保存情報第37回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 桃岳山笑面寺(臨済宗妙心寺派) 林 美博/三橋建築設計事務所


観音堂 四国金刀毘羅宮の流れを汲む金毘羅大権現が安置されている


樹齢約230年の枝垂れ桜の満開の下で邦楽を楽しむ

所在地 犬山市羽黒寺浦11
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 
■発掘者コメント
 名鉄羽黒駅から南西に約1km、集落の中ほどに位置するこの寺は、1550年(天文19)犬山瑞泉寺高峰宗源師の法系を相続した泰室宗吟大禅師により創建された。その後、本能寺の変直後の1584年(天正12)、豊臣秀吉と徳川家康が戦った小牧長久手の戦いの緒戦である羽黒合戦により創建時の伽藍は焼失。その後1770年(明和7)、中興隣海無門禅師により再興、今日に至っている。観音堂には聖観世音菩薩と安永3年(1774)京都安井門跡より寄進された金毘羅大権現が祀られている。そのとき近郷の人たちにより植樹されたと伝えられている樹齢約230年の「枝垂れ桜」が有名である。この「枝垂れ桜」の見事さが評判になる十数年前までは一般に知られることのなかった寺である。最近ではこの地方の新聞・テレビで開花がニュースになり、名古屋あたりからも花見の人が訪れる。開花時期の3月末に合わせて春の犬山お城祭り催事として邦楽演奏会も開かれるようになった。
 近くには、頼朝の重鎮、梶原景時ゆかりの「興禅寺」、宇治川の先陣争いで有名な名馬磨墨の墓と伝えられている「磨墨塚」、小牧・長久手の戦いの「八幡林古戦場・野呂塚」、羽黒城址などがある。これらは犬山市の「全市博物館構想」の中で、地域の資源として位置付けられ、歴史的環境を生かしたまちづくりが始動した。同地域に住む「専門家市民」の一人として積極的に参画していきたい。
登録有形文化財 郡上八幡旧庁舎記念館(旧八幡役場庁舎) 水野威/泣~ズノ設計室


郡上踊り発祥碑前の広場からの全景


正面玄関ポーチ見上げのファサード

所 在 地 岐阜県郡上郡八幡町島谷520-1
構造・規模 木造・地上2階
延床面積 899.44u
1998年(平成10)登録有形文化財指定


吉田川堤から土蔵を見る
登録有形文化財 
■紹介者コメント
 郡上郡八幡町市街地のほぼ中央に位置するこの建物は、1936年(昭和11)に旧八幡町の役場庁舎として建設された。木造2階建ての洋風建築で、1階は町役場、2階は町議会の議場として使用され、1954年(昭和29)の町村合併により、行政の中枢機能が入り1994年(平成6)に新庁舎が完成するまで60年にわたり利用されてきた。外観は、外装を板張りとし正面と南側には石造りの玄関ポーチを配し端正な感じの縦長な窓がバランスよく配置されている。小屋組は、当時としては最新の技術であったトラス工法が用いられたようである。
 緑の山々に囲まれ、左手には豊かな水量をもつ清流吉田川が流れる美しい自然環境が、建物の外観をよりいっそう引き立たせ、改めて環境の大切さを認識させられる。このあたりの土地の地価は思いのほか高く、しかしそれが幸いしてこれまで開発されず、町全体を保存計画しながら現在の町並みを作り上げているとお聞きした。
 現在は、郡上八幡旧庁舎記念館として保存改修され観光と情報発信の駅としてまた町民の憩いの場として活用されている。保存改修は、建物が今後も使用に耐え得るかを調査した後、順次増築された部分を撤去しつつも基本構造と外観をそのまま活かし、建築された当初の形に復元した。内部は地場産業である木をテーマとした木の館として再生している。格天井や窓は従来の仕様を修復保存し当時の風情を残している。
 毎年夏には、約400年の歴史がある郡上おどりが行われる。その折にでも立ち寄られたらいかがでしょう。昼間とは違った風情を味わえるかもしれません。