理事会レポート
“新たな建築資格制度"創設となり得るか?       理事 森口雅文
第126回理事会は去る9月25日にJIA館で開催された。「JIAを変えよう」との掛け声で発足して4ヵ月、新執行部の活動もいよいよ本格化した。今回は報告事項9件、審議事項4件が討議された。
■報告事項
UlA誘致報告(仮決算報告を含む)は、2008年UIA大会誘致実行委員会(長島孝一委員長)から、第23同2008年UIA大会開催地誘致活動についての正式報告書が提出された。報告書は、概括、選挙の経緯、選挙結果に関する分析、誘致活動の総括からなり、最後にベルリン総会の議事運営のルール違反を正して選挙手続きの改正に関する意見書を作成して、UIA加盟各国に周知するとともに理事会に提出することを決定した、と結んでいる。なおUIA大会2008東京誘致委員会は去る9月20日に開催、活動報告が了承され同日解散した。ひきつづいて誘致活動に関する支出の仮決算が報告された。支出見込みは前回理事会で承認された修正予算の範囲内であることを確認したが、兼松紘一郎理事からは正式報告のときには各費目の詳細な内訳を報告するようにとの申し出があった
会員種別、会費種別に関する特別委員会報告は、河野進委員長より検討の経過が報告され、いくつかの会費改定モデルが提案された。改訂モデルは、(1)さしあたっては現行のままとする(72千円・36千円)案、(2)現在の会費の平均額(54千円)で一律に統一する案、(3)現行の一般会員の会費の額(36干円)に統一する案の3案で、(3)の場合は、会費収入の不足は明らかであり、その対応策として、(イ)不足分を会員の所属する事務所から賛助会費として徴収する、(ロ)36千円分は本部活動の費用に充て、支部はそれぞれ必要とする分を別途徴収する、(ハ)36千円の範囲で活動する、以上3案が提示された。なお橋本修英近畿支部長代理からは、会費の徴収は会員の顔の見える支部ごとでやってはどうかとの提案があったが、河野委員長からは、徴収の技術的問題は委員会でも検討しているが、支部で徴収する場合は、支部の負担が増えるので、経費処理上本部でまとめた方がよいのではないかとの回答があった。また下村憲一北海道支部長からは、会員のほとんどは個人の事務所か小規模の事務所に所属しているので、そのことへの配慮が必要であるとの指摘があった。
沖縄大会スケジュール及び対応については、山城東雄沖縄支部長から、現在約500人の参加申し込みをいただいているが、目標は1,000人なので、最終的には何とか600〜700人の参加をお願いしたい。またこれまでのところ、賛助会の会員の参加申し込みが少ないので、賛助会へ積極的に呼びかけてほしいとの要請があった。
財務状況については、柳澤璋忠専務理事から現在の財務状況の報告と対応策の説明があった。2001年の会費収入は265百万円であったので、2002年度の収入を245百万と想定していたが、現況から判断すると最終241百万円程度と推定され、昨年に比べて24百万の会費収入減が予想される。一方事業収入も新執行部による新規事業の立ち上げが遅れていることもあり、10百万円近い減収が予想され、あわせて30百万円近い減収となる。今のところ対応策としては、支部への交付金を10百万円削減し、本部経費を20百万削減する。なかでもCPD事業のコンピューター管理費は一時凍結せざるを得ないとの説明があった。
その他松原関東甲信越支部長から、JIA15周年記念の新聞社の広告取材に関して15周年の記念事業を行なうのなら、理事会に諮るべきであり、新聞杜を通しての協力であっても結局賛助会に負担をかけることになるので、JIAとして配慮すべきであるとの指摘があり、今後注意する旨の高野常務理事・事務局長の回答があった。
■審議事項
新規入会者、休会者承認および退会者承認の件は、新規入会者60人、休会希望者10人を承認し、退会39人の報告を受けた。なお私からは前回の理事会で審議を保留した休会希望者の年限の取り扱いについて質したが、検討未了のため次回理事会に答申するとの回答があった。
委員会組織については、委員長および委員と(仮)倫理規定改訂委員会(太田隆信委員長、委員は未定)の設置を承認した。同委員会は、職能5項目を見直すとともに、わかりやすい表現に改訂する業務をとり行なう旨の説明があった。
大会開催方式については、
小倉副会長から2003年以降のJIA大会開催の基本的な考え方を、
(1)国際交流の場として、また各種の表彰、顕彰の場として、毎年何らかの形で全国大会の開催が必要。
(2)全国大会と支部大会が重なることによる会員の負担を軽減する。
(3)支部大会は会員の連帯感の強化、組織の活性化に極めて有効で大事な事業である。
として、具体的には次のような開催方式が提案され、審議の結果、異議なく承認された。
その方式は、2003年以降、隔年で関東甲信越地区と近畿地区で本部主催によるJIA大会を開催する。上記の間の年には支部大会のいずれかで、毎年必須の本部行事を併催する。なおこの場合、本部行事にかかる事務に関しては、原則として本部事務局がとり行ない、本部は全国の会員に当該支部大会への参加を呼びかけるなど、支部を支援する。また開催方式については、この方式による開催が一巡する2006年に必要であれば、再度検討するとしている。次にこの方式による具体的なフロー案が示された。2003年支部大会の年として、支部大会を開催している支部のうち、東北、東海、北陸、近畿、九州のいずれかひとつを指定(例、近畿、東海ほか)、2004年全国大会の年、関東、近畿いずれかで開催(例、関東)、2005年支部大会の年……との説明に対して、
橋本近畿支部長代理からは、近畿支部大会は来年滋賀で開催する予定であるが、すでに日程なども決まっており、今から全国大会の併催は無理である。
また上村貞一郎東海支部長からは、来年開催予定の東海支部大会は、開催候補地、日程ともに検討中で、支部としては100人程度の支部大会を考えていたので、全国大会併催となると支部での検討が必要であるとの発言があった。
下村北海道支部長からは、2003年は関東か近畿で全国大会を開催してはどうかとの提案に対して、
松原関東甲信越支部長からは、東京大会はJIA大会のミニ版にしたいと考えている。JIAだけでなくBCSや学生まで対象を広げた建築界全体の大会として、今までにない大会にしたいので、2004年でないと時問的に無理である。
小倉副会長からは、東京に限らず今後の大会はそのようにあるべきで、東京が範を示せばどうか。
また河野進副会長からも、資格制度をやるなら来年がよいとの発言があった。
私からは、しばらく関東で開催していないことや、全国大会を見直すのであれば、東京で模範を示してもらってはどうか。何よりもUIA2011年大会の東京誘致を2005年のUIA総会で立候補するなら、来年ぜひ東京で開催して名乗りを挙げてはどうか。このローテーションでいけば、2011年はちょうどUIAとJIAの大会が東京開催になる。
また鮎川透九州支部長からは、大会のあり方は他団体とのかかわりや建築家資格制度など戦略的に考えるべきであるとの指摘があった。
最後に大宇根弘司会長が次年度の大会開催地は沖縄大会までに本部と関東甲信越支部との間で調整するとして、来年の大会開催地の決定は保留となった
建築家資格制度の進め方については、前回の理事会では2002年度事業計画に則り建築家資格制度の試行を全国的に展開するために緊急に検討すべき課題の説明があった。その後建築家資格制度推進委員会を中心に「建築家資格制度試行の全国展開に関する行動指針(案)」をまとめ、支部長会議、全国地域会合同会議に諮り意見を徴集する一方、理事には本理事会の開催1週間前に案の提示と意見の提出要請があった。当日は「建築家資格制度試行の全国展開に関する行動指針(案)」、同指針(案)に対する各理事の「意見書」、“新たな建築資格制度"創設に向けての3団体(日本建築士会連合会・日本建築家協会・日本建築学会)基本合意書(案)と、“新たな建築資格制度"創設に向けての2団体(日本建築士会連合会・日本建築家協会)基本合意書(案)が配布され、それぞれ経過を含めて説明があった。
松原関東甲信越支部長からは、“新たな建築資格制度"創設に向けての2団体基本合意書(案)には、支部長会議では特段の異議がなかったとの報告があり、審議の結果、承認された。今後JIAは沖縄大会で説明し、日本建築士会連合会は三重大会に諮った後、正式に公表される予定である。なお大宇根会長からは行動指針(案)への意見書が2団体基本合意書(案)にどのように反映されているのかを書面にまとめ、沖縄大会で了解を得る旨の説明があった。2団体基本合意書(案)は、日本建築士会連合会会長宮本忠長、日本建築家協会会長大宇根弘司の連名で認められ、その概要は次の通りである。
『2000(平成12)年7月に建築技術教育普及センターに「建築設計資格制度調査会」が設置され資格制度についての本格的な議論がはじまった。同調査会は国土交通省の参画も得て、建築関係5団体(日本建築学会、日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会、建築業協会)の会長を中心に構成され、主として「資格制度の抜本的見直し」と「資格制度の国際化対応」の2点についての検討が進められてきた。とくに国内資格制度改善はわが国の建築界にとって十数年来の懸案の課題であり、先の社会的動向を考えれば、建築界の合意として現実的な着地点を見出すべき時期に来ていると考えるべきである。日本建築士会連合会と日本建築家協会はこうした祉会的要請に応えるべくまた長年の議論の成果を踏まえて新たな建築資格制度の現実的な着地点を探りはじめた。日本建築士会連合会は、建築士法を基本にした「専攻建築士制度」の創設を、日本建築家協会は、UIAの基準との整合性を視野に入れた「建築家資格制度」の創設を提案、次の段階としてより具体的な制度設計に向けての検討を進めようとしている。一方建築教育分野においても、国際化の流れをにらみつつ職能教育を視野に入れたわが国の建築教育全般にわたる制度改革の検討が進められている。このような状況を考えれば、現段階の緊急課題はわれわれ職能資格2団体が協調、率先して他団体との協力をとりつつ行政との緊密な連携も図り、われわれの動きをひとつに収敏させ“新たな資格制度"を具体的に提案することだと考えた。そのうえで次のような合意内容を確認している。(1)長期的には建築士法制度や建築教育制度といった基本制度の抜本的改革を前提として新たな建築資格制度を構築する。(2)中短期的には日本建築士会連合会の提唱する「専攻建築士制度」の基本的な考え方と日本建築家協会が試行する「建築家資格制度」を整合させる方向で具体的な資格制度設計を他団体の意向も十分留意しつつ、可及的速やかに全国施行をめざす、(3)制度設計にあたっては、(イ)日本建築士会連合会の専攻建築士制度のうち「統括建築士資格」と日本建築家協会が試行する「建築家資格制度」とは同等性のあるものにしていくとの考え方に立って、その認定基準などについては、現行の建築士制度の不十分な部分を補いながら、APECアーキテクトをはじめUIAなどの国際的な動きにも対応できるように定める。(ロ)新しい資格は一定の期問ごとに更新するものとし、更新の条件についてはCPD等の実施を前提とする。(ハ)他の専攻分野の種別、名称などについても関係する諸団体と連携をはかりつつ検討する。(ニ)資格等の登録・認定は第三者性のある機関によって行なう。内2団体は資格制度の立ち上げに向けて各地域での協調関係を強化する』。
 以上の通りであるが、私見としては、2団体基本合意書(案)は、JIAの行動指針(案)に比べてそれぞれの制度を尊重して論じようとしている姿勢を評価したい。しかし、今後の展開を考えると2団体合意よりもやはり学会を入れた3団体合意の方が望ましいという見解もある。いずれにしろ専攻建築士制度の中味の議論も必要であるが、その前にJIAの提唱する「建築家資格制度」とは何なのか、あらためて会員と広く社会に説明して、資格制度確立の必要性を啓蒙すべきと考える。
 当日、近畿支部から唐突に出された出江寛近畿支部長、西部明郎近畿支部常任幹事連名の「近畿支部は総括建築士案に反対します」と題した大宇根会長宛の宣言文は、近畿支部の建築家資格制度問題に対する決議のように受け取れたが、橋本支部長代理からは、支部として機関決定されたものでなく、これから支部役員会に諮るとの説明があり、大宇根会長からあらためて近畿支部に説明を求めることになった。新たな建築資格制度設立運動への「専兼問題」からの反対は、今さらという感はぬぐえなくもないが、JIA内部で「建築家」と「資格」に関する共通の認識を持つことが急務であることを痛感した。(2002.9.30)