JIA東京大会レポート JIA「建築家大会2004東京」
美しい国づくり 美しい街づくり
これまで全国各支部を巡回して開催されていたJIA大会は、開催形式が関東甲信越地区とその他の地区で交互に開催される形に変わり再スタートを切った。そして今年は東京の国立オリンピック記念青少年総合センターを舞台に「美しい国づくり美しい街づくり」をテーマとして10月13日から17日の5日間にかけて、盛りだくさんのプログラムで開催された。東海支部は来年岐阜でのJIA大会を控えており、その研究やPRも兼ねて、会員、賛助会員、同伴者約60名が参加した。 (鈴木慶智/東海支部会報委員会委員長)


会場となった国立オリンピック記念青少年総合センター
石原東京都知事を迎えての前夜祭


石原東京都知事
 15日(金)の夕方より前夜祭が開催された。前夜祭とは言ってもこの時点で大会プログラムの大半は終わっており、翌日に行われる大会式典に対しての前夜祭ということでしょうか、多数の参加を見るために止むを得なかったのでしょう。
 前夜祭ではまず今年5月の総会で選定された国内外の名誉会員へメダルと賞状が授与され、次いでJIAが職能協定を結んでいるタイ王立建築家協会から鬼頭梓元会長に名誉会員が送られた。引き続き石原慎太郎東京都知事を講師に迎え、講演会が開催された。
 知事は開口一番、今回の大会テーマである「美しい国づくり美しい街づくり」に対して「無理でしょう」とお得意の刺激的な発言をされた。都庁舎の知事執務室の前の廊下に2枚の写真が掲げられている。1枚は都庁舎屋上のへリポートから撮った現在の東京のパノラマ写真、もう1枚は1865年浅間山から撮られた江戸の写真。これらを比較して江戸の町は水路が発達し、白壁と瓦葺の美しい町であったが、今は玉石混淆でハーモニーが感じられず「反吐」だと批判され、建築家がもっと頑張らなければいけないと語られた。また、2度にわたる自邸建設の際のエピソードを通して、建築家はクライアントの言いなりになってはいけない、専門家としての主張が必要と叱咤激励して講演を終えた。知事はここで退席され、その後は、いままでのUIA大会誘致活動の紹介を経て、パーティーが始まり、久しぶりに顔を合わせる人たちと旧交を温めているような光景も見受けられ、和やかな時を過ごした。
基調報告 小倉会長 「考える会から行動する会へ」


小倉会長
 16日は午後から大会式典が開催された。初めに、小倉善明会長が登壇し基調報告を行なった。報告では、まず、「考える会から行動する会」へ向けて舵を切っていくこと、そのために本部主導から支部・地域会主導とすること、他団体との協調を図ること、そして次世代へ向けての準備をすることの3点を推し進める意向を示された。建築家資格制度については今年度中に2,000名の登録、小倉会長任期終了までに当初目標を達成できる見通しで、次のステップとして建築士会との相互承認に進む旨を示された。
 次に、会員種別会員資格の変更に伴う会費収入減少については、新入会員の獲得、とくに若手会員の増強運動を進めて、今年度中に1,000名の会員増を目指す。
 公共建築の第三者監理の問題については国交省他を含めた懇談会を開催して、良い公共建築を創るためにどうしたらよいか検討を進めることとなった。低価格入札問題については、現在の会計法のままでは必然的に起こりうることであり、入札によらない設計者選定法を議員立法により成立を目指さなければならない。会長任期中にその端緒に手を付けたい意向を語られた。
 最後に2011年のUIA大会を東京に誘致すべく活動を展開すること、それに向けての各国への協力要請をしていくこと。さらに国際交流をより強めるため、昨年職能協定を結んだ韓国のKIA,KIRAとソウルで進んでいるプロジェクトについてのシンポジウムを東京で開催することが決定した事など、現在JIAが抱えている諸々の問題についての対応策を報告された。
基調講演 川勝平太氏 「美の文明を創る」


川勝平太氏
 基調報告および来賓として国土交通省小川建築指導課長並びにAIAホプキンス会長の挨拶に続き、国際日本文化研究センター教授川勝平太氏による「美の文明を創る」と題した基調講演が行われた。
 川勝氏は美の価値、美しい街づくりのための制度並びに建築家への期待について語られた。美の価値については、現代は欧米、中国による力による文明が主流であるが、日本は美に立脚した文明を目指す必要がある。新しい世界の潮流は環境と開発をいかに両立させるかになってきている。そして環境の価値は経済力等の数値化できるものではなく美しさの価値であるとのことである。制度については、美意識はそれぞれ多様なものであるが、それについて国が景観法を制定することは一元的な美意識を押し付けることになるのではないか。阪神大震災以降ボランタリー精神が根付き、地域力が付いてきた。そして生活環境についての関心が高まり、各自治体で独自に景観条例等を打ち出してきた。道州制をふまえた地域の自立が必要で、それによりそれぞれの地域に応じた地域作りが可能となる。
 建築家への期待については、本年5月のJIAと建設コンサルタント協会の共同宣言を踏まえて、土木と建築だけでなく庭作りの専門家も交えた活動が美しい街づくりを実現できる。世界遺産に指定された熊野古道は自然遺産ではなく文化遺産である。自然に人間の手を入れて育てることにより文化的景観を創り出すことができる。それを建築家に期待したいと講演された。
パネルディスカッション 「美しい街づくり・建築家に問う」
 基調講演を受けてパネルディスカッションが行われた。パネリストは国交省の岸田里佳子氏、都市デザイナーの土田旭氏、一般市民の視点から衆議院議員の小宮山洋子氏、建設コンサルの駒田智久氏、川勝氏そして建築家を代表して仙田満JIA副会長。
 岸田氏は景観法策定の実務担当として、自治体個別の条例では問題があり、国全体に適用する景観法の意義、内容を解説。土田氏は現行の建築基準法による形態制限や、都市計画法の用途地域制では景観コントロールはできない。建築家が関与している建物は全体の5%。小宮山氏は見た目の美しさだけでなく、住み心地の良さも重要とプレゼンテーションした後、クロストークに移り、建築家は敷地あるいは自分の設計する建物にとらわれ過ぎ、その表れとして、パースは実際には見えない建物の側面を描き、その前にある隣の建物を描かないこと。建築確認には申請建物の両サイドも記入させてはどうか。一般市民は美しさもさることながら、安全・安心な街づくりを求めている。街づくりに市民が熱心なのにそこに建築家が関わっていない。等々。進行役は地域に聞くことが重要と締めくくった。
実践しよう大会アピール 「美しい街づくり行動指針」
 最後に小倉会長が我々の日常業務に採り入れることができる具体的な大会アピールを読み上げ、式典を終了した。
大会アピール「美しい街づくり行動指針」
一、 敷地から出よう
 私たちはいかなる仕事においても「美しい街づくり」をその目的に据えます。そのためのビジョンを解り易い具体的イメージで示すよう努めます。
 たとえば、提案には必ず周囲を含めた模型などをつくり、その中における計画案の意義を示します。必要によっては関係者によるワークショップを開き、あるべき街の姿をともに追求していきます。
一、 歩く人の目で見よう
 街の景観や生活空間を歩行者の視点から捉え、「緑豊な景観」と「魅力ある歩行空間」を計画にとり込みます。
 たとえば、計画敷地の一部を歩道状・広場状空地としたり、地域に魅力を加える建物の表情を計画します。そして車中心ではなく歩いて楽しい、ヒューマンスケールの備わった街並みを実現します。
一、 地域の資産をはぐくもう
 「美しい街」が地域の重要な共有財産であることを認識し、その整備を通して地域の資産価値の向上を図ります。それらを定着・継承するために、世代を超えた景観形成を大切に考え、それを支援します。

大会式典終了後、会場を東京国際フォーラムに移してレセプションパーティが開催された。パーティーでは来年の大会の大会委員長を務める田邉尚美氏をはじめ支部役員がPRをされた