保存情報第45回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 美濃橋(みのはし) 澤村喜久夫/伊藤建築設計事務所


左岸より美濃橋を望む


床板は木製


所在地 岐阜県美濃市 構 造 単径間補剛吊橋 主塔:RC造 規 模 橋長113m、支間116m、幅員3.1m 竣 工 1916(大正5)年7月
■ 発掘者コメント  美濃橋は美濃市街地の北部、小倉山の西方を流れる長良川に架かる吊橋である。  1916 (大正5)年に完成した橋は、橋長113m、支間116m、幅員3.1mの単径間補剛吊橋で、岐阜県(在住)の技師、戸谷亥名蔵を中心に建設された。両岸に設けられたアンカーレイジに、RC造の主塔(高さ9.8m)から吊された主ケーブルを碇着し、吊りケーブルで支持された橋桁を鉄骨トラスで補剛して、橋盤に木板を敷いている。わが国に現存する最古の近代吊橋で、その要素を構造躯体全体に備え、建設当時では、わが国最大級の支間を実現した大正期を代表する吊橋として歴史的価値があり、2003(平成15)年5月に国指定重要文化財に指定された。  この地は、江戸から明治にかけて美濃和紙の原料を運ぶ要衝として、舟運で賑わっていたが、1911(明治44)年、鉄道の開通にともない川湊は廃止され、その後の「渡し」から役目を引き継ぐかたちでこの橋が架けられた。1956(昭和31)年、上流300mに架けられた新美濃橋の完成を機に役割も小さくなったが、それまでは定期バスも通る交通上の重要な橋であった。現在は、「老朽化のため通行は二十人以下に制限します」と書かれた立札があり、歩行者専用であるが、今でも「生活橋」として地域住民に使われている。  美濃橋から左岸を少し下ると、上有知湊跡(県指定史跡)、川湊灯台、江戸時代に通水した曽代用水があり、歴史を感じながら散策を楽しむことができる。
登録有形文化財 旧豊田喜一郎邸 塚本隆典/塚本建築設計事務所


旧豊田喜一郎邸は、現在、トヨタ鞍ヶ池記念館に移築


随所に当時の先駆的要素がみられる

所在地 愛知県豊田市池田町南250 構造規模 RC造、RC+木造、地上2階半地下 建築年代 創建1933(昭和8)年、移築1999(平成11)年 設  計 鈴木禎次
登録有形文化財  ■紹介者コメント  旧豊田喜一郎邸は、1933(昭和8)年、名古屋市郊外の緑豊かな丘陵地、南山町にトヨタ自動車鰍フ創業者である豊田喜一郎の別荘として建設されたものである。設計にあたったのは、旧中埜家住宅(重要文化財、1911(明治44)年)の設計で知られる鈴木禎次。現在、建物は、トヨタ鞍ヶ池記念館に文化遺産として、忠実な保存修復を基本方針に移築・修復され、広く一般に公開されているものである。  建物は洋風を主体としつつ、2階および地下に日本間を設けた和洋折衷様式である。外観の特徴としては、木造の1・2階部分をピクチャレスク様式としながらも、玄関やRC造の半地下の外壁には、アントニオ・ガウディの作品同様に洞窟風の意匠が見られる。  また、室内意匠では、居間および食堂の壁と天井を漆喰ハケ打ち引起し仕上げとして荒く仕上げ、居間の天井では2階の梁をあらわし、食堂の天井は吹寄せ垂木を配した緩勾配の化粧屋根裏として軽快にみせている。  2階では日本間を設け、その主室である9畳の網代天井は、江戸時代後期から昭和初期にかけて流行した煎茶席で好まれた伝統的意匠を用いながらも、これを正方形平面に対して45度振って菱形に配置している。このほか、モンドリアンの幾何学的抽象絵画を連想させる欄間など随所に斬新な意匠を見出すことができる。  また、設備や材料では、屋根の野地板の下に断熱層を設け、居間のガラス窓には内側のロール網戸、食堂・台所境のオープンカウンター、温室(サンルーム)屋根の突上げガラス窓や葦簀の日除けの開閉装置など、随所に先駆的要素を見出すことができる。