プロフェッションとCPDA
時代の変化に対応した 多彩な研修を企画実行 単位制度はなし
日本弁理士会
向山正一
(日本弁理士会研修所中部地区研修部長) 
弁理士になるには 日本弁理士会への登録が義務
日本弁理士会は、弁理士の使命および職責に鑑み、弁理士の品位を保持し、弁理士業務の改善進歩を図るため、会員の指導、連絡及び監督を行うことを目的(弁理士法第56条)としている。そして、研修を通した会員の能力研鑚と向上を図るために、日本弁理士会内に研修所を設け、多くの研修を実施している。
 弁理士になるには、日本弁理士会への登録が義務(弁理士法第17条)となっており、弁理士全員、日本弁理士会の会員である。2004年7月現在、全国で約5,700人の会員がいる。日本弁理士会は、連合組織ではなく、全国単一組織である。会員研修は、日本弁理士会内の組織である研修所において企画し実行している。なお、現在、日本弁理士会の支部の一つとして、東海支部(支部会員約350人)があるが、東海支部が独自に会員向けの研修を行うことはまれである。研修所内組織として、中部地区研修部があり、研修所において企画された東海地区における研修の運営を行っている。中部地区で開催される独自企画の研修もあるが、ごくわずかであり、これも研修所による研修であることには変わりはない。
弁理士の業務内容 産業財産権を司る国家資格
弁理士とは、産業財産権(工業所有権、例えば、特許権、実用新案権、意匠権、商標権)の取得および取得された産業財産権に関する対応についての業務を、業とする国家資格であり、とくに、工業所有権に関する「書類の作成」、「鑑定」、「代理」についてを専権とするものである。
1.弁理士法4条1項関連:産業財産権(工業所有権)の取得および対応
 弁理士は、他人の求めに応じ、特許、実用新案、意匠もしくは商標または国際出願もしくは国際登録出願に関する特許庁における手続及び特許、実用新案、意匠または商標に関する異議申し立てまたは裁定に関する経済産業大臣に対する手続についての代理並びにこれらの手続に係る事項に関する鑑定その他の事務を行うことを業とする。
1) 特許出願、実用新案登録出願、意匠出願、商標登録出願、国際出願、国際登録出願の代理
2) 特許、実用新案、意匠もしくは商標に関する鑑定
2.弁理士法4条2項関連
1) 輸入差止め申立の代理(平成12年弁理士法改正により規定)
 商標権または著作権を侵害する物品、特許権、実用新案権、意匠権または回路配置利用権を侵害する物品について、関税定率法に定める輸入差止申立の代理
2) 仲裁(和解を含む)手続きの代理(平成12年弁理士法改正により規定)
 特許、実用新案、意匠、商標、回路配置または特定不正競争に関する仲裁事件の手続(これらの事件を仲裁する業務を公正かつ適確に行うことができると認められる団体として経済産業大臣が指定するものが行う仲裁の手続 当該手続に伴う和解の手続を含むに限る)についての代理 
3.弁理士法4条3項関連:契約の締結の代理等(平成12年弁理士法改正により規定)
 特許、実用新案、意匠、商標、回路配置若しくは著作物に関する権利、技術上の秘密の売買契約、通常実施権の許諾に関する契約その他の契約を締結する代理もしくは媒介、またはこれらに関する相談に応ずること
4.産業財産権に関する訴訟の代理
1)審決取消訴訟の代理
 特許庁が行った審決(特許出願等についての拒絶審決、特許権等についての無効等審決)についての東京高等裁判所に対して行う審決取消訴訟の代理
2) 産業財産権に関する侵害等訴訟における補佐人としての関与
 特許、実用新案、意匠もしくは商標、国際出願もしくは国際登録出願、回路配置または特定不正競争に関する事項について、裁判所において、補佐人として、当事者または訴訟代理人とともに出頭し、陳述または尋問をすることができる。
3) 産業財産権に関する特定侵害訴訟における代理人としての関与(平成12年弁理士法改正により規定)
 特定侵害訴訟代理業務試験に合格し、その旨の付記を受けたときは、産業財産権に関する特定侵害訴訟について、弁護士が同一の依頼者から受任している事件に限り、その訴訟代理人となることができる。
5.その他
1) 外国における産業財産権の取得及び対応
2) 産業財産権以外の知的財産権、例えば著作権(絵画、音楽、コンピュータプログラム)や半導体集積回路配置などに関する助言
日本弁理士会研修所の体制と研修内容
弁理士の業務は、特許に代表されるように、技術と法律に関するものであること、また、業務範囲が上記のように多岐にわたるものであること、さらに、弁理士登録のための要件研修がないことなどより、多くの研修を企画し実行している。
1.人的構成
 所長1名、副所長9名、運営委員121名(いずれも任期2年)、すべて会員
2.組織的構成(部会構成)
@研修所運営会議、A正副所長会議、B研修企画部、C新人研修部、D会員研修部、E研修情報部、F自主研修部、G近畿地区研修部、H中部地区研修部、I能力担保研修部、J基礎研修部、K倫理研修部、L先端科学研修部
3.会員研修(一般会員向け)
 法律改正など業務との関連の深いテーマに関する研修であり、年間6回程度、東京、大阪、名古屋にて開催している(昨年は東京、大阪、名古屋各8回開催)。また、適宜それ以外の地区にいおいて、地方研修として開催している(昨年は4回開催)。
4.継続研修(希望者対象)
 弁理士に関する特定の業務について深い実力を身につけるための研修である。最近では、「審決取消訴訟の準備書面の作成演習」、「拒絶理由対応研修(技術分野および法域別)」などのテーマについて複数回、継続して行い、昨年度は、東京、大阪にて各10回開催した。
5.新人研修(希望者対象)
 主に当該年度弁理士試験合格者を対象とする研修であり、カリキュラムは、弁理士業務を行うにあたって必要な基礎知識の修得に重点をおいている。2月上旬から3月中旬までの約20日間(前半、講義数約35)と9月(後半)に開催する。なお、本年度は、9月の後半研修は、eラーニングを用いての開催を予定している。
6.義務研修
 平成12年改正弁理士法附則6条に基づく「著作権法」、「不正競争防止法」並びに「契約代理・仲裁代理」に関する研修である。講義は2日にわたり行い、各日の講義終了後に効果確認が行われる。受講対象者は、弁護士その他の経済産業省令で定める者を除く会員であり、日本弁理士会会則第59条に基づき、当会ホームページ上に当該研修の受講歴が公表されている。昨年は、東京、大阪、名古屋各4回開催した。
7.新規業務研修(希望者対象)
 「著作権法」、「不正競争防止法」並びに「契約代理・仲裁代理」の新規業務に関し、深い実力をつめるための研修である。昨年度、東京、大阪、名古屋各4回開催。
8.倫理研修(義務研修)
 日本弁理士会会則第58条に基づく「弁理士倫理」に関する研修であり、全会員が対象。昨年度、東京6回、大阪3回、名古屋3回、その他地区3回開催。
9.先端科学技術研修(希望者対象)
 大学に協力いただき、先端科学技術(情報工学、バイオテクノロジー及びナノテクノロジー)に関する弁理士向け講座の開設によるものである。昨年は、6大学(名古屋大学を含む)において開設された。
10.特定侵害訴訟代理業務に関する能力担保研修(希望者対象:特定侵害訴訟代理権取得のための要件研修)
 特定侵害訴訟代理権を取得するための「特定侵害訴訟代理業務試験」の受験要件となっている研修である。研修時間45時間(講義数30)、起案(演習提出物)4通が義務となっている。
11.民法・民事訴訟法に関する基礎研修(希望者対象)
特定侵害訴訟代理業務に関する能力担保研修の前提となる民法・民事訴訟法の基礎知識を習得するための研修である。昨年度、5大学において開設された。
12.自主研修(希望者による開催)
 会員が自発的に行う研修であり研修所は、会場等の提供などの協力を行う。昨年度、8研究会が開設されそれぞれ多数会(2〜14回)研修会を実施している。
 毎月、研修所ニュースを他の書類とともに会員に郵送し、その中に研修案内を添付するほか、会員専用ホームページ(弁理士フォーラム)においても、研修案内を行っている。義務研修を除き、日本弁理士会で行われている研修は、任意研修であり、最低年間受講数等のノルマは設けていない。
弁理士、日本弁理士会、研修所の歴史
1899年(明治32) 「特許代理業者登録規則」施行
1909年(明治42) 「特許代理業者」を「特許弁理士」と改称、「特許弁理士令」公布
1915年(大正4) 「日本特許弁理士会」創立(特許局長の許可)
1921年(大正10) 「弁理士法」公布 「弁理士」に改称
1922年(大正11) 弁理士会設立(農商務大臣の認可)
1960年(昭和35) 工業所有権研修委員会設置
1964年(昭和39) 研修委員会に名称変更
1978年(昭和53) 弁理士会研修所開設
2001年(平成13) 「日本弁理士会」に名称変更