保存情報第36回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 彌富ヶ丘第2号線桜並木道 國分孝雄/轄装ェ設計
■発掘者コメント
 名古屋には桜の名所といわれる所がたくさんあります。名古屋城、鶴舞公園、山崎川河畔などは、その中でも桜の名所として毎年、その時期になれば多くの花見客で賑わいます。
 しかし、あまり知られていませんが、知る人ぞ知るお勧めの桜の名所が瑞穂区彌富ヶ丘町にあります。八勝通り3丁目から彌富公園へと約500mにわたって続く、歩・車道全体を覆い尽くす見事な古木の桜トンネルです。桜の季節には夜間、程好い明るさの雪洞状の外灯に浮かび上がり、天上を覆う得もいわれない淡墨色の桜に出会います。名古屋市都市景観賞受賞もさにあらん景色です。夏は濃い緑のトンネルで涼を呼び、秋には日に映える紅葉で目を楽しませてくれます。冬の葉の落ちた木立ちの絡み合う線描も力強く真に冬景色そのものです。このように都市空間の中で四季折々の変化を見事に演出してくれます。ぜひとも良好な維持管理を得ていつまでも残したい街並みです。
登録有形文化財 旧井上家住宅西洋館 坂本悠/アーキテクト・オフィス有理社

寄棟造瓦葺、下見板見貼りの外装

菱格子柄のベランダやアーチ型の窓が瀟洒な感じを与える
■紹介者コメント
 豊田市内から足助に向かって153号線を行くと、平戸橋を見下ろした矢作川のほとりに豊田市民芸館があります。この建物は、東京にある日本民芸館を改築する際にその一部を譲り受けて、1983年(昭和58)に建設されました。柳宗悦が先駆者となって始まった民芸運動ですが、この民芸館においても民芸の基本理念である衣・食・住の資料が展示されています。数棟ある施設のひとつに旧井上家が矢作川を見下ろすようにあります。
 旧井上家は名古屋で二番目に古い木造西洋館として、明治時代に名古屋で開かれた博覧会で、貴賓館として使用されました。その後名古屋市内に移築され、銀行として使用されましたが、1928年(昭和3)に両替商として成功した井上家の井上農場の迎賓館として、西加茂郡挙母(現・豊田市)に再度移築されました。一時は住まいとして使われたようですが、元来住宅として設計していないことから住みづらく、農場内に傷み放置されていたところを豊田高専の先生、学生たちの尽力により見つけ出され、1989年(平成元)現在の場所へ三度目の移築を行いました。
 20坪足らずの小さな2階建ですが、アーチ型の窓や洒落た手すりは、いかにも西洋館らしいデザインが施され、軽やかで気持ちが良いものです。遠方に猿投山を仰ぐことができる豊かな自然環境にも恵まれ、まもなく桜も開き始めるでしょう。ゆっくりと半日を過ごすには絶好の穴場だとお勧めします。
所 在 地 豊田市平戸橋町波岩86-100
建築面積 23u
建築年代 明治10年頃