プロフェッションとCPDB
法定義務の専門研修制度 充実した研修制度と企画で 単位取得率は95%を超える
日本公認会計士協会
小川 薫
(監査法人ト−マツ名古屋事務所) 
1.CPEの概要
【日本公認会計士協会の概要】
 公認会計士の使命は、「監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする」と公認会計士法で規定されています。急激な経済の変化とIT(インフォメーション・テクノロジー)社会の進展、そして、会計ビッグバンと呼ばれるほどの企業会計の革新が進むなか、公認会計士の社会的責任はますます重要なものとなっています。
 公認会計士は、企業はもちろんのこと地方公共団体、独立行政法人、学校法人などの幅広い対象についての会計監査をはじめ、税務に関する指導・助言、経営全般にわたるアドバイスを通じて、健全な経済活動の維持と発展に貢献しています。企業は、ディスクロージャー制度によって、その財務内容を株主、投資家などに公開することが義務付けられていますが、それが適正なものであるかどうかを判断するには、独立した第三者による証明が必要となります。公認会計士は、会計及び経営に関する専門的知識と豊富な経験を活かして、企業が作成した投資家などに公開する財務諸表の監査を行い、内容の適正性について意見を表明し、その情報の透明性を担保とすることで、企業の社会的信用を高めるためのサポートを行います。
 日本公認会計士協会(以下、協会と略す)は、日本における唯一の公認会計士の団体です。1949(昭和24)年に任意団体として発足した協会は、1966(昭和41)年に公認会計士法で定める特殊法人となりました。日本の企業内容開示制度の一翼を担い、会計・監査基準の策定過程に貢献するとともに、研究活動、セミナーの実施、業務関連誌の作成などを行う、全国を通じての単一会です。公認会計士は、当協会に加入することにより、はじめて公認会計士として業務を営むことができます。会員は、公認会計士および外国公認会計士、監査法人で構成され、会計士補を準会員としています。
 協会は全国単一会ですが、財務省財務局及び沖縄総合事務局の管轄地域ごとに、支部として一地域会を置くことが会則に定められております。現在、北海道から沖縄まで13地域会が活動しています。
 2004(平成16)年12月末現在の会員数は、公認会計士15,501名、監査法人156法人、準会員5,440名となっております。
【CPEの立ち上げの経緯】
 公認会計士としての能力の維持・向上を図るために協会が実施するものとして、「継続的専門研修制度」(CPE制度)があります。2002(平成14)年4月からは、すべての公認会計士が「継続的専門研修」を履修し、年間40単位以上の単位を履修することが義務付けられています。この義務は2004(平成16)年3月までは自主規制団体としての義務でしたが、同年4月からは公認会計士法にもとづく法定の義務となり、監督官庁である金融庁の監督下で実施されることとなっています。
【倫理研修の必要性】
 公認会計士が社会から信頼を得るうえで、職業倫理の理解と遵守は最重要項目であると考えられます。このため、研修カリキュラムのなかで「倫理」を大項目として設定しており、これに関する各種の研修を実施しています。また、倫理をテーマとした研修についてはCD-ROM化して全会員に無償配布し、全員が職業倫理を十分に理解できるような対応がなされています。
2.CPEの現状
【履修義務とその運営/管理】
 CPE制度の事業年度は、毎年4月1日から3月31日までとなっています。この事業年度を一つの履修期間とし、年間40単位の取得が必要です。また、年間の取得単位が40単位を超えた場合は翌年度への繰越が可能であり、翌年度の取得単位が40単位に満たない場合は、20単位を限度として、前年度からの繰越単位を充当することができます。
 公認会計士として監査などの業務を行っていない場合で、一定の要件を満たす場合は、協会を通じて金融庁に単位取得の免除・軽減の申請を行うことができます。
◎単位は以下の方法により取得することができます
◆集合研修 協会、地域会、監査法人などが会員向けに行う集合研修が実施されており、これに出席することで単位取得となります。  また、毎年夏には地域会持ち回りで研究大会を開催しており、全国会員が一同に集まって研修を受ける機会となっています。本年は東北会が主催となり、仙台市で開催される予定です。税理士会など、他業界の集合研修も一部該当します。
◆自己学習 協会が指定した雑誌『JICPAジャーナル』の購読が該当します。その他の書籍・雑誌の購読などについても、学習内容を届け出ることにより自己学習と認められます。
◆著書等執筆 会計士業務に関連する図書・雑誌の著述、論文執筆が該当します。
◆研修会講師 会員を対象とする研修会の講師を行った場合は、講師にもCPE単位が付与されます。
◎取得単位の登録は以下の方法で行われます
◆集合研修主催者による登録 集合研修主催者側でパソコンを使用して受講者データを作成し、協会本部に電子データで報告します。会員にはCPEカード(個人コードが記録された磁気カード)が交付されており、研修会場においてカードリーダーに通すことにより、簡単にデータ登録が可能となっています。
◆書面による個別申告 自己学習・著書等、執筆した場合は、本人が直接申請することが必要です。書面による個別申告は、所定の様式に学習内容を記載し、協会本部にFAXで申請します。
◆電子申告 書面による申告に代えて電子申告によることも可能です。あらかじめ協会本部に届出し、電子申告のためのIDを取得すれば、インターネットの登録画面に必要事項を入力することにより簡単に申告が可能です。
【研修カリキュラム】
協会では、会員が取得すべき能力を分野別に分類し、さらに詳細テーマを設定して研修カリキュラムを構成しています。個別の研修テーマにはコード番号(CPEコード)を設定し、分野・テーマ別の単位取得状況を把握することが可能となっています。研修分野としては、倫理・制度、会計、監査、税務、コンサルティング、非営利、業種別、その他の能力開発があります。
【広報の方法/手段】
 会員には毎月、CPE−LETTERを郵送して集合研修実施の案内を行っています。また、ホームページ上でCPEのページを設け、CPE制度の説明、集合研修開催案内などを公開しています。また、地区会においては、所属会員に電子メールで集合研修の連絡を行っています。
【会員の意識と履修状況】
 公認会計士が業務として実施する内容は、会計ビッグバンによる新会計制度の導入、法令等の目まぐるしい改正、企業ニーズの高度化などに対応するため、ますます困難なものとなってきており、職業会計人としての職務を果たすためには、常に最新の知識を吸収し、自己の能力を伸ばしていくことが必要です。したがって、単位取得の義務化に関係なく、自発的に研修を受ける意識は高く、必要単位を満足している会員の割合は95.6%(2004(平成16)年度)に達しています。
3.CPEの展望
 公認会計士への期待と責任が高まっているなかで、専門研修の必要性が高い反面、業務の繁忙のために研修機会を確保することが困難な状況となっています。協会では、CPE協議会を組織し、会員がより充実した専門研修を受けられるよう、制度の運用改善に取り組んでいます。現在、集合研修を、衛星通信放送を利用して全国のサテライト会場で受講できるような形で実施していますが、より多くの地域での実施が可能となるよう、受信設備の購入資金補助を行っています。また、インターネットを通じたE−ラーニングによる研修についても近く実施する方向で研究中です。
 このように、専門研修の仕組みとしては着実に進んでいますが、会計士に対する社会のニーズに応えられるよう、会員への教育を果たすためには、常に最新の研修テーマを開発していく必要があり、研修企画担当・研修講師担当者の役割がますます重要となっています。
 また、単位取得率が高いとはいっても、100%には達しておらず、未取得者への指導を通じて取得率を上げていくことが必要です。2004(平成16年)4月から法定義務化となったことにより、今後、未取得者へのペナルティをどうしていくかということも検討課題であります。