保存情報第39回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 旧愛知県立第二中学校講堂 渡邉 勇/潟ウコウ建築設計事務所

木立に包まれてひっそりと建つ講堂

現在一部倉庫となっているが、建物の活用を望みたい
所在地 岡崎市針崎町字東カンジ46 
    日清紡針崎工場地内
構造規模 木造平屋建て
■紹介者コメント
 JR岡崎駅の南、徒歩10分の所に日清紡針崎工場があり、その敷地内に旧愛知県立第二中学校講堂がある。この旧愛知県立第二中学校は現在の愛知県立岡崎高等学校の前身として、戸崎町に1897年(明治30)創立された三河地方唯一の進学校である。1907年(明治40)に講堂が造られ、その後1924年(大正13)現在の明大寺町に学校が移転したが、講堂はそのまま残された。翌1925年(大正14)に現地である針崎工場地内の東端高台に西面して移築された。
 講堂は工場の中とは思えないような静かで緑多い場所にある。設計、施工者は不詳である。間口約16m×奥行23mの長方形プランに、屋根は寄棟造り瓦葺き、屋根の南北両面に二カ所の三角屋根があり、換気口になっている。基礎は花崗岩の棹石瘤出しを並べている。柱はすべて角柱で隅部分はとくに太く、基礎の上に直接立っているが、他の部分では地覆土台をめぐらし、その上に柱が立つ。外壁は横板の下見板張りとした上に床高の位置と窓上下の位置に計三本の横桟を貼り付けた意匠でまとめ、縦長の窓の両側にも同様の桟を額縁のように貼り付けて、そのまま腰桟と交叉して土台まで届いている。講堂内には間仕切りはないが、独立柱を立て格天井を受けている。現在は一部倉庫として使われている程度である。洋風の意匠を忠実に取り入れた建物である。
(参考資料:岡崎市史近代公共建築)
登録有形文化財 神宮農業館 林廣伸/蒲ム廣伸建築事務所

さまざまな様式が見られる外観

小屋組は洋風トラスで
所在地 三重県伊勢市神田久志本町
   建築年 創建(明治24)
   移築・増築(明治38)
   再移築(平成8)
登録番号 24-0021
■紹介者コメント
神宮の建築物は、もちろん、正殿をはじめとする社殿類が中心であるが、その他にも江戸期から現・近代に至るまでの多くの建物がある。そのうち、皇學館大学のある倉田山周辺には、大江宏設計(遺作)の神宮美術館、神宮文庫と御師の表門、片山東熊の設計した徴古館(登録文化財)や、今回紹介する神宮農業館などがあり、建築博物館の観もある。
農業館は、我が国の農業に関する博物館として、1891年(明治24)に外宮の神苑前に創設されたが、1905年(明治38)に、現在、神宮美術館の建つ地に、その一部を移築して背面に置き、正・側面を片山東熊の設計(と伝わる)により増築し、ロの字形の中庭形式とした。1989年(平成元)、神宮美術館新築に伴って解体され、1996年(平成8)、道を挟んで反対側に再移築・復原された。この際、敷地の都合により規模が2/3に縮小され、背面に残っていた当初部分は除去された。
現状の建物はコの字形の平面で、木造平屋建て、深く緩やかな勾配の化粧軒をもつ桟瓦葺きである。正面中央に宝珠露盤をのせた方形屋根の楼閣を設けているが、その姿はネパールの木造建築を連想させる。外観は真壁構造の白壁で、内法長押を廻し、柱の上には舟肘木を置くなど、日本古来の建築様式を基調とした意匠としているが、腰壁はわずかにふくらみを持つ小幅な下見板張とし、内部は小屋組に化粧でトラスを用いる等洋風な様式も混在している。
 なお玄関ホールには明治38年移築時の棟札が展示されているが、館内は撮影禁止(?)なのでご注意を。
 内宮・外宮参拝の折には、緑深い環境の中に建つ建築群を訪ねてみてはいかがでしょうか。