クルマが変わる −電気バワーと自動車の進化− 第6回

躍進めざましい電気パワーは
循環型エネルギーリサイクル
朝倉吉隆(トヨタ自動車)
  1997年12月に量産型ハイブリッド自動車「プリウス」が登場して以来、昨年10月にはその累積生産台数は10万台を達成し、電気パワーを用いたハイブリッド自動車が普及するための「マイルストーン」を通過しました。
 一方、電気白動車の普及は米国カリフォルニア州で施行されてきたZEVデモプログラムの実施など政策的普及活動にもかかわらずなかなか進んでいません。価格が高く、一充電走行距離に制約があるなど、用途が限られる点がガソリン車への代替普及につながらないことが確認されたとも言えます。今回はクリーンエネルギー車の代表である電気白動車の普及への新たな取り組みと電気パワーによるクルマの進化と住宅建築へのインパクトについてお話します。
電気パワーで社会を円滑に運営
 電気白動車は充電ステーションで充電することから、充電中に車両の状態を通信管理することができます。この利点を活かして、日本および米国各地で電気自動車の共同利用システムの実証試験が実施されています。
 トヨタ白動車および豊田市で実施されているEVコミューター(小型電気自動車)を共同利用する短距離個人輸送システムです。EVコミューターを鉄道駅などの拠点に配備し、通勤・通学のパーク&ライドや、ショッピング・オフィスなどの各ゾーン内では、乗り捨て自由のタウンレンタカーとして利用できるものです。EVコミューターは、EVステーションや街中の充電スタンドで充電できます。またこのクルマにはVICS対応カーナビが搭載され、現在位置や道路混雑の状況などがドライバーに提供されます。またレンタルシステムは、ICカードにより予約や決済が簡単にできます。
 共同利用システムを国際観光地である京都市内に適用したのが、「京都パブリックカーシステム」です。2000年12月より開始され、2001年9月からは観光客も会員対象とした有料実験が実施されました。観光者の市内移動、市民の通勤・通学のパーク&ライドなど乗り捨て白由のタウンレンタカーとして利用できるものです。EVコミューターにはVICS対応カーナビが搭載され、現在位置や道路混雑の状況、電池の充電状態に応じた走行可能範囲など運転情報がドライバーに提供されます。
 このような共同利用システム実証プロジェクトは、横浜市のみなとみらい地区、多摩市ニュータウン、米国カリフォルニア州バークレーなどでも実施されています。
図1.CrayonEVステーション(電気白動車e-comと充電場) 図2.EVコミューターシステムCrayon
やさしい運転操作のEVコミューター
1人乗りEVコミューター
(アラコエブリディコムス)
一方、高齢化社会への市場シフトを背景に1人乗りのEVコミューターが製品化されてきています。右の写真はそのひとつであるアラコのエプリディコムスです。1人乗りの4輪EVで普通免許が必要ですが、小型、クリーンなクルマであるほかEV特有のやさしい運転操作、4輪車の安定性により今後さらに普及していくものと思われます。また2輪車のEVコミューターとして、昨年秋にはヤマハ発動機が「Passo1」のインターネット販売を開始しました。
 これらのコミューターの特徴は、クルマとしての使用範囲をある程度見切った乗り物として設計されたことです。米国のZEV規制では、電気自動車の性能要件として「フリーウェイを高速走行できる」ことが要求されていますが、これに満足させるには電池の搭載量が大きくなり、電池コストも高くならざるを得なかったのです。1人乗りコミューターでは、この点を割り切って「街乗りコミューター」として性能設計されています(図4)。
EVコミューターの位置付け バッテリ回収方法
電気バワーの浸透とリサイクル対応
 電気パワーがクルマ技術に浸透していくためには、これに用いる資源の再利用、再生が次なる課題となります。
 現在、使用済みの車両は、金属類を中心に重量比で約75〜80%がリサイクルされています。約20〜25%にあたる樹脂やゴムを中心とする残りの材料は、廃棄されているのが現状です。自動車メーカーでつくられた自動車は、ユーザーに使われて使命が終わり、使用済み車両として廃車されます。その後の流れは、まず解体事業者によって、エンジン、トランスミッション、タイヤ、バッテリ、触媒コンバーターなどが取り外され、リサイクルされます。
 残されたボディは、シュレッダー事業者により、鉄・非鉄金属と樹脂などのダストに選別され非鉄金属はリサイクルされていますが、残りのダストは、廃棄物として埋め立て処分されています。
 地球上の資源の有効活用や埋立処分量減少のためにもこの廃棄物をさらに少なくし、再使資源化を推し進め廃棄物ゼロを追求していくことが、自動車のリサイクル活動に求められます。
 ハイブリッド自動車はまだ5年を経過したばかりなので、事故車両などごく少ない廃車がリサイクルの対象となりますが、それでも今のうちからしっかり社会システムを構成するよう進められています。図5に示すようにハイブリッド電池のリサイクルシステムが運用されています。
エネルギー問題への対応
 わたしたちの大事な「宇宙船地球号」を守り子孫に残していくことは周知のように人類にとっての最大の課題であります。本連載では「電気パワーとクルマの進化」と題して電気自動車、ハイブリッド自動車の開発をご紹介することで地球環境問題への取り組み状況をお話ししてきました。電気パワーをクルマに取り入れることは、エネルギー回生により飛躍的な燃費向上を可能とするだけでなく、電気を用いることでクルマに用いるエネルギーの形態に大きな自由度を与えることです。エネルギー問題の解決のためには「循環型エネルギー社会の構築実現」とさまざまな場面で言われるように、「化石エネルギーの消費サイクル」を、さまざまなエネルギー利用形態を実現することで「循環型のエネルギーサイクル」に転換していくことが21世紀におけるわたしたち人類の課題です。
 電気パワーの最先端技術として注目されている燃料電池では、普及形態のひとつとして住宅やビルの電力・熱供給システム(コジェネシステム)の実用化開発が注目されています。このような電カ供給システムが一般住宅に普及していけば、EVコミューターのような充電もコジェネシステムの電力を使うことができます。こうなると、電気パワーを通じて、「住宅とクルマの関係」がいっそう密接なものになると思います。
 また、電気パワーの中心である電力変換、蓄電池システム技術をクルマ産業と住宅産業で共有することで、さらなる普及促進につながっていくのではとさらなる期待を募らせています。
 拙文を6回にわたり連載させていただき、ありがとうございました。読者諸兄にとって、クルマーハイブリッド技術に親しみを覚えていただけることを祈念します。
参考文献
1)『ToyotaHybridBook』トヨタ自動車広報部、2001年
2)自動車技術 Vol156 No.1より
 「電気自動車、ハイブリッド自動車の現状と将来」
3)ヤマハ発動機ホームページ
4)JEVAホームベージ
5)アラコエブリディコムス(写真提供)