保存情報第14回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 美濃街道・稲葉宿 林廣伸/蒲ム廣伸建築事務所
■発掘者コメント

 稲沢市は濃尾平野の中心部に位置し、市街化区域が13%台という農業地域である。一方、地名が示すように国分寺跡や、国の重要文化財に指定されている寺社も多く、歴史的景観の集積が見られるところでもある。1958年(昭和33)に稲沢町から稲沢市となったが、稲沢の地名は明治期の稲葉村と小沢村との合併に由来する。
 稲葉村の中心は、熱田から東海道と分かれ名古屋城下を通り大垣まで延びる美濃街道の稲葉宿である。愛知県下には他に清須、荻原、起の各宿があった。
 稲葉宿の現状は、街道沿いに近年の新築や改造を受けた店舗も見られるが、江戸期から明治期にかけての町屋が連なり、土蔵や近代の洋風建物も散見され、時間の重層が感じられる。
 とくに宿場東部に建っ山田邸は起り屋根に厨子二階部分を塗り籠とし、間口も広く重壮な構えを見せ、主屋に連なる高塀も心地よい。中央部の街道がわずかに湾曲するあたりでは宝光寺の山門も垣間見える。また、宿場西端では平屋の屋根に飾り瓦がのっているのも楽しい。
 この地区は、近年までは稲沢市における中心的商業地区であったが、現在では、郊外や新規の幹線道路沿いに商業施設が展開し、かっての活況は見られない。しかし、かえって良好な居住環境が得られるとも考えられる。
 県下の美濃街道の他の宿場と比して、歴史的環境の集積度や保存状態もよく、ぜひとも、行政・住民の一体となった町並み保存の展開を期待したい。
所在地:稲沢市小沢3,稲葉2,3西町2
登録有形文化財 南山学園 ライネルス館 尾関利勝/アルパック樺n域計画研究所
■紹介者コメント

 杁中の南、南山教会の付近は名占屋東部丘陵の景観を特色づける雑木林を今でも多く残している。子どもの頃、小学校へかよった途中にこの建物が建っている。丘の上の教会が子どもの目にはそびえるように見え、これをランドマークに南に道を取り、坂道をゆっくり登りかかると右手にライネルス館が見えてくる。今も大きく変わらない景観が嬉しい。当時、建築を深く観察はしなかったが、外観に黄土色の自然石を使ったRC造3階建ての建物は今も強く残っている。3階窓上に庇を回し、その上、窓割ごとに小さな山形の切り込みを開けたパラペットが冠のように見える。正面中央をせり出し、庇を出した1階玄関は4本の円柱を建て、南に向かって最上部に十字架をいただくヒンデルのデザインは、いかにもカトリックのミッションスクールらしく格調高い立校精神を表している。
 当時は大学校舎で、ご近所のこと、気軽に構内に出入りしていた。もとは旧南山中学校として建てられ、今は学園本部施設として使用される、リユースの良い例だ。ちなみに市内の学校建築では金城学院栄光館と東海学園講堂、愛知学院大学楠元学舎一号館が登録文化財になっている。この内前者2校は名古屋市の“文化の道構想''のある東区にあり、南山も当初、白壁界隈に校地を求めていたようだ。大正から昭和初期の名古屋の都市形成史を無言で物語る貴重な文化遺産である。
所在地:名古屋市昭和区五軒家町6
建設年代:1931年(昭和6)7月起工 1932年(昭和7)2月完工
構造:RC造地上3階建
設計:マックス・ヒンデル(スイス人)
施工:大倉土木(現大成建設)
登録番号::第23-OO14号