| クルマが変わる−電気パワーと自動車の進化− 第4回 | |
| 永久磁石のモータ制御が高効率で快適な走りを実現 | |
| 朝倉 吉隆 (トヨタ自動車) |
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| ハイブリッド自動車の魅力は何ですか?と問われると、私は「卓越した燃費のよさ」と「静かで滑らかな加速感」と答えています。こうした魅力が次第に理解されるようになって、この4月には、ハイブリッド自動車の生産累計が10万台を超え、街中で見かける機会も大変多くなりました。ハイブリッド車の「静かで滑らかな走り」を可能にしたのが、今回のテーマである「モータシステム、すなわちモータとインバータ制御回路」です。 | |
| 永久磁石を用いた交流同期モータ | |
| 初期の電気自動車は、電池の直流電流をそのまま使うことができ、構成が簡単であることから、直流モータを使っていました。1971年に始まった当時の通産省大型プロジェクトの開発では、電気自動車の走行性能を飛躍的に向上させるため、先回お話しした電池のほか、エネルギー効率の優れたモータシステムの研究開発が進められましたが、ガソリン車の性能と比較すると今一歩の性能でした。米国のカリフォルニア州での排気ガス規制の一環(ZEV規制)として電気自動車の導入が求められるようになると、高速道路での走行性能を実現するために、より高性能なモータが必要となりました。図2はこれらの経緯をモータ種類の変遷であらわしたものです。現在でも変わっていませんが、当時のモータの開発課題は@小型軽量、A高効率、B信頼性が高く、保守性に優れる、C低騒音、D低コストです。 これらの要件を満足させるため注目されたのが、永久磁石を用いた交流同期モータ(PMモータ:Permanent Magnet Motor)です。電気白動車で培われたモータ技術を礎に、量産性と低コスト化を進めた結果、プリウスやエステイマHVなどの量産ハイブリッド白動車に用いることができるようになりました。 PMモータが実用化されるには、高性能な永久磁石の開発が必要でした。ネオジムなど希土類磁石の強磁性化と耐熱性向上により、大きな出カトルクをコンパクトなモータ体格で実現することができました。また数十キロワットクラスのモータ駆動を可能としたIGBT(Insu1ated Gate Bipo1ar Transistor)の白動車への適用が可能となったことも技術革新の一つです。 |
![]() 図1 モータとインバータ制御回路 |
| 弱め界磁制御が最高回転を高める | |
| これらの周辺技術、材料技術が進んできた背景には、前述の電気自動車の導入規制が自動車業界だけでなく、周辺の産業分野に大きな影響を与えた結果(二一ズ)、環境にやさしい自動車を実用化するための基盤技術開発を促進させた(シーズ)という相乗効果によるものと考えています。 図3は永久磁石の開発状況を示したもので、最大エネルギー積を指標に、年代別に整理したものです。フェライト磁石は酸化鉄を主成分とし、性能バランスは良く、もっともコストパフォーマンスに優れた磁石として多方面で使われています。サマリウム・コバルト希土類磁石はコバルトと希土類鉱石中における含量の少ないサマリウムを主成分としており高価でした。そこで、コバルトに依存しない、豊富なフェライトをべ一スにした永久磁石(ネオジム、フェライト、ボロン系)の希土類磁石が1983年に発明され、この20年余りでさらに性能が向上してきました。PMモータを実用化するにあたり、さまざまな設計工夫も織り込まれました。電気自動車では、エンジンによる発熱がないこともあり、部品にかかる熱は比較的少ないのですが、ハイブリッド白動車ではガソリンエンジン車と同じように、厳しい使用環境(熱、振動、腐食)を満足させる必要があります。こうした要求に対しても、磁石をロータ部に埋め込み、コーティングするなど、満足できるものが設計されました。 モータの制御方式も、エネルギー効率を一層高め、高速でもスムーズな走りを実現するため、さまざまな技術が織りこまれています。高トルク性能と高効率化を実現するためのインバータ制御技術は、電池の直流電力を三相交流電流に変換し、電流の位相を最適に制御することで、モータのトルク出力と効率向上を実現しました。効率の向上は発熱=損失の低減であり、優れた燃費性能を達成するだけでなく、温度上昇を抑えることにより部品の耐久信頼性の向上にもつながるわけです。 もう一つ、PMモータ制御の特徴に「弱め界磁制御」というのがあります。永久磁石モータでは、小型軽量で高効率である長所を持つ一方、高速回転領域ではロータ(回転子)の永久磁石の回転により、ステータ(固定子)の巻線に起電力が誘起され、この起電力とインバータ駆動電圧がバランスするところで、最高回転数が決定されます。最高回転を高めるには、この誘導起電力を弱めることが必要で、駆動電流の制御手法として「弱め界磁制御」が用いられています。 |
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![]() 図2 EV,HV駆動モータの開発動向 |
![]() 図3 永久磁石の開発状況(出典[粉体と工業Vo131,No.6』1999,P37,金子祐治著) |
| 素子技術の発展が大きく貢献 | |
| このようなモータ制御を実用化できるようになったのは、インバータ、とくにパワートランジスタと制御回路の信頼性、低コスト化が発展してきたからと言えます。紙面の都合上、詳しく説明できませんが、図5はプリウスのインバータとインテリジェントパワーモジュール(IPM)と呼ばれる電力変換回路、その構成素子であるIGBT(Insu1ated Gate Bipo1ar Tmasistor)の原理図です。数十キロワットの電力変換をこれほどのコンパクトな搭載設計で実現することができるのも、こうした素子技術の発展が貢献していることは言うまでもありません。 ハイブリッド自動車が実用化できた背景には、こうした部品技術が同時に進歩したことが見逃せません。これらの周辺技術の発展を促したのは、21世紀の自動車技術として「環境負荷抑制に優れたクルマ造り」を「時代の二一ズ」としてわたしたち社会全体の受け止める姿勢が醸成されてきたからだと思います。これらの二一ズ、それを受け止めるシーズ技術の進歩を一層促進させるとともに、お客さま一人ひとりにその良さをご理解いただき、その優れた走りを楽しんでいただけるようよりよいクルマを提供することが、わたしたち自動車エンジニアの使命と考えています。 |
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@高トルク化→電流位相制御(最大トルク制御) A高速化→弱め界磁制御 B高効率化→最適電流位相制御 ![]() 図4 モータ制御への織り込み技術 |
![]() 図5 プリウスのインバータの構成部品 |
| 次回は、ハイブリッド自動車の最先端である燃料電池自動車の語をしたいと思います。 *本文中の用語について:JlS用語で定めた表記を用いましたので、「モータ」「インバータ」と表記しました。 |
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