プロフェッションとCPDD
資質の維持、向上のため 研修実施側、受講側双方にさまざまな義務が課せられている
名古屋税理士会
野村俊夫
名古屋税理士会 
税理士会の役割
 名古屋税理士会(本会)は、1942(昭和17)年設立の税務代理士会を前身に税理士法の制定に基づき1951(昭和26)年に社団法人として改組され、1956(昭和31)年、特別法人となり、現在、愛知県内のうち名古屋市、半田市、常滑市、東海市、大府市、知多市、豊明市、日進市、西春日井郡、愛知郡、および知多郡ならびに岐阜県内に事務所を置く税理士および税理士法人から構成される団体です。
 上部組織として全国の15税理士会から構成される日本税理士連合会(日税連)があり、当会は17支部から構成され、2005(平成17)年3月末現在、会員数3,887名で、税理士の使命および職責にかんがみ、税理士の義務の遵守および税理士業務の改善進歩に資するため、支部および会員に対する指導、連絡および監督に関する事務を行うことを目的として、以下のことを行っています。
(イ)会員の品位保持に関すること
(口)会員の業務に関する研修を行うなど会員の資質向上を図ること
(ハ)会員の業務に対する報酬に関すること
(二)小規模零細納税者に対する税理士の業務に関すること
(ホ)日本税理士連合会が行う税理士の登録その他の事業に関すること
(へ)本会の業務または会員の税理十業務に関し、連合会および税務官公署と連絡協議すること
(ト)税務行政その他租税または税理士に関する制度について調査研究を行い、権限のある官公署に建議し、またはその諮問に答申すること
税理士の使命、業務
 税理士の使命は税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることであり、その業務は他人の求めに応じ、租税に関し次に掲げる事務を行うことであり、税理士業務に関しては有償、無償を問わず独占業務とされています。
(イ)税務代理  租税に関する申告などにおいて代理し、または代行すること
(ロ)税務書類の作成  申告書などを作成すること
(ハ)税務相談  申告書の作成などに関し、相談に応ずること
(ニ)付随業務  税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他、財務に関する事務を業として行うこと
(ホ)補佐人制度  税務訴訟において、納税者の正当な権利、利益の救済と援助をするため、補佐人として弁護士である訴訟代理人とともに裁判所に出頭し陳述すること
 また、税理士は社会貢献の一助となるよう「税を考える週間」や「確定申告期間」中に無料で税務相談を行っています。また、地方公共団体の外部監査制度や裁判所の民事・家事の調停制度、成年後見制度などに積極的に参画し、さらに租税教育への取り組みなど、税理士の知識を活かして地域社会に貢献しています。
義務化された研修
 2001(平成13)年の税理士法改止により研修についての規定は、「税理士は、所属税理士会及び日本税理土会連合会が行う研修を受け、その資質の向上を図るよう努めなければならない」(第39条の2)と規定し、研修受講側の税理士に対し研修を受ける努力義務を課しています。一方、研修実施側の税理士会に対しては、「会員の研修に関する規定」を税理士会会則の絶対的記載事項に定めています(第49条の2第2項第6号)。
 税理士法が求める研修は、研修実施側の税理士会に対して研修内容の充実と研修機会の増大を求め、質的向上に役立つ多くの資料・情報を会員に提供することを義務づけているものであり、受講する側の税理士に対しては研修会などへの参加と白己研鑽による資質の向上に努力することを求めています。
 こうした改正税理士法の趣旨を受けて本会は研修細則を制定し、会員へは年間36時間の研修受講義務を課すとともに、本会が従前から行っていた、体系化された研修体制と講師の育成の具申を基礎として組織の改編を実施し、その運用を行っているところです。
 また、会員の受講すべき研修は日税連、本会、支部、協同組合などが実施するものの他に、大学、公的機関、隣接士業、民間団体などの開催まで含まれます。内容については、本会における研修の認定手続きや全国統一研修会科目に該当するか否かの制限が設けられ、会員の資質の向上、ひいては国民の負託に応えることが基準となっています。
研修体制と研修内容
 社会経済の急激な変化と国際化の進展によって、租税法令や関連諸法規の新設・改廃がめまぐるしく、加えて情報技術の革新への対応も迫られており、高度化、複雑化する税理士業務の実態を鑑みると、個人の努力だけに委ねる状況ではないので、強制加入の税理士会の利点を活かし、研修部を中心に組織的対応を行い運営・実施をしています。
 本会の主催する研修は、研修部主催の研修のほか各部・各委員会、関連団体等主催のものまで含めると、現在145時間ほど実施されています(登録時の研修も含む)が、平成16年度(平成16年4月1日から平成17年3月31日)のその概要は以下の通りです。
〈研修部主催〉
@全国統一研修会(全会員対象)
 毎年7月、10月の年2回、地域ごとの単位会が講師とテーマを決め、税法をはじめ民商法その他、税理士業務に付随する科目について研修を実施しています。平成16年度の主なテーマは、税理士としてのリスク管理、中小会社会計基準の誕生の背景と税理士業務に与える影響、平成16年度税制改正、「資本の部」をめぐる商法・会計と法人税実務がテーマでした。
A名古屋税理士会研修会(全会員対象)
 上記の税理士法改正の趣旨を受け、本会独自で研修機会の増大の一助となるよう年3回(4月、9月、11月)全国統一研修レベルの研修会を実施しています。平成16年度の主なテーマは、租税回避の事例研究一想定事例から否認の限界を考える、法人税申告書のチェックポイント、事前照会等に対する文書回答手続き等、税法における時価の比較と算定、変動型役員報酬の損金算入の問題点を検証するがテーマでした。
B登録時研修
 税理士登録後1年以内の者を対象に全国統一内容で税理士制度、行政手続法、憲法、民法、商法、争訟法、租税法概論について研修を実施しています。
C商業登記実務研修会
 隣接関連業務である商業登記実務について、希望者に対し研修を実施しています。
D夜間研修講座(希望者対象)
 夕方以降の時間帯で医療保険、年金保険、労働保険、労災保険、雇用保険などの社会保険実務に関する研修を希望者に対し実施しています。
E証票交付式における研修会(税理士証票交付者対象)
 名古屋税理士会と関連各団体の会務などについて研修を実施しています。
〈各部・各委員会主催〉
 各部・各委員会などの主催で、希望者を対象に以下のような研修を実施しています。
(イ)NP0法人の制度・税務・会計研修会
(ロ)中小会社会計基準−その意義と実務上のポイント−に関する研修会
(ハ)会計参与(仮称)制度に関する研修会
(二)農業所得などに関する研修会
(ホ)企業再生に関する研修会
(へ)書面添付制度に関する研修会
(ト)租税教室講師育成研修会
〈日税連主催及び共催〉
@マルチメディア研修
 高度情報社会にふさわしい研修として、インターネットによって全国の税理士が同一内容の研修を受講できるようにしています。
Aその他
 税理士による研究成果の発表、討論の過程を通じて、税制および税務行政および税理士業務の改善・進歩ならびに税理士の資質向上を図ることを目的に、年1回、全国15税理士会の持ち回りで開催される公開研究討論会を実施しています。
〈関運団体等主催〉
 協同組合などの関連団体主催で、希望
者を対象に以下のような研修を実施して
います。
@パソコン実務研修会
A会計参与(仮称)制度とADR法案研修会
B税理士のための税理士損害賠償事故例とその予防研修会
今後の課題
 研修義務化後、受講率が増加傾向で、研修に対する意識の高まりは見受けられ、一方、受講機会の増大のため新たに実施された研修もテーマ、講師の選択に工夫を凝らし一定の成果を上げつつあります。しかしながら、研修所を持たず、講師の育成や体系化された研修制度の構築が未整備である現状からすると、研修制度に係る管理、調整を有効に機能させることは本会の与えられし命題であると考えます。
 税理士の使命の重要性に鑑み、税理士業務が税理士の独占業務とされる一方で責任、義務が課されています。信頼できる専門家として、社会一般の信頼と評価を高め社会的地位の向上につなげるためには、より一層、すべての税理士が業務水準の向上に意欲を持ち、本会が研修内容の充実と研修機会の増加に対する有効な施策を実施していく必要があるでしょう。