プロフェッションとCPD 最終回
建築家職能の確立に向け 職能団体として CPDを大きく育てていく
日本建築家協会
鈴木 武
JIA東海支部CPD委員会委員長 
2004年9月号より連載の「プロフェッションとCPD」は、名古屋弁護士会、日本弁理士会、日本公認会計士協会、愛知県眼科医会、名古屋税理士会の五会より多忙な中ご協力をいただきました。今後JIAがCPDを推進、検証する上で大変貴重な資料とさせていただくことを重ねてご協力に感謝申しあげます。この連載の最終回にあたり、五会のレポートも踏まえ、JIA−CPDの現状や課題を報告します。
 JIAと五会の大きな違いは、「職能法」が確立されているか否かにあります。1914年、私どもの前身「全国建築士会」が創設されて90余年、一貫して社会に求めてきた悲願、建築家職能の確立のための「建築設計監理業務法」の制定はいまだ道半ばにあります。そのことが今日、市民の建築界に対する不信感、不透明な業態をはじめとして建築設計界自身が抱える諸問題の基底にあることを改めて思い知らされます。
 日本公認会計士協会のように職能研修制度が法定義務化されているところを問わず、各会が職能研修制度を定め倫理研修を義務研修とほぼ位置付けています。職能人の団体として真っ先に取り組むべき問題として当然とはいえ一目置くことができます。また研修内容も各会で特徴を持ち参考になるものが大いにありそうです。JIAの継続職能研修制度(CPD)はUIA国際基準との整合性を基に長い検討を経て立ち上げた経緯をみれば、制度としては他会に優るとも劣らないかもしれませんが、会員への浸透をみるとき、CPD規則において若干理念先行で窮屈のきらいがなきにしもあらずの感を持ちます。以下、今日のJIAにおけるCPDの課題を拾ってみます。
大きな転換点 −インターネット方式の導入
 2004年度のCPDデータによれば、単位取得会員は全国 2,316人(53.6%)、東海支部 288人(67.3%)。規定単位(36)取得会員数は全国 809人(18.7%)、東海支部 96人(22.4%)と公表されました。2003年度の規定単位(24)取得会員数は全国 674人(15.3%)、東海支部 94人(21.8%)です。1年で規定単位数が12単位上がった状況を考慮すると、CPDは会員内に一定の浸透があると評価できます。
 しかし試行期間を含めて丸4年を経た現在、まだ全国では50%弱の会員がCPDに参加していない状況は放置できません。それでも前進した要因を考えてみると、2004年6月よりインターネットによるCPDの運用管理が挙げられます。それまでの書面申請ではCPD事務局は多忙を極め、整理事務に圧倒的時間を要し、また会員にとっても申請の煩わしさからCPDを身近に感じにくい環境でもありました。インターネット方式で“リアルタイムに自己管理”ができる基盤の整備がようやくできたことが大きな転換点といえます。
 またこの間、登録建築家制度の試行が始まり、2004年度末で会員の43%が登録しました。「登録建築家」の更新には3年間でCPD108単位取得が条件です。このことを承知した会員が押し上げたことも一因と考えられます。
バランスの良い多彩な 認定プログラムの開発
 JIA−継続職能研修(CPD)規則が定める研修の内容は、認定研修、自主研修ともに、1.建築家の社会的役割、2.建築家の実務能力の向上、3.マネージメント能力の向上、4.事務所の運営、の4つの分野より組み立てられています。冒頭の倫理にかかわる研修は、1.建築家の社会的役割の項となります。2004年度の研修内容の分野別割合は次の通りです。
○認定研修プログラム全1,042件中
  1.建築家の社会的役割     21.1%
  2.建築家の実務能力向上    75.7%
  3.マネージメント能力の向上   2.7%
  4.事務所運営について      0.5%
○自主研修全6,512件中
  1.建築家の社会的役割     38.4%
  2.建築家の実務能力向上    57.7%
  3.マネージメント能力の向上   2.3%
  4.事務所運営について      1.6%  
圧倒的に1と2に集中しています。さらに1の中身をみると建築家倫理に関係するプログラムはわずかしか見当たりません。弁護士会のように新入会時から始まり、5年目、10年目と5年を節目とし習熟度に即した義務研修や、公認会計士協会のように必須研修内容をCD-ROM化し全会員に配布するなど様々な工夫がみてとれます。JIAも必須研修の研究、バランスの良いプログラムの開発と魅力ある企画を提供するプロバイダーの掘り起こしは課題です。
必須−自主研修申請の勧め
 2005年度通常総会において、会員種別が変わりました。種別が一様になっても、所員である会員の所属する組織内での業務実態に変わりはないでしょう。従来から言われる所員の立場の会員にとって、認定研修プログラムになかなか参加しにくい現実より所内研修を認定プログラムと認めてほしいという要望があります。そのことを考慮して2003年度に細則の一部を変更し、「研修プログラムは原則として全会員に開かれていること」と、原則が加味され道が開かれました。
 この点について、社内研修と職能研修は違うだろう、職能研修は普遍性を持つものだから、誰かが占有するものではなく共有するもの、したがって誰にでも公開すべきものと考えるとき、固有性を持つ社内研修がはたしてどこまで公開できるものなのか、という意見があります。それでも社内研修が大変高度な内容もあるだけに、事務所がプロバイダーとなり、全会員に公開できるようなプログラムが増えると楽しくなりそうです。この件について東海支部建築家資格制度関連3委員会は、社内研修の「公開性」には無理があるだろうから、現制度における“自主研修のグループ申請”の活用で大いに便宜が図られるはずとの考えで一致しています。会員にとって、認定研修プログラムに参加し、会員間の交流を深めながら学ぶことは大事なことですが、年間36単位をクリヤーするには自主研修申請が必須です。その時インターネット方式が力を発揮するはずです。
CPD規則の見直し
 2003年12月に申請スタートした「登録建築家」制度は2005年度末をもって試行期間を終え、社会的制度へ踏み出します。登録建築家は3年毎の更新、CPDを3年で108単位取得が更新条件です。JIA会員のCPD単位制度は毎年36単位以上、不足は翌年に加算され3年間で108単位取得が義務付けられています。この点の相異が混乱を招くので調整してほしいという意見があります。目下は両制度規定を尊重しようとなっています。登録建築家が社会制度としてJIAより独立し、第三者機関に管理が移行することとあわせ検討されようとしています。
動きつつある建築他団体とCPD
 2002年JIA沖縄大会を前にJIAと(社)日本建築士会連合会の2会合意が締結され、その後定期的に協議が継続しています。推進の一貫、手始めとして2会CPDの相互承認を視野に2004年にCPD単位の算定基準をすり合わせし、「継続職能研修(CPD)に関する細則」の改訂を実施しました。また現在、本部CPD評議会は規則の改定を検討し理事会に提案したところです。骨子は、支部にCPD評議会を置くことができること、CPD評議会はJIAと建築他団体との間で、CPD認定プログラムの相互承認を認めることができる、の2点にあります。関連することとして2004年8月に(社)日本建築士会連合会・(社)日本建築士事務所協会連合会・(社)日本建築家協会・(社)建築業協会・(社)日本建築学会・(財)建築技術教育普及センターの6団体による「建築CPD連絡会議」が開催され、各団体共通の情報交換の場としてゆるやかな連携をしていこうとしています。現在、(財)建築技術教育普及センターより、CPD制度を運営する参加団体で建築CPD協議会(仮称)を設置し、プログラム認定委員会を設立し認定業務を行い、データはデータ配送センターをつくり共同運営するという提案がなされていますが、各会の思惑もあり簡単なことではないと報告されています。その前提でしょうか(財)建築技術教育普及センターより「JIA・CPDシステムのセンターとの共同運営」について申し入れがあります。JIA理事会は申し入れを承認し、事務レベルの検討がはじめられています。
 以上、CPDを取り巻く現状について私見を交え概観しました。職能団体として、どうしてもCPDを大きく育てていかなければなりません。会員各位の積極的なご意見をCPD委員会に寄せてください。
各職能団体と職能研修制度について
名古屋弁護士会 日本弁理士会 日本公認会計士協会 愛知県眼科医会 名古屋税理士会 日本建築家協会(JIA)
組織形態 連合会組織 全国単一組織 全国単一組織 連合会組織 全国単一組織
資格者と組織加入の状況 各地弁護士会と日弁連加入は必須 日本弁理士会への登録が義務 協会加入で、はじめて公認会計士の業務ができる 眼科を標榜する医師は自動的に所属する大部分の会員は日本眼科学会会員・開業医の大部分は日本医師会会員 強制加入 任意な加入
職能研修制度 1998年日弁連「倫理研修規定」「仝細則」により倫理研修参加を義務化
1994年より名古屋弁護士会独自の「倫理研修」を実施・継続中。 日弁連の倫理研修参加義務と同等性を有する
*義務研修
*任意研修
2002年4月より 継続的専門研修制度(CPE)を発足     *生涯継続研修
 日本医師会
 日本眼科学会
 日本眼科医会
 愛知県眼科医会の4会が独自に又連携して行う。 その他 製薬会社・各地医師会の講演会や勉強会・ 地域有志による自主勉強会
2001年税理士法改正 仝 研修細則を制定
・日税連主催のもの
・大学、公的機関、隣接士業、民間団体主催のもの   
2000年より        継続職能研修(CPD)を試行・2002年4月より実施
研修内容 *倫理研修
・新人会員倫理研修
・5年目弁護士倫理研修
・一般弁護士倫理研修
*実務研修
・夏期研修
・巡回研修 
・法務研究財団主催の法律実務研修 
*義務研修
・倫理研修---受講歴をホームペイジで公表
*任意研修 
・新人研修
・会員研修
・継続研修
・新規業務研修
・先端科学技術研修
・特定侵害訴訟代理業務に関する能力担保研修
・民事、民法訴訟法に関する基礎研修
・自主研修
*倫理研修
 CD-ROM化し会員全員に無償配布
・集合研修
・自己学習
・著書等執筆
・研修会講師
・研究大会
・会員研修定期講習会
・学術研修会
・生涯教育講座名古屋
・連合会生涯教育講座
*研修部主催
・全国統一研修会
・名古屋税理士会研修
・登録時研修
・商業登記実務研修
・夜間研修講座
・証票交付式における研修会  等
*日税連主催及び共催
・マルチメディア研修
・公開研究討論会 等
*関係団体等主催
・パソコン実務研修会
・会計参与制度とADR法案研修会
・税理士損害賠償事故例とその予防研修
*認定研修と自主研修
1.建築家の社会的役割 ・建築家倫理
 ・社会的役割
2建築家の実務能力の向上
 ・芸術,文化
 ・計画、設計
 ・技術,監理手法
 ・環境、福祉
 ・都市計画、街づくり
3.マネージメント能力の向上
  ・企画,事業計画
  ・プロジェクトマネ−ジメント
  ・情報化
4.事務所運営について
  ・経営手法その他
運営主体 組織的、統一的ではない----各種委員会が実施
研修センター設置で研修の運営集約化を検討中
1978年組織内に研修所を開設‐‐‐‐研修所による企画、実行が主流 2004年4月より公認会計士法にもとづく法的義務で金融庁の監督下で実施 学術部が生涯研修を担当 組織内に研修部を設置---組織部を中心に組織的対応を行い運営・実施 組織内、CPD評議会を設置、運営
プログラムの実行はプロバイダー
単位制度 なし なし
義務研修以外は任意研修           
法定義務化
40単位/年
20単位を上限とした繰越し
なし
*「専門医資格」更新に100単位/5年が必要
義務化
36時間/年           
義務化
36単位/年
108/3年
12単位/年を上限とした繰越し
*「登録建築家」は3年毎の資格更新時、108/3年が条件
単位申請方法 なし *電子申告
*書面による個別申告
*インターネット方式
問題点、課題 今後会員数が増加し履修率が落ちた場合は単位制の導入も考慮 2004年度CPE取得率95.6%---完全100%への努力 大学の医局員や若い勤務医の参加率が悪い傾向 講師の育成・ 体系化された研修制度の構築が未整備 2004年度CPD単位取得率53.6%の引き上げ バランスの良い研修プログラムの開発