保存情報第20回
登録有形文化財 滝学園 高橋敏郎/愛知江南短期大学

滝会館

講堂

本館

所在地:愛知県江南市東野
登録番号:第29回1045番1〜2
●滝文庫(滝会館)/大正初期竣工
●滝学園高等学校本館/1926年(昭和元)竣工、RC造
●滝学園講堂/1933年(昭和8)竣工、RC造
■紹介者コメント

 数年前、地元江南市から調査研究の委託を受け、「21世紀の江南市の施設と市民参加のあり方」について報告書に仕立てた。近代建築の調査も行なったが、江南市にはめぼしいものはほとんど残存せず、がっかりした思いがある。そんな中で滝学園だけが十分価値のあるといえる建築であった。そこで今回は滝学園を紹介したい。
 江南市にある滝学園高等学校は愛知県内でも有数の進学校で時計台のある学校としても知られている。
 滝学園の本館はRC造で、時計台の載った正面入口は大正建築の特徴を表す貴重な遺産だ。本館前に建つ講堂はやはりRC造で、1933年(昭和8)竣工であり、本館とともに内装はプラスター塗りであった。1963年(昭和38)、映画『高校3年生」のロケ舞台ともなったように、いかにも学園らしいたたずまいを見せている。1996年(平成8)の創立70周年を機に本館を建て替える計画があったが、卒業生をはじめとする関係者の保存への要望に対応して、建物は大改装され維持されることとなり、2001年(平成13)3月に登録有形文化財に登録されている。
 一方、滝文庫は旧滝家別邸の庭につくられた木造建築で、明治末か大正初期の建築と考えられるが、創立年は不明である。一時は滝学園の図書館、あるいは教場として使用されたもので、内部はとくに見るべきものはないが、大正建築の雰囲気を残すなかなかによい外観である。現在は高校の補習授業に時折使用されている程度で、建物の老朽化が進んでいるためこの先が心配である。

登録有形文化財 名古屋市庁舎 山上薫/山上薫建築事務所

前川國男のコンペ応募案
所在地:名古屋市中区三の丸3
建設年代:1933年(昭和8)
登録番号:第10回328番
■紹介者コメント

 名古屋市庁舎の外観設計は懸賞募集された。559の応募案の中から平林金吾の案が一等に選ばれ、一部修正を加えて実施に移された。構造や室内の設計は、構造力学の権威である佐野利器を設計顧問に、その弟子の桑原英治を招いて行なわれた。実際の設計は、市職員の松山基軌らが行なった。工事を担当したのは大倉土木(現・大成建設)。
 なおコンペには、コルビュジェのアトリエで修業中の前川國男が、パリからモダニズム建築案(右図参照)で応募して落選している。
 SRCの耐震耐火構造で、地下1階、地上5階、塔屋は地上10階、室数276、総面積は24,300u余。総工事費260万円。
 一等に入選した平林案は、高さ53mの中央塔の上部に二層の屋根をしつらえ、最上層の四注屋根先端に四方にらみのシャチ(鉄骨銅板葺き)をのせて、名古屋城との調和を図った意匠が評価された。当時の社会は日本調の帝冠様式を求めており、名古屋市庁舎は隣の愛知県庁舎とともにその代表作品となった。
 内部意匠は市職員の藤井信武が名古屋城本丸御殿を念頭に設計した。玄関ホールや階段の大理石は、国会議事堂で使われている良質の「小桜」(山口県産)の余材を使用したもので、この大理石を使っているのは国会議事堂以外では名古屋市庁舎だけという。1933年(昭和8)に完成。翌年、人口は101万7,700人に達し、名実ともに100万都市となった。
 近代建築史においては、帝冠様式は負のイメージで捉えられているが、約70年を経た現在、この建物がわれわれの記憶の中に深く根を下ろしていることに思いを巡らせ、前川案と見比べると、どちらが良かったのかは、にわかに判断し難い問題ではなかろうか。(参考資料:『東海の近代建築』他)