保存情報第13回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 尾西繊維協会 谷進/泣^クト建築工房
■発掘者コメント

 尾西とは尾張西部地域を指す。この地域は江戸期より綿作が盛んで、真清田神社門前の定期市(三八市)は、綿の流通の場として栄えた。京都より織法が伝えられ綿織物も盛んとなったが、明治時代の鉄道の整備および社会の変化を経て綿織物は毛織物へと転換が進んだ。昭和初期、尾西地域の毛織物生産は全国の38%にも達し、繁栄を誇っていた。
 そんな時期に建てられたこの建物は、清水組(現清水建設)の設計・施工により建設された。RC造3階建ての外壁はスクラッチタイル貼り。出隅と窓枠に石張り風の装飾が施されている。現状は塗装がかかり当時の仕上げは確認できない。窓枠はスチールサッシからアルミサッシに改修されている。玄関入り口のイスラム風ボーダーが珍しい。内部はトイレの設備や仕上げの改修が施されているが、大きな変更はされていない。事務室部分は冷暖房効果のために天井が張られているが、3階ホールは建設時のままのようである。現在は(社)尾西繊維協会が所有し、新築時と同様、毛織業、鱗、撚糸業、染色業の組合などが入居している。入居者らは改修を続けながらも、建物に愛着を持って使い続けていると聞く。
 近くに建つ煉瓦造のニチレイー宮工場(大正期建設)がつい先頃、惜しまれつつも解体された。歴史的建物も残りわずかとなり、街の記憶としてますます稀少価値を高めている。
所在地:一宮市栄4-5-11
建設年代:1932年(昭和7
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 名古屋地方気象台本庁舎 坂本悠/蒲L理社
■紹介者コメント

名古屋地方気象台本庁舎は、本山広小路通から少し西の末盛通へ向かい、北に登った丘陵地に市内を見下ろすように建つ。北側の細い道から望み上げるような車寄せへのアプローチは、手前の緑と背景の空に中央の観測塔が抜けるように強調されて、とてもさわやかで美しく、住宅地のスケール感にもしっくり納っている。
 竣工は1922年(大正11)で設計者は不明だが、今で言う国土交通省中部地方整備局によって建てられたものらしい。構造は観測塔を中心とした平家建の鉄筋コンクリート造ではあるが、今でも現役活躍中の観測塔は、最上部への階段と床だけが木造となっていて感触はなかなか良いものである。大正の終わりごろといえば、それまでのレンガ造からコンクリート造へ移り行く時期で、そのレンガ造り部分のみをコンクリート造に置き替えたものらしく、変わりゆく時代のプロセスが見られておもしろい。
 総務課へ訪ねて行くと突然にもかかわらず、気さくに対応してくださり、建物内部もていねいに案内していただけた。
 ゆったりした敷地へは一般公道からの出入りも一声掛ければ比較的自由で、散歩のルートとして楽しんでいる人もいる。少しガンバッて塔の屋上に登ると観測所らしい妨げのない景色が一望できるらしく、その開放感が建物への愛着をより深いものにしてくれている。
所在地:名古屋市干種区日和町2-24
建設年:1922年(大正11)建築