保存情報第52回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 愛知懸信用組合聯合会館(現愛知県庁大津橋分室、旧愛知県労政事務所、旧農林会館) 谷口元/名古屋大学

外観

立面図

■発掘者コメント  丸の内官庁街から大津橋を南に下ったところ、既報の伊勢九の隣に立っている。戦前は愛知懸信用組合聯合会が使用し、戦後は農林会館、昭和32年に愛知県に寄付されたとのことである。県庁や市庁舎の威風堂々とした帝冠様式と比較して、いかにもこぢんまりとしているが、垂直性を強調した塔状のゴシック風の階段室部分によって、意図的に対称性を崩されダイナミックな印象がある。3本の付け柱と低層部の丸窓は当時の表現主義の影響であろうか、他の装飾要素から逸脱した斬新さがある。小粒なのに一階は石張り、2・3階はスクラッチタイル張りで、様式にのっとって基壇部と中間部のデザインを違えている姿がほほえましい。また、メインエントランスの庇と、上階のバルコニーにも堂々とした意匠が施されている。名古屋の市中にもいくつかの近代建築がかろうじて残されているが、大規模建築よりもこのようなスケールのものが街の景観に親しみと穏やかさを醸し出しているように思われる。旧大和生命ビルなどは残すことができなかったが、せめてこの程度の規模の建築などは保存修復することができないであろうか。なお、ある文献では設計は県営繕課土田幸三郎氏とあるが、故黒川巳喜氏も担当されていたことについて、名古屋市立大学の瀬口哲夫教授が確認されていることを、特に付け加えておきたい。また、名古屋大学の西澤泰彦教授に資料を提供していただいたことに感謝する。  
設  計 県営繕課(黒川巳喜、土田幸三郎)       施  工 北川組 建設年 昭和7年(1932)7月      
構  造 鉄筋コンクリート造                  規  模 地上3階地下1階 1,048u(増築部をのぞく)
所在地 中区丸の内3丁目                  アクセス 地下鉄名城線「市役所」駅下車南へ5分、 地下鉄桜通線「久屋大通」駅下車北へ5分
登録有形文化財 旧名鉄美濃駅 谷村 茂/アール・アンド・エス設計工房

旧美濃市駅

柱脚

電車
■発掘者コメント
 美濃市にある旧名鉄美濃町線(美濃駅〜新関駅)美濃駅の駅舎と、同駅のプラットフォーム及び線路は旧美濃町産業会館と共に平成16年12月に登録文化財として答申され、年明けに登録作業が完了した。同駅は1923年に、前身の美濃電機軌道の新美濃町駅として完成したが、1999年3月31日の廃線まで使用された。
 駅舎は木造平屋建ての切り妻頭造りで、外壁は下見板張りの上に塗装されている。待合室、改札口は当時のまま残されていて、切符売り場と一体になった駅長室も当時のままだが、電車関連の企画屋さんの売り場となっている。ここのホームページにアクセスすると駅舎とプラットフォームの紙模型をダウンロードできる。
 プラットフォーム屋根は木造一部鉄骨補強造とでもいおうか面白い構造である。柱の4面を合わせアングルで補強している。柱の柱脚は腐ってなくなっているのだが、屋根はこの補強アングルだけで持っているようである。
 プラットフォームは玉石の側壁の上に御影石と思われる板石で縁取られていて、その板石の重量によるのか、毎日の乗降客の衝撃によるのか、全て線路側へ傾いている。線路も当時のものを払い下げられていて、2台の電車が展示されている。「モ512号」と「モ601号」の路面電車は細身の木製で当時の職人の丁寧な造作を見ることができる。
 建設年 1923年 休業日 毎週火曜日・年末年始(12月29日〜1月3日)
 所在地 岐阜県美濃市広岡町2926-4
 アクセス 長良川鉄道「美濃市駅」下車、徒歩3分 問合せ先 美濃市経済建設部観光課(tel.0575-33-1122)