クルマが変わる−電気パワーと自動車の進化−  第2回
燃費の良さは回生ブレーキにあり
朝倉 吉隆
(トヨタ自動車)
 前回はハイブリッド自動車、電気自動車の歴史と地球環境問題、エネルギー問題と自動車の関係についてお話させていただきました。今月号では自動車のハイブリッドシステムの仕組みとその特徴について説明を進めます。
ハイブリッド自動車の種類
 ハイブリッド自動車の種類、方式、技術は多くの種類がありますが、ここでは車軸(タイヤのことです)をどのように駆動するか、動力の分配方式による分類を説明します。
1)シリーズ方式
 ハイブリッド自動車のシステムは、エンジン、発電機、モーターとインバーター(直流を交流に変換する装置)、バッテリー(駆動用の蓄電池)から構成されます。シリーズ方式は、@エンジンが間接的にバッテリーを通じてモーターを支援する方式、Aエンジンの出力でモーターへ電気を送るほか、バッテリーへの充電も行ないながら、モーターを駆動する方式(図1のSHV)がある。エンジンからモーターへの動力の流れが直列になっていることからシリーズ方式と呼ばれる。トヨタコースターハイプリッドEVがこのシリーズ方式を採用しています。
2)パラレル方式
 パラレル方式はB二つの動力源が前後の車輪をそれぞれ別に駆動させる方式(図1のPHV)、C駆動軸は一つで、二の原動機(内燃機関とモーター)が同軸でつながり、同時に駆動力を発生させる方式、D蓄電池、モーターの代わりに蓄圧機やフライホイール(はずみ車)を用いる方式があります。動力の流れが並列(並行)になることからパラレル方式と呼びます。日産のティーノHVや本田のシビックハイブリッドはこのパラレル方式になります。
3)パラレル・シリーズ方式
 名前のとおりパラレル方式とシリーズ方式を組み合わせた方式です。運転状況に応じてエンジンとモーター、発電機を使い分けたり、両方作動させたりします。発電機を単独に持っていることと動力分配装置があることが特徴です。トヨタのプリウスハイプリッドシステム(THS:Toyota Hybrid System)が代表的です。
 さて、前回の冒頭でも触れましたが、「大気環境の保全」「二酸化炭素の削減:温暖化抑制」「化石燃料枯渇への対応:エネルギー・燃料多様化への対応」は自動車社会、技術開発にとって大きな課題となっています。ハイブリッド技術はこれらの課題解決に大変有効な技術となっています。ここでは燃費向上の考え方を中心に話を進めます。

図1 ハイブリッド自動車のシステム
燃費向上の仕組み
 図2は自動車におけるエネルギーの流れを示したものです。ガソリンエンジンの熱効率はおおよそ30%です。エンジンの発熱、機械回転や摺動による摩擦損失など廃熱が1/3、排気ガスによって捨てられるエネルギーが1/3、残りの正味熱仕事といわれる1/3が自動車を走行させるエネルギーとなります。さらにエアコン、ランプなど補機に使われるエネルギーがあるため、結局ガソリンエンジンの車両全体の総合効率は15%程度と言われます。そのエネルギーは自動車の運動エネルギー(1/2MV、;Mは車両質量、V、は走行車速)に変換されますが、車を停める制動時にはブレーキの熱エネルギーとなって放散されます。
 燃費を向上させる、すなわち走行中に発生するCO、を低減するためには、エンジンの効率を高める、機械損失をできるかぎり少なくするだけでなく、車両の走行抵抗(車体の空力抵抗)を低減する、車両質量を軽くする(軽量化)などさまざまな取り組みの積み上げが必要となります。これに対して、自動車が停止する際に生じる制動時のエネルギー(普通の車ではブレーキの熱で放逸される)を電池に回収するのが「回生ブレーキによるエネルギー回収」です。これを実現するには、モーターを発電機として作動させブレーキカを得る、バッテリーに回収したエネルギー(電力)を貯蔵する、必要なときにはバッテリーから電力を持ち出して走行する、など回生ブレーキシステムが必要となります。電気自動車では、充電されたバッテリーの電力を使いながら、回生エネルギーを再度充電させながら走行します。ハイブリッド白動車の設計では、バッテリーの大きさ(充電容量)をどの程度の大きさにするのがよいか子どのくらいの頻度で充電したり、発電させたりするとよいのか、これらの充放電動作をエンジン、モーターの動きがギクシャクしないようにスムーズに制御させるなどきめ細かな制御設計をすることがポイントとなります。図3はプリウスのハイブリッドシステムの動作原理を示したものです。
 加速時(1)ではバッテリーから電力を供給されながらモーター走行で発進走行します。車軸の回転数が上昇すると(2)、エンジンが始動しさらに加速を強めます。平坦路での定速走行(3)ではエンジンを最適効率で運転させるため、余剰のエネルギーが出ます。これをバッテリーに充電させ、次の加速時に備えます。バッテリーの充電状態がいっぱいになったら走行中でもエンジンを止めてモーター走行に切り替えます(走行中エンジン停止)。減速時、ブレーキ時(4)には回生ブレーキにより(モーターを発電機動作させる)バッテリーに充電します。(5)もう一つの仕組みはエコランです。交差点での停車などエンジンを止める機能です。
 こうしたきめ細かなエンジン、モーター、バッテリー充電の制御を行なうことで、燃費の大幅な向上を実現しています。やりくり上手なおかみさんがバッテリーという貯金箱(銀行)にお金(エネルギー)を出し入れしながら、無駄な支出を抑えている、そんな例えはいかがでしょうか?
次回は、ハイブリッドを実現したモーター、電池など要素技術について話を移します。

図2 自動車におけるエネルギーの流れ

図3 プリウスのハイブリッドシステムの動作原理
参考文献:
(1)日本電動車両協会ホームベージ
http:www.jeva.or.jp/jpn/evm/history/index.htm1