NPOとまちづくりA
相互扶助と自立精神
村居多美子             西脇 良孝
(NPO法人 介護サービスさくら 理事長)   (NPO法人 生活バス四日市 理事長)
NPO法人 介護サービスさくら
地域から信頼されるために
 介護サービスさくらは1988年(昭和63)8月、「地域でいつまでも安心して暮らし続けたい。思い出いっぱいの我が家で、家族と共に生活していけたら…」と願う仲間が集まり、会が生まれました。1993年(平成5)には、東京にあるさわやか財団の理事長堀田力氏の呼びかけで、互助型の地域福祉を考える会に参加しました。全国から会に賛同するネットワークが広がり、2000年4月から施行された介護保険制度は、この活動が契機になったと自負しています。
 介護保険制度を通して見えてきたことは、居場所のない高齢者が多いことでした。夫と2人で築いた家に、息子家族を呼び寄せ、介護してもらうはずが、陽の当たらない北側の一室に追いやられ、臭い・汚い・触るなと孫から言われ、気づいたときは、家族の中の孤独、介護無視、介護放棄という虐待の現実がありました。
 何とかしなければと焦りを感じていたその頃、「さくら」は名古屋市の商店街活性の助成金で、西山商店街に事務所建設にとり掛かるときでした。事務所を隅に追いやってでも、高齢者に昼間の居場所を提供しようと早速愛知県に通所介護の申請書を提出し、2000年10月1日小規模のディサービスがスタートしました。
 当時とても歩けない状態だった利用者のある方は、自宅の暗い部屋から出たい一心でディサービスに通い続け、気づくと杖なし歩行ができるようになりました。
 また、介護保険制度の中に、移送サービスがあります。ヘルパーが在宅介護に伺うと、高齢者の体調が急変することは、多々あります。そんなとき、ヘルパーの車で病院に移送できれば、利用者の方はどれだけ心強いことでしょう。日常生活を送る上で、通院やスーパーでの買い物は欠かせませんが、介護保険制度はそれらをサービスとして扱っていません。しかし、介護保険の理念である自立とは、「身体的自立」「精神的自立」「社会的自立」と3つの自立が揃って在宅の自立支援が可能とされている以上、移送サービスを切り離すことは無理が生じます。
 そんな疑問を感じていた頃、国土交通省旅客課長関口氏より提案をいただき、愛知でモデルのセダン特区をつくる機会に恵まれ、現在愛知県下のNPO法人45団体が一致団結して取り掛かっています。
 余談になりますが、3月17日から10日間、NPO法人の代表者10人でスウェーデン・フィンランドへ研修に出掛けました。そこで感じたことは、「どうして日本は何もかもが中途半端だろう?」ということ。スウェーデンから取り入れたといわれるグループホームを例にとっても、日本のグループホームの個室にはトイレやキッチンが無く、部屋の広さもスウェーデンの三分の一程度しかありません。スウェーデンでは、1970年に建設法の改正により、不特定多数の人が利用する建物は、車椅子でも使えるように配慮しなければ、建設許可が下りないそうです。
 また、ストックホルムで地下鉄に乗りましたが、駅はとても古く構内も暗かったのですが、目の前に階段、エスカレーター、エレベーターの移動用3点セットが並んでいました。「公共の乗り物は誰もが利用しやすいもの」といったこの国の福祉にかける情熱が伝わってきました。
 「さくら」の今後の課題として、高齢者の他に身体障害者や知的障害者を地域で支援することです。障害者の方々の中には、地域で充分対応できる人がいます。障害があっても、環境を整え、一般の人と同じ場所で生活をし、働く場所があったら、高齢者にとっても、私たちにとっても住みやすい町となるでしょう。
 「さくら」のディサービスの出入り口に、“助け合う・学び合う・育ち合う”と看板を掲げています。バス停でバスを待つ人がその看板を見て何かを感じてもらえたら、うれしいですね。

利用者と介護者が一緒に花見に
NPO法人 介護サービスさくら
●代表者 村居多美子
●活動開始時期 1988年8月
●会員数 268人
●活動地域 名古屋市名東区、千種区、東区、北区、守山区、天白区
●活動の趣旨 名古屋市名東区西山商店街で地域活性化に協力しながら、本来の事業である暮らし助け合い活動をモットーに高齢者、障害者、子育て支援等、誰もが安心して暮らせる明るい街づくりに努めている。また福祉問題に対する社会一般の理解、知識を深めるとともに、啓発活動を心掛けている。
●連絡先 
〒465-0085 名古屋市名東区西山本通2-23
TEL 052-788-2301 FAX 052-788-2302
URL http://www.kaigo-sakura.com
E-mail:info@kaigo-sakura.com
NPO法人 生活バス四日市
自分たちのバス運行、地域に活性化を
1.バス路線廃止に至る背景
 昭和20年代より運行されてきた三重交通バス垂坂線が利用者減少によって赤字路線となり、2002年(平成14)5月31日をもって廃止された。
 しかし、羽津いかるが地区は最寄りの電車駅、バス停留所まで約2km離れており、 公共交通の空白地域となる。そこで、地域住民にアンケートを実施した結果、高齢者を中心に「買物・通院へのアクセス手段がなくなるのは困る」という意見が圧倒的であり、新たな公共交通機関が必要であった。行政に何らかの方法で交通手段の確保ができないかお願いしたが、有効な手段はなく願いはかなわなかった。

2.住民主体でバスを走らせたい
 何とか他に良い方法はないかと思案にくれていたところへ、地域住民より地元の有力スーパーが地域と協働した地域貢献型のバス路線を模索しているので、一緒にやらないかとの相談が市の政策課を介してあった。思いのベクトルが一致したことより、早期の実現を目指した生活バス事業推進計画を2002年(平成14)7月にまとめ、行政からの支援をも含め行動を開始した。 

3.バス利用者の望み把握
 利用者の立場でどう考えているのか、小グループ討議を重ねながら求められているバスを追求した結果、医療機関への通院手段の確保、地域活性化(買物、交流、通学、通勤など)等、地域密着型のバス路線が望まれていることが判明した。

4.活動内容
 バスを運行する運営資金ではバス路線沿線の事業者・商店に地域貢献として理解を求め、協賛金を8社より50万円いただいた。また、運行には国土交通省の認可が必要であるが、市民グループであることに難色を示された。さらに、運営資金も不足し行政より補助金30万円を必要とした。これらネックの解決策として、世間的に認められるNPO法人化を目指した生活バス四日市運営協議会を2002年(平成14)9月に発足させ、11月からの試行運転(無料)を目指した。

5.運営の状況 
 約半年間の試行運転を経て、2003年(平成15)4月にNPO法人生活バス四日市の認証を受けると同時に、国土交通省による路線免許(21条)を取得し、有料によるサービスを開始した。運行は三重交通に業務を委託しているが、存続に協力的で採算ギリギリの金額で受託してもらっている。路線は近鉄霞ヶ浦駅より、複数の病院、郵便局、市民センターなど公共施設を経て、スーパーサンシ間の路線を1日5.5往復する。バス利用料金は1回100円とし、他に回数券や応援券(定期券)を利用しやすい低価格で販売している。回数券や応援券はパソコンで製作しコスト低減を図る一方、応援券については月末に電話で購入のお願いと予約を取り、自宅まで宅配し利便性を図るとともに利用者とのコミュニケーションを図っている。また、地域住民・事業者・行政の協働で成り立つNPO法人が有料バスを運行していることが全国的に注目を浴びており、地方行政からの視察等はこれまでに40件と多く、これも地域社会での認知や理解を得るための情報開示であるので、積極的に受け入れている。

6.成果
 試行運転期間(無料)より乗車人員も低下することなく、1日平均70〜80人の利用者があり、1年間で約20,000人の利用者があった。これは今までのバス路線では考えられないことで、地域住民の間に自分たちのバスを利用しないと存続できないという意識が高まったものと評価できるだろう。

生活バス四日市は市民の足として欠かせない存在に
NPO法人 生活バス四日市
●代表者 西脇良孝
●活動開始時期 2003年4月
●会員数 20人
●活動地域 四日市市羽津、大矢知地区
●活動の趣旨 地域住民が主体となり生活バスを運営し、高齢者、障害者等の車を使えない、または使いにくい住民の移動手段を確保するとともに、地域の新たな公共交通ニーズを開拓し、バスを活用した地域活性化と福祉の増進に寄与する。
●連絡先 
〒510-0012 三重県四日市市大字羽津戊595 
TEL・FAX 0593-61-6686 
E-mail:yoshi-nishi@muc.biglobe.ne.jp URL http://www.rosenzu.com/sbus/