保存情報第38回 | ||
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) | 旧大和生命ビル(旧名古屋日本徴兵館、現UFJ銀行所有) | 谷口 元/名古屋大学 |
■発掘者コメント 「発掘」でも「お気に入り」でもなく、「気がかり」な保存情報である。 広小路通りに面する近代建築の一つ。隣接する貨幣資料館や少し西に位置する三井信託銀行の外観が古典的な様式で装飾されているのに対し、このビルは装飾がかなり抑制されている。基壇部および柱型、パラペット部が白色の花崗岩張り、梁型には黒色の花崗岩が張られ、縦線を強調したモダンなデザインである。低層階にはかつてカフェが営業しており、広小路の賑わいを演出していた。進駐軍にも親しまれていたとのことである。 中部大学教授、名古屋大学名誉教授の小寺武久先生が『東海の近代建築』(中日新聞本社刊)のなかで、「戦前の名古屋における本格的な建築活動の掉尾を飾るにふさわしい建築」、あるいは「わが国の戦前における構造合理主義的建築の一つの到達点」と記されているように、戦争に突入する直前に建てられた名古屋の誇るべき建築遺産である。 さてUFJ銀行がこの建物を取得したのは、隣接する旧東海銀行本店ビルを耐震改修する計画が持ち上がり、その間の銀行機能を一時的に避難させる場所とする予定であったらしい。当面耐震補強が不要との診断結果が出たため、当ビルを所有する理由が無くなっている。一般的にも企業が未使用の不動産を所有しているのは財務会計上きわめて不利な制度がとられているため、いつ解体処分されてもおかしくない状況にある。 戦乱や革命などで破壊された建造物の修復や再建に熱心に取り組んでいる欧州や中国の各都市とは裏腹に、建築や都市の文化の喪失に打開策を見出しえない名古屋である。 設計/横河工務所 施工/清水組 竣工/1939年(昭和14) 構造・規模/SRC造・地上7階地下2階 延床面積/16,520u |
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登録有形文化財 | 旭サナック本館(旭兵器製造本社事務棟) | 福田一豊/福田建築事務所 |
南側外観 |
階段 |
2階応接室 |
交通機関/名鉄瀬戸線「旭前」下車北へ徒歩3分 問合先/旭サナック本社 TEL 0561−63−1412 FAX 0561−63−2721 http://www.sunac.co.jp/ |
■紹介者コメント 今年3月、尾張旭市として初の登録有形文化財となったこの建物は、私の友人がこの建物の耐震診断業務を依頼された折に、貴重な建物の内装の一部が竣工当時のまま残されていることを知り、現状を記録に残すことにしました。私がその話を聞き登録有形文化財に登録してはとの話から生まれたものです。 1939年(昭和14)海軍の規格で「大隈鉄工所(現・オオクマ)旭分工場」として建てられました。1942年(昭和17)「旭兵器製造株式会社」として独立、戦前は兵器工場として、戦後は機械産業に転換し、1992年(平成4)に現社名になり現在も本館として使用されています。木造2階建で屋根は瓦棒葺きで、建築当初外壁は下見板張りでしたが、現在はモルタル吹き付けになっています。内部は1階の事務室を除き、玄関ホール、階段室そして2階の各主要室はほとんど建設当時の面影を残しており、戦前期の工場事務所建築の遺例として貴重なものです。 戦前海軍に在籍されていた高松宮殿下や、皇室方の貴賓室としても使用されていたことで天井が高く、内装は木と漆喰によるデザインで品よくまとめられています。木部のディテールや漆喰の下がり天井の納まりなど当時の木工や左官の高い技術を偲ばせてくれます。とくに2階の南側三室は当時の内装がそのまま残されており、旧海軍のシンボルである「錨」と「橘」を表現した漆喰天井のレリーフは大変興味深いものです。 長年大切に守ってきた人々の熱い思いが良く伝わってきます。今後も末永く使われていくこと願ってやみません。 所有者/旭サナック梶@ 所在地/愛知県尾張旭市旭前町新田洞5050 建設年/1939年(昭和14) 構造・規模/木造2階建・洋館(軸組構造)、 屋根寄棟 瓦棒葺き 延床面積/581.34u |