなら、施工者及びその関係者が設計及び監理を受注できなくなるよう法律を改正すればいいのです。また私たち建築家も業務上の過失等に対し、しっかりと責任が取れるよう、保険制度を充実させるなど、対応しなければなりません。検査体制を厳しくするとか、構造建築士の責任と権限を明確にするとか、建築士の資格を更新制にするとかいった、放っておいてもなるような矮小なことを主張すべきではなく、日本の建築生産システムを根本から考え直すよう、国民的な議論を起こすことができれば、この姉歯問題も、雨降って地固まる、のたとえのように、一般社会及び建築界にとって生かすことができると思います。