NPOとまちづくりC
何を成さねばならないのか
松下 典子             大平 展子
              (NPO法人 地域福祉サポートちた)       (NPO法人 夢未来くんま)         
NPO法人 地域福祉サポートちた ボランティアから始まったまちづくりネットワーク
1990年、“困ったときはお互い様”いつでも、誰もが助け合える市民互助の活動が東海市で始まった。その翌年には、知多市に女性の自立をサポートする社会サービスを、そして大府市では自分たちの老後を考えて、さらに東浦町では障害者の在宅支援の活動が誕生した。それぞれ動機はまったく違っていたが活動の実体として内容は同じであった。それは日常生活の問題解決であり“自分たちでできることからやってみよう”とボランティアから始まった地域の安心づくりの活動である。
 ちょうどそんな頃「まちづくり」「町おこし」という言葉もよく耳にした。物産であったり新しい施設づくりが大いに話題にもなったまちづくりである。しかし何か違う、何か大事なものがだんだん隅に追いやられて失いかけていく。また、核家族化する中で家族の機能、地域の機能がだんだん衰退し人がバラバラになり始めたのもこの頃からである。まちづくりとは? 考えさせられることが多かった。そんな社会の変化と新しい地域の課題に“なんとかしたい”思いの市民が、暮らしの安心、安全なまちづくりを考え始めた地域活動である。その拠点は、古い民家や空き家をボランティアの知恵と工夫で活用することからはじまり、事務所やデーサービスの場にしてきた。
 こうしてNPOという言葉もその概念も知られていない時の新しいボランティアの動きが高齢者、障害者の在宅支援、育児支援等くらしの困ったときの助け合いに広がったのである。“一人になっても住み慣れた地域で心豊かに暮らしたい”そのために必要なものを創っていく「ニーズにあった実践まちづくり活動」である。そんな活動団体がつながって緩やかな交流から1999年12月法人格をとり、NPOの中間支援組織として再出発し、人材育成や団体の基盤整備と信頼関係を創ってきた。今では知多半島を核に県下に広がり、それぞれの現場から問題を持ち寄り学習や情報交換をするNPOの育ちあいネットワークになった。
 発足当時は、ボランティアの有償活動に大変批判が続いた。が、予算があって活動できたわけでなく目の前の課題にチャレンジし発展してきた。不足の経費は地域益としてたくさんのボランティアで賄ってきた。福祉分野の団体は介護保険制度を活用しこれで何とか財源確保ができたかと思ったが、また、制度の見直しでまた先が見えなくなってきそうだ。NPOが活動を継続するための財源確保はどこの団体も苦労している。もともとNPOの財源は主に寄付や助成申請により得たもので運営されるものであるが、この活動に対してその認識はないに等しい。行政との協働が盛んに言われるようになってきた。NPOの黎明期、何より民意を育てるために事業協働を一つの手段とし、相互に信頼を築き役割分担の新しい関係作りから財源確保の循環ができないものかと思う。少子高齢化という予測の付かない社会の変化と市民の多様な価値観に、これまでの公共サービスだけでは担えなくなってきたことは明らかであり、もう一つの公共、社会サービスとしてもNPOの存在が必要になってきた。そのことを行政も市民自身も当事者として考えなければならない時にある。
 “人間の幸せ”“豊かさ”とか“生きる”という抽象的な言葉を草の根NPOの現場は具体的な形にし、命の尊厳を問いながら制度でない新しいサービスをまちづくりとして創り出している。
 社会の発展と人が成長し生きているからこそ変化する町、コミュニティ再生も市民の意識次第、その変化するプロセス、空間こそ人間の豊かさ、安心を生み出す源である。市民が何をどう選択、創造するか? 決めるのは人であり市民一人一人の判断と行動にある。
 人が感じ動いてこそ人が育まれ町が創られていく。ネットワークの現場から、身近な社会資源を見直すことで無限の可能性、明るい地域の未来と新しいまちづくりの姿が見えてきている。
NPO法人 地域福祉サポートちた
●代表者 松下典子
●活動開始時期 1993年(1999年12月にNPO法人認可)
●会員数 団体41、個人27(拠点利用団体3)
●活動地域 愛知県
●活動の趣旨 誰もが自分が望んでいる地域で自分らしく生き、心豊かに、幸せに暮らしていける地域福祉社会を形成していくことを目的にネットワークづくり・まちづくりをしている。
●連絡先 〒478-0047 知多市緑町31-1
TEL 0562-33-16 FAX 0562-33-1743
E-mail:cfsc@npo-jp.net
URL http://www.cfsc.npo-jp.net


講習会のようす
NPO法人 夢未来くんま 心豊かで安心して支え合う地域づくりを
村おこしの経緯  1986年、熊地区全戸加入の村おこしが始まった。みなし法人という組織で営業をすることに限界を感じ、社会性と継続性のある組織にと1993年頃から法人格取得のための研修が始まった。
 1995年には有限会社の定款を作り始めたが、3つの組織(協議会・くんま水車の里・かあさんの店)を一本化するためには多くの課題があった。長い検討期間が幸いし、2000年9月よりNPO法人夢未来くんまの「新たな挑戦」が始まった。熊地区活性化推進協議会を解散しての大仕事であった。
夢未来くんまのめざすもの
 夢未来くんまは、従来の食文化に加え豊かな森と木の文化の伝承普及事業や環境保全さらには、福祉や教育文化を通して、地域振興と相互扶助に基づいた、明るく住み良い地域づくりを目標に掲げている。現在、570人の会員で構成され、総会、理事会で方針決定された事項がゆめまちづくり委員会で具体化されていく。委員会は「水車・しあわせ・いきがい・ふるさと」の4部門から成り立っている。
 水車部は水車の里・かあさんの店と物産館「ぶらっと」を32名の女性たちで運営している。年間8千数百万円を売り上げ、水車部の運営経費と福祉サービスや環境保全・青少年の健全育成等のNPO活動資金に充てている。
 次にしあわせ部は福祉の増進を目的に、いきがいデイハウス「どっこいしょ」の開催と給食サービスを行なっている。どっこいしょは「自立の高齢者の居場所づくりに」と、月に1回ずつ集落の集会所8カ所を借りてデイサービスを行なうもので、80人が参加している。このどっこいしょの特徴的なことは、参加者自らが教材の提供や、指導をするほか、全戸配布用のアクリルタワシの製作も手伝う。また、デイサービスへのお弁当と、天竜市社会福祉協議会より補助金を受け、月1回、独居高齢者へ夕食の配食サービスも行なっている。
 いきがい部は交流推進・まちづくりが主な活動である。6月の第19回ほたるを観る会や2月の大寒謝祭には地域のスタッフ50人が会を盛り上げる。7月には「しずおか森の体験講座」があり県内の小学5・6年生30人が2泊3日のホームステイをしながら、育林体験や自然観察・手づくり体験を行なっている。
 ふるさと部は環境保全を目的とした活動でNPO活動の開始と同時に「子どもの水辺」事業が文部科学省の補助金(2002年度からは委託)を受け体験型の環境学習が始まった。また、静岡県より委託を受け「ふるさとの山・川まもり隊育成事業」も3年が過ぎた。事業は少しずつ意識化され、定着してきたように思う。子どもたちと活動して改めて思うことは、自然の力のすごさと、この山や川が長い年月をかけて熊の人たちに守られてきたことである。ここに住む人たちが当然のこととしてやってきた仕事が、将来まで守られていくだろうか。環境保全林としての価値をしっかり見据えて、貴重な財産が守られていくことを願う。
今後の取り組みと展望
2005年7月、天竜市は浜松周辺の12市町村の合併に加わった。その中でこの活動も新たな対応が迫られるであろう。NPO活動にとってこの合併が有益なものになるように、さらなる研究と挑戦をしていきたい。今後、さまざまな社会変化があってもここで暮らす私たちが、心豊かに生き生きと生活できるように「何が成し得るのか」「何を成さねばならないのか」を明確にし、一層の進展を期したいと考えている。
NPO法人 夢未来くんま
●代表者 大石理事長
●活動開始時期 2000年9月1日
●会員数 570人
●活動地域 天竜市熊地区とその周辺地域
●活動の趣旨 熊地区の住民全体を主な構成員とし、従前からの取り組みである食文化「そば」や「味噌」等の伝承普及と、地域に残る貴重な自然環境であるホタルの保護や棚田の維持保全、教育文化活動等の他、高齢者の生活支援ならびに子育て支援などを、その主たる事業とする非営利活動を行なうものである。
●連絡先 〒431-3641 静岡県天竜市熊1976-1
TEL 0539-29-0636 FAX 0539-29-0625
E-mail:kunma@joy.ocn.ne.jp
URL http://www8.ocn.ne.jp/kunma


阿多古川で魚釣り