保存情報第29回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 丸一国府陶器店 三輪邦夫/RE建築設計事務所
■発掘者コメント

瀬戸はやきものの町である。1300年の歴史があると言われている。市の中心を流れる瀬戸川沿いに丸一国府陶器店は建っている。最近建て替えられた名鉄瀬戸線尾張瀬戸駅を降りると、目と鼻の先である。市の観光用パンフレットには必ず掲載されるくらい、市のシンボル的建物である。この辺りは、2005年愛知万博開催に合わせて駅前再開発ビルの工事などが始まり、その姿を変えようとしている。どういう町に変えようとしているのか。
 丸一国府陶器店の○は犬山藩成瀬家の家紋である。火山藩の家老だった人が明治のはじめ、名古屋市大曽根で丸一商店として創業する。1921年(大正元年)に現在地に陶器部門を移転し、戦後、当時の番頭が屋号とともに経営を引き継ぎ、現在に至っている。城郭に似せた造りは、ひときわ人目を引いたことだろう。
 木造2階建て、切妻屋根桟瓦葺、望楼をのせる。内部4層。1階は広い土間と箱階段がある店舗、所狭しと陶磁器が並べられている。2階は巾廊下で仕切られ、洋風応接間を配する。3層の小屋裏は倉庫、望楼は広縁がある8畳座敷になっている。4方に窓があり、かつては、石炭窯の煙突が林立する姿を眺め、その繁栄に酔いしれたことであろう。
 道路拡幅のため、陶器店は曳き家される予定である。とにかく壊されることだけは免れたようである。シンボル的な建物をどのように残していくのかこれからが楽しみである。

所在地 瀬戸市栄町41
建設年代 明治末
現在の国府商店 大正初めのころの国府商店
登録有形文化財 T,sCAFE(旧中埜家住宅) 本田伸太郎/本田建築設計事務所
所在地    半田市天王町1-30
建設年代   1911年(明治44)
大規模修理 1978年(昭和53)
構造・規模  木造・地上2階
延床面積    321.93u
■紹介者コメント

 旧中埜家住宅は、名鉄河和線知多半田駅より、100メートルほど北寄りの商店街の一角に建っています。今は、T,sCAFEという紅茶専門館として、地元の人々に親しまれており、私たちも英国風の歴史ある洋館の中で、紅茶と洋菓子のアフタヌーンティーを楽しむことができ
ます。ただ、残念なことは、周囲にいろいろな建物が建てられてしまい、別荘として建てられた建設当初のように、衣浦湾を望む丘の上に建っているというイメージはありません。
 この住宅は、1911年(明治44)に中埜酢本店の先代である第10代中埜半六が、英国留学中に見たヨーロッパの住宅の美しさにひかれ、それを模して、当時の名古屋高等工業学校(現・名古屋工業大学)建築科長である鈴木禎次教授に設計を依頼し、志水組の志水正太郎の施工で、別荘として造られたものです。
 屋根は、手割りの天然スレートで、大屋根は寄棟ながら、南面はベランダをはさんで左右を切妻屋根とし、他にも北側階段室の屋根などを切妻とし、複雑ながら変化に富んだ美しさを醸し出しています。外壁はハーフティンバー様式を取り入れ、壁は木摺下地漆喰壁、1,2階ともにベランダを設け、1階ベランダは列柱を5本建て、柱はエンタシス風を形どっています。内部も各室に設けられた暖炉や、天井の装飾、扉、窓なども本格的な洋風の内装で見ごたえがあります。