| 石は語る 第2回 | |
| キラ・吉良・雲母 | |
| 足立守(名古屋大学博物館長) | |
| ノーベル賞の記念碑はスウェーデン産の御影石 | ![]() 2001年12月28日に設置された野依良治教授のノーベル賞受賞記念碑。記念碑は野依さんの研究を代表するBINAP触媒のベンゼン環を模して六角形に成型されている。記念碑後方の人物は、左から伊藤副総長、野依教授、松尾総長、奥野副総長 |
| 野依良治名古屋大学教授の2001年ノーベル化学賞受賞を記念した植樹と碑の除幕式が、昨年末の12月28日に名古屋大学で行なわれました。次世代の若者に「明日は野依先生のようになろう」、そういう気持ちでがんばってほしいという趣旨から、記念樹にはヒノキ科常緑樹のアスナロが選ばれました。記念樹の横には、野依教授の研究フィロソフィーである「研究は瑞々しく単純明快に」の文字(野依先生の直筆)が彫られた記念碑が設置されました。縦75cm、枇100p、高さ90cmの記念碑(写真1)には、ノーベルの故郷であるスウェーデン産の赤色の御影石(みかげいし)が使われました。 石材として利用頻度の高い御影石の名前は、六甲山麓の神戸市御影に由来します。六甲山地は約8,000万年前の御影石からできていて、古くから御影付近から切り出された石が石垣、敷石、灯籠、鳥居、石塔などに使われてきたので、産地の名前が石材名として定着しました。御影石は六甲山地だけでなく、北海道を除く日本各地に広く分布しています。 |
|
| 花崗岩地帯の湧き水は日本酒造りに最適 | |
| 地質学では御影石のことを花崗岩(かこうがん)といいます。主に石英、カリ長石、斜長石、雲母(うんも)などの鉱物からできている花崗岩は、シリカ(SiO2)を多く含むマグマが地下でゆっくりと冷えてできる深成岩のため、鉱物が大きく等粒状になっています。花崗岩の英語graniteは、粒子の英語grainと同じくラテン語で粒子を意味するgranumが語源になっています。 花崗岩にはカルシウム、マグネシウム、有機物などが少ないため、花崗岩地帯の湧き水はおいしい水になります。こうしたおいしい水は古くから日本酒造りに使われてきました。六甲の灘の清酒を筆頭に、広島の“加茂鶴"や新潟の“越の寒梅"、愛知の“明曄"“蓬莱泉"など、日本各地の名酒には花崗岩地帯の水が多く使われています。京都の伏見も日本有数の酒どころですが、この付近には花崗岩はなく醸造用の水が花崗岩と関係するかどうかはわかりません。伏見の地下水の水質が六甲のものと似ていれば、花崗岩が地表にはなくても地下に存在する可能性は大きいと思われます。 |
|
| 日本のペグマタイトの産地は岐阜県中津川市 | 岐阜県恵那郡蛭川村田原の黒雲母花嗣岩巾のペグマタイト(写真の横の長さ=約30p)。白い鉱物がカリ長石で黒い鉱物が黒雲母。写真は、豊蓬秋・青木正博著、保育社刊「検索人門鉱物・岩石』より |
| 花崗岩マグマが地下でゆっくり冷えて花崗岩になるとき、マグマ中のガス成分や鉱物に入りにくい元素(フッ素、塩素、ホウ素、ベリリウム、リチウム、ウラン、トリウムなど)が濃集して、普通の花崗岩にはごくまれな鉱物ができることがあります。たとえば、フッ素を含むホタル石やトパーズ、ホウ素を含む電気石(でんきせき)、ベリリウムを含むエメラルド、ウランを含む閃ウラン鉱などです。 花崗岩マグマの中にガス成分が多いとガスの圧力で地下に数cmから数mの空間ができ、その空間に鉱物が異常に大きく成長することがあります(写真2)。このように粗粒な花崗岩をペグマタイトと呼んでいます。10cm以上もあるような大きな水晶、長石、雲母などの鉱物は、すべてペグマタイトから見つかっています。ちなみに、世界最大の水晶はブラジルで見つかった長さ6m、直径1.5mの巨大な結晶です。この水晶は地下数qの場所に6mにも達する大きな結晶が成長できるような広い空間が存在していたことの証拠になります。普通は地下にこうした空間がないので、鉱物が成長していく過程で鉱物と鉱物がくっっき合って、きれいな結晶面をもった鉱物はできません。世界のどこの博物館でも、展示されている大きくてきれいな水晶の標本はペグマタイトから採集されたものです。日本でもっとも有名なペグマタイトの産地は、岐阜県の恵那市から中津川市にかけての地域です。その中心が中津川市北部の苗木や蛭川村の田原で、60cmくらいの黒水晶や10pもあるトパーズが採れたことがあり、今でも一年中鉱物マニアでにぎわっています。 |
|
| 吉良町の地名は雲母(キラ)に由来 | |
| 雲母は6角形の板状の鉱物で、ちょうど薄いトランプが重なったような構造をしています。雲母のこうした構造は劈開(へきかい)によるもので、劈開に沿って薄くきれいにはがれます。はがれた面に光があたると反射して、キラッと光ることから、雲母の古語(古い発音)として“キラ”あるいは“キララ”が使われていました。昔は和紙や壁土に雲母を混ぜたり板に雲母をすり込んだりして、光線の加減でキラッと光る場所の変化を楽しめるような優雅な工夫がされていましたが、今ではあまり見かけなくなりました。 忠臣蔵で悪役として名高い吉良上野介の所領は、現在の愛知県幡豆郡吉良町を中心とする地域でした。吉良という地名はこの地域のペグマタイトに含まれる雲母に由来すると思われます。その理由は、和銅3年(710年)にこの地域から雲母(キラ)が朝廷に献上されたという記録があり、古くから雲母の産地として知れ渡っていたからです。吉良町内でペグマタイトがでた場所は、町の東部の青鳥山付近で、電気石、リチウム雲母、緑柱石、ガーネット、モナザイトなどが報告されています。現在、この場所は吉良ゴルフ場の一部になっていて、残念ながらペグマタイトは見られません。 |
|
| ウラル産の大きな白雲母が窓ガラスの代用 | |
| 雲母には鉄やマグネシウムを多く含む黒雲母とそれらをほとんど含まない白雲母の2種類があります。普通は1〜5oくらいの雲母も、ペグマタイトでは10cm〜1mサイズの巨大な結晶も時々見られます。これまで見つかったなかで最大の黒雲母は約10mx4mx4m、重さ300トン、また世界最大の白雲母は約4.5mx3m×3m、重さ77トンという超巨大な結晶です(秋月、1997)。 ロシアのウラル山地は、南米のコロンビアからエメラルドが発見されるまではエメラルドの産地として有名でした。ウラル山地のペグマタイトからはエメラルドだけでなく白雲母の大きな結晶もよく採れたようです。白雲母は薄くはがすと無色透明で雨にも強いので、モスクワではウラル産の大きな白雲母が窓ガラスの代用品として使われたことがありました。白雲母の英語muscoviteのmuscovはモスクワ、iteは鉱物や岩石の語尾につける言葉を表しています。つまり、「モスクワでガラスの代わりに使われた鉱物」という意味が白雲母の語源になっています。一方、黒雲母の英語biotiteはフランスの鉱物学者Biotに由来します。 |
|
参考文献丁『山の結晶一水晶の鉱物学 .裳華房』秋月瑞彦(1997)148頁 |
|